第60話 逃れる為の人身御供
そして内側を這う一本が、より深く押し込むような圧力を加える。それは本物の侵入を思わせるほどに生々しく、内側を食い破られるかのような錯覚をおこさせた。
まただ。また、今日も。
絶望が頂点に達する。涙が溢れ、抵抗の力が弱まる中、触手はリズムを刻むように動き、彼女の体を艶かしく揺さぶった。何度も刺激に慣らされた体は、ついにはしたなく声を上げることを止められなかった。
心が折れそうになりながら、彼女は必死に声を抑えようとするが、触手の動きがそれを許さない。
ガスパールは牢屋の鉄格子越しに彼女の表情をじっくりと観察し、唇を噛んで耐えようとする姿に興奮したように目を細めた。
触手が彼女の服をたくしあげ、胸元までずりあげてしまう。もうほとんど裸だ。だがそれに抵抗したり、文句を言う気力は、既に残っていなかった。
白い肌を全身真っ赤に染めながら、せめてこの声が誰にも聞かれていないように祈ることしか、彼女に希望は残されていなかった。
「だいぶ慣れてきちまったかな?反応がありきたりでつまんねえや。」
そう言うと、ガスパールは触手を操った。
「ヒイッ!?」
初めての感触に女性が恐れおののく。そこは今まで触れられたことのない場所。
「こっちも使ってみるか。」
ほんの気まぐれ、ちょっとした興味のように、ガスパールは触手でそこに侵入を試みた。
「もう……やめて……お願い……」
かすれるような声で祭司の女性が懇願するが、ガスパールは聞こえないふりをした。
時には優しく撫で、時には強く締めつけながら、触手はリズムを変えて、本来侵入する場所でないところに侵入を試みた。
「やっぱなんもないと無理か。じゃあこうするか。」
触手がどろりと粘液を先端から吐いた。
それを潤滑液に、侵入を試みる。だが頑なに入口が拒んでいる。ガスパールはいい暇つぶしとばかりに、のんびりと侵入出来るようになるまで見守った。
無理やり押し上げられる異物感に吐き気がする。痛みしかない。これの何がいいのか。
女性にはさっぱりわからなかったが、ガスパールは、やっぱり生は違うな、と終始楽しげであった。
ガスパールが満足したのか、触手が離れ、彼女はようやく自由になった。服を直し、全身を抱きしめ、自らを慰めた。
「あの……。」
祭司の女性は先程いいかけて、ガスパールに聞いてもらえなかった言葉を伝えようとした。
「なに?」
「教会ではよい食べ物というのはありませんのでどうしようもないですが……。貴族の家に行くというのはどうでしょうか?」
「──貴族の家?」
興味を引かれたようにガスパールが首を傾げる。
「はい。貴族は施しのひとつとして、教会から孤児を引き取り、従者として働かせる為の見習いにすることがあるのです……。上位貴族から打診がありました。それに行ってみるというのはいかがでしょうか。」
まるで平伏すべき相手かのように、祭司の女性はガスパールに敬語を使った。
「ふうん、どの程度の貴族?」
「公爵家とうかがっております。」
「公爵……。公爵、候爵、伯爵、子爵、男爵、の順だっけか?王族の次に偉い貴族ってこったな。悪くねえな。そこに俺が行けるように手配しな。」
「かしこまりました。」
そう言うと、祭司の女性はすぐさま逃げ出した。教会の廊下を走り、自室へと戻る。体中が熱く、まだ触手の感触の記憶が鮮明だ。
汚れた服を着替えて、井戸に水をくみに行き、お湯を沸かして全身の汚れを拭った。
消えない異物感に絶望しながら、祭司の女性は一晩中泣き明かした。
次の日、誰にも気付かれていないだろうかと思いながら、周囲の視線を気にしつつ、祭司の女性は教会にあてた書類を管理している部署へと急いだ。
こちらを見ている男性の祭司たちは、あのことに気付いているのではないだろうか。そう考えると、羞恥に身が燃えるようだ。
チェルレッティ公爵家からの従者見習い要望への回答書が、書類の山の中にあるのを発見して引っ張り出した。
既に祭司長のサインが済んでおり、あとは提出するのを待っている状態だ。本来であれば祭司長の許可を得て、貴族に子どもを紹介することになっている。
祭司長はガスパールなどという、人前に出すに値しない存在を、貴族に、ましてや上位貴族に紹介するつもりなどなかった。一生地下牢に閉じ込めておくつもりでいたのだ。
だが、このままだとガスパールが教会から出ていくことはなく、世話係の役目である自分は、一生ガスパールから解放されることはないだろう。それは何よりも恐ろしいことだった。
貴族に紹介したことで、何が起きるかわからない。ガスパールのしたことで、責任を取らされる可能性だってある。
だが上位貴族の家なのだ。ここよりは確実によい暮らしが出来るだろうし、それを失ってまで、ガスパールが暴れることはないかも知れない。それにかけるしかなかった。
書類には2名の子どもの名前が書かれていた。祭司の女性は、ガスパールの名をこっそりとそこへ書き加えたのだった。
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