第62話 天使のような悪魔
カロリーナはその日をとても楽しみにしていた。当日はカロリーナも一緒に、教会まで子どもたちを出迎えに行くことになっている。カロリーナは両親と馬車に揺られながら、ワクワクする気持ちがおさえられず、教会までの道をソワソワと体を動かしながら過ごすことになった。
教会に到着すると、大勢の祭司たちが教会の建物の前で出迎えてくれた。チェルレッティ公爵家に子どもを引き取ってもらえるのだ。子どもたちの未来は確実に明るい。
成人して教会を出たあとは、祭司になれなければ仕事につくことが難しいことも多く、その結果、せっかく生かしても早死してしまうことも多いからだ。
「ようこそ。本日は事前にお伝えさせていただきました通り、祭司長も副祭司長も別件にて他の教会に行っており不在にしておりまして。代わりに対応させていただきます、副祭司長補佐のレーベンと申します。」
両手を交差して重ねるようにしてお辞儀をするレーベン。後ろに控えている祭司たちも同様のポーズをとっていることから、これが祭司たちの最敬礼なのだろうとカロリーナは思った。
「大勢での出迎えご苦労である。今日は娘のカロリーナも連れて来た。さっそく引き合わせて欲しい。娘との相性を最終確認したいのでね。」
「かしこまりました。アドリアーノとブランキーニャを連れてきなさい。」
副祭司長補佐がそう言うと、祭司たちがカロリーナと同い年くらいの子どもたちを連れてくる。
どちらも暗い茶髪の子どもで、癖っ毛だ。ブランキーニャは肩にかからない長さ、アドリアーノは短く切りそろえている。
少しおどおどした様子で、手遊びをしながらこちらを見つめていた。
「ご挨拶しなさい、2人とも。今日からチェルレッティ公爵家の従者見習いとしてお世話になるのだよ。」
「アドリアーノです……。」
「ブランキーニャです、よろしくおねがいします。」
「よろしく、アドリアーノ、ブランキーニャ。私はチェルレッティ公爵。こちらは妻と娘だ。」
「よろしくね、2人とも。」
「カロリーナですわ。よろしくおねがいいたします。2人はわたくしと同じ学校に通う可能性もあると聞いていますわ。仲良くしてくださいましね。」
カロリーナがニコッとすると、ブランキーニャが釣られたように、おずおずと微笑んだ。控え目な印象で、カロリーナは人見知りっぽいアドリアーノよりも、ブランキーニャのほうが好きだと感じた。
「──おや?あと1人はどうしたね?」
「あと1人、と申しますと?」
「紹介状にはもう1人、ガスパール、3歳と書かれてあったのだが?」
それを来た祭司たちはザワザワしだす。
「まさか……ガスパールを?」
「祭司長さまは何をお考えなんだ?」
「私たちではとても判断出来ないぞ……。」
こっそりと紹介状にガスパールの名前を書き加えた祭司の女性は、ギュッと握りこぶしを強く握りしめながら俯いていた。
「この際外に出してしまおうとお考えなのだろうか……。」
「いや、ありえないだろう、一生閉じ込めるものかと思っていたのに。」
「どうかしたのかね?」
一向にガスパールを連れてこない祭司たちに、チェルレッティ公爵が首をかしげる。
「は……その……。」
「娘との相性を最終確認する必要があるのだ。早く連れて来なさい。」
中央聖教会に付属するこの教会は、不可侵領域ではあるが、主に貴族の寄付で生計を立てている。ましてや公爵相手ともなると、こちらの不手際を言い出せなかった。
「……ガスパールを連れて来るように。」
最終的に副祭司長補佐であるレーベンがそう言ったことで、祭司たちはガスパールを連れに地下の牢獄へと向かった。
このまま見せるわけにはいかないので、手早く湯浴みをさせて服を着替えさせる。そうして久しぶりにサッパリした姿で人前に姿を現したガスパールを見たチェルレッティ公爵家の面々は、ほう……とため息をついた。
金髪碧眼の、天使と見紛うような愛らしい見た目。その子どもがニコッと微笑んだ瞬間、全員が思わず庇護欲にかられた。
なんて可愛らしい子どもなんでしょう、とカロリーナは思った。この子が弟だったら、どんなにいいだろう、と。
そんなガスパールは、カロリーナを見て、デブだな、と内心眉を潜めていた。だが顔の作りは悪くない。両親の顔を見る限り、その見た目は受け継いでいるようだと思った。
痩せれば可愛くなりそうだ。仮にも公爵令嬢だし、痩せさせて嫁にしてやってもいいな、と考えていた。そうすれば、自分が次期公爵になることが出来るだろう、と。
この間は失敗した。やり過ぎて王族に目をつけられ、牢獄にまで閉じ込められてしまった。大きくなるまでチェルレッティ公爵家で息を潜めていれば、大きくなったガスパールに誰も気が付かないだろう。
『その時に、あいつに仕返ししてやる。確か王子だと言ってたな。あいつに近付くには、チェルレッティ公爵家はいい隠れ蓑だ。』
ガスパールはシルヴィオの顔を思い浮かべながら、どす黒い感情を隠して微笑んだ。
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