第77話 死を刻む呪いの痛み
「足元が見えませんけど、僕の手を離さずに進めばだいじょうぶですからね。」
「わ、わかった……。なんともこころもとないな……。少し怖いかも知れない。」
シルヴィオはもう慣れたものだったが、恐る恐る、といった感じでソロソロと歩みを進めるラヴェール王子の歩幅に合せたことで、かなりゆっくりとシュレア姫の部屋にたどり着いた。
「兄さまを連れて来ましたよ!シュレア姫!解呪の為の侍女も連れて来ました。」
影から外に出ると、ラヴェール王子は不思議そうにあたりをキョロキョロと見回した。
「ほ、本当に別の部屋に出るんだな……。」
「ようこそお越しくださいました。」
シュレア姫がカーテシーで出迎える。
早ければ明日、と伝えていたことで、楽しみにしていたのだろうシュレア姫は、室内をいつもよりもきれいに整え、お茶の準備をして待っていたようだった。
今日来れなかったら無駄になってしまうのに、よほど2人の訪問を楽しみにしていたらしい。シュレア姫の明るい笑顔が、少し悲しく見えるシルヴィオだった。
「シュレア姫の呪いについては、兄さまにも既に話してあります。まずは解呪を行いましょう。その為に侍女のシーラを連れて来ているので。それからゆっくりお茶にしましょう。」
「わかりました。おまかせします。よろしくお願いいたします。」
「任されました。」
とシーラが無表情に言う。
「刻印はシュレア姫の胸元にあるのです。兄さま、僕たちはあちらを向いていましょう。」
とシルヴィオが言うと、わかった、と一緒になって背中を向けるラヴェール王子。
服を脱ぐ衣擦れの音が聞こえ、シルヴィオはドギマギしていた。するとシーラが、
「……刻印を直接目にしたことは?」
と呟くように言ってきた。
「僕は目にしたよ。だから気付いたんだ。」
「私は見たことはないな。」
ラヴェール王子が対外用に、私という一人称を使いながらそう言った。
「でしたら、ご覧になっておいたほうがよいでしょう。死の呪いをかけられた人間の刻印がどういうものであるのか。シュレア姫、見ていただいてもよろしいですか?」
と尋ねる。
シュレア姫がちいさく、はい、と頷き、一部でしたら……と言うので、ラヴェール王子は振り返って、刻印を確認することにした。
「これは……!なんという……これが死の呪いをかけられた人間の胸に宿る、刻印というものなのか。紋章の形に皮膚が焼けただれているではないか。肉にまで食い込んでいる。こんな恐ろしいことを、よくも……。」
シルヴィオもちらりと後ろを振り返ると、服を脱いだシュレア姫が、胸元にドレスを当てて隠しながらも、そのデコルテ部分が見えている。シルヴィオが目にした時よりも、もっと刻印は肌に食い込んでいるようだった。
「これでは服がすれて痛かったでしょうに。よく声もあげずに我慢していましたね。」
シーラにそう言われたシュレア姫は、眉を下げながら微笑んで、頭を振った。
小さい頃から人質として生きる生活に慣れすぎて、我慢が当たり前になってしまったのかも知れなかった。
先日温室で会った際に、水で濡れて透けた胸元にこの刻印がなかったことから、呪われたのはつい最近だと思われるが、それでもこの傷跡は見ているだけで痛そうだった。
シュレア姫が人質になったのは、戦争を仕掛けてきたシュレア姫の母国のせいだが、彼女をこの塔に閉じ込めて、それでよしとしてきたのは、ラヴェール王子も同じだ。
つい最近知ったばかりのシルヴィオと違い、ラヴェール王子はかなり前からそのことを知っていた。
「これが他国で人質として生きるということです。この国の未来を背負う人間として、知っておいて損はないかと。」
シーラはそんな風に無表情に言った。
「そうだな。見せてくれてありがとう、シュレア姫。」
「いえ……。」
「死の呪いというのは、ただ与えられる死を待つだけのものではないのだな。刻印を刻まれた時点でその身を苦しめるものだとよくわかった。そのままでは辛かろう。早く解呪してあげてくれ。」
「では、これより解呪を始めたいと思います。お2人とも、再び背をお向け下さい。」
シーラにそう言われて、シルヴィオとラヴェール王子は背中を向けた。
「……上級聖水を直接塗り込みますから、少し痛いですよ。ですが我慢して下さい。必要なことなので。」
「……わかりました。」
シュレア姫の悲壮な声が聞こえたかと思うと、うっ……と、うめくような声が聞こえる。恐らく傷に上級生水が染みているのだろう。
「そ、そんなところにまで触れねばなりませんか?」
「刻印は全体に刻まれておりますので。」
「は……恥ずかしいです……。」
シュレア姫の恥ずかしがる声に、シルヴィオは、いったいどこに触れているのだろう?と頭がモンモンとしだしたのだった。
────────────────────
X(旧Twitter)始めてみました。
よろしければアカウントフォローお願いします。
@YinYang2145675
少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
ランキングには反映しませんが、作者のモチベーションが上がります。




