第61話 チェルレッティ公爵家
「──わたくしと年齢の近い、幼い孤児を引き取るんですの?」
カロリーナは朝食の席で、両親から従者見習いの孤児を引き取ることになったと説明を受けた。
「ああ。私たちは定期的に教会から孤児を引き取り、従者見習いとして育てているんだ。教会を出ると、暮らせない平民も多いと聞くからね。すべての子どもを救うことは出来ないが、やる気があるのに場を与えられないというのは、悲しいことだろう?」
目を細めながらチェルレッティ公爵家が言う。これはチェルレッティ公爵家が代々続けていることであり、カロリーナも婿を取るのであれば、いずれ引き継ぐように、と言い含められた。
「あなたの従者のミアナも、もとは教会から引き取った孤児だったのですよ。」
母親から言われてミアナを振り返ると、ニコッと愛情のこもった微笑みを返してくれた。
「もしもお父さまお母さまが引き取ってくれなかったら、わたくしはミアナと会えなかったのですね……。」
「そうだね。平民は学ぶ機会が少ない。その分貴族よりも劣っているとする貴族も少なくないが、実際学ぶ機会を与えてみると、とても優秀な人間がいることに驚かされるよ。」
「チェルレッティ公爵家の推薦で、王宮につかえる子たちも少なくないのですよ?」
「そうなのですか?王宮は貴族の子息子女しかつとめられないものだと思っておりましたわ。」
「もちろん原則そうなのだけれどね。文官なんかは、学園を優秀な成績で卒業した平民がたくさんいるよ。騎士爵といって、1代限りの貴族位をもらう平民もいるんだ。」
「わがチェルレッティ公爵家からお城に上がる際は、男女ともに1代限りの準男爵位をいただいて、貴族としてつかえることになるのです。それが出来る貴族はあまりおりません。それだけチェルレッティ公爵家が紹介する従者が信頼されているということなのです。」
カロリーナは両親の言葉に感心したように目を輝かせて聞いていた。
「でも、わたくしの記憶する限り、そんな幼い子が我が家に来た覚えがありませんわ?見習いと言っても、最低でも12歳以上だったと記憶しております。今回はもっと小さい子だと言うことですわよね?」
「ああ、そうだね。これまでは、カロリーナが幼すぎたからね。年齢の近い子を引き取るのを躊躇していたんだ。」
「そうなんですの?どうしてですの?」
「ヤキモチを焼いてしまうだろうからね。」
「──ヤキモチ?」
「自分と年齢の近い人が、自分よりもずっといい暮らしをしていることを、納得出来ない人間は多い。子どもならなおさらだ。」
「親がいれば、親が従う姿を見せることで、自分たちの立場を学ぶものだけれど……。孤児はそうはいかないでしょう?ある程度己の立場を理解出来ている年齢である必要があったのよ。」
「子ども同士のこととはいえ、親のいないところで、男爵家の子どもが、候爵家の子どもがいい扱いを受けているのを見て、嫉妬で髪を引っ張ってしまった、なんて事件もあったからね。貴族でも、そこまで爵位に差があると、処罰せざるを得なくなるんだ。」
「子どものしたことでも……ですの?」
「王族相手ならもっと厳しいぞ?カロリーナもそろそろ知るべきだと思うから話すが、幽閉される、ならまだ優しいほうさ。手を切られたり……処刑だってありうる。」
「これはどの国でもたいてい同じ法律です。そのくらい、上位の王侯貴族というのは、危害を加えてはならないものなのですよ。」
「肝に銘じますわ……。」
ラヴェール王子もシルヴィオも、優しくしてくれるし、一緒に魔道具の研究をしているけれど、自分とは一線を引いた存在なのだな、とカロリーナは思った。
「わたくしが大きくなったので、小さい子どもを受け入れられるようになったというわけなんですのね?」
「そういうことだね。我が娘は理解が早くて助かるよ。まあ、それでもまだ幼いから、言い聞かせる必要が出てくる可能性はあるが、いつまでも受け入れないわけにもいかないからね。その子たちは、いずれ学校にも通わせる予定だから、優秀であればカロリーナと同じ学校に通う子もいるかも知れないね。」
「わたくし楽しみですわ!ちなみにいくつの子たちなんですの?」
「5歳の男の子と女の子がそれぞれ1人ずつで、3歳の男の子が1人だよ。」
「まあ、同い年の女の子がいるんですのね!ますます楽しみですわ!」
カロリーナは公爵令嬢であり、王子であるラヴェールとも親しいこともあって、王子妃を狙う貴族の子たちから、親ともども目の敵にされている。
本来であれば現在の王妃になる筈だった、チェルレッティ公爵家の令嬢を、今も想っている国王が、チェルレッティ公爵家から王太子妃を排出しようとしている、という噂が、まことしやかに囁かれているからだ。
実際王子たちと会う機会も多く、一緒に魔道具の開発なんておこなってしまったものだから、その噂に拍車をかけたのだ。
だからあまり同年代の友達がいない。
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