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第58話 シュレア姫の服が透ける理由

 温室の空気は湿気を帯び、珍しい花々の香りが甘く漂っていた。シュレア姫が丁寧に世話をしているのだろう。ベンチに腰掛けるラヴェール王子とシルヴィオのもとにも、その香りが漂ってくる。


 シュレア姫の突然の登場に驚きを隠せないでいる中、シュレア姫は依然としてお辞儀の姿勢を崩さず、丁寧に言葉を続けていた。


「この温室の植物たちは、わたくしが幼い頃から世話をしてまいりました。特に、あの棚の奥にある青色の花弁を持つフィポレウスという花ですが……それはストルツォ王国の秘宝とも言えるもので、特別な世話を必要とします。わたくしはストルツォ王国でも世話をしており、詳しいものですから、本日はその手入れのために参った次第です。」


 ラヴェール王子は興味深げに頷き、立ち上がって、拝見させていただいても?と言いながらシュレア姫に近づいた。


 シルヴィオも好奇心を抑えきれず、ベンチから立ち上がり、ラヴェール王子について行った。シュレア姫は白いドレスの裾を優雅につまんでカーテシーをしながら微笑んだ。


「よろしければ、ご覧になりますか?」

 そう言って、シュレア姫は棚の奥へと案内を始めた。兵士と侍女が少し離れた位置で控え、静かに見守っている。


 温室の天井はガラス張りで、陽光が差し込み、植物たちを優しく照らしていたが、その天井には自動のスプリンクラーシステムが備え付けられていた。王宮の温室は、植物の湿度を保つために、定期的に霧状の水を散布する仕組みになっているのだ。


 一行が棚の前に集まった時、突然、天井からかすかな機械音が響いた。シュレア姫の顔色が変わる。


「これは……気が付かなくて申し訳ありません、スプリンクラーが作動する時間です。皆さま、急いで下がってください!」


 彼女の言葉が終わらないうちに、天井のノズルから細かな水の粒子が噴射され始めた。それは霧のように柔らかく、しかし一気に温室全体を湿らせるほどの量だった。


 ラヴェール王子はテレサの手を引き、素早く木の影に避難しようとしたが、シルヴィオは珍しい花に目を奪われていた為、動くのが遅れてしまった。

「シルヴィオ、下がれ!」


 ラヴェール王子の叫びが響く中、シュレア姫が素早く動いた。彼女は迷わずシルヴィオの前に身を投げ出し、自分の体で彼を覆うようにかばった。


 シルヴィオの小さな体を腕で抱きしめ、背中をスプリンクラーの方に向ける。驚いて身動きも出来ないシルヴィオ。霧状の水が一気に彼女の白いドレスに降り注ぎ、プラチナブロンドの髪が濡れて光沢を帯び始めた。


「シュレア姫!」

 シルヴィオが驚いて声を上げたが、シュレア姫は静かに首を振り、微笑みを浮かべた。


「大丈夫ですわ。……あなたさまのような高貴なお方を濡らしてはなりません。」

 そういうシュレア姫もストルツォ王国の王女だというのに、捕虜の身分である自分を卑下しているようだった。


 水の噴射は1分程で止まったが、シュレア姫のドレスはすっかり濡れ、軽く透けるほどに湿っていた。侍女が慌てて駆け寄り、タオルを差し出す。


 シュレア姫はそれを優しく受け取り、まずはシルヴィオの頭を拭いた。シルヴィオはほとんど濡れていなかったのだが、彼女は丁寧にすべての塗れた箇所を拭き取った。


「シュレア姫……申し訳ない。弟に気を使っていただいて……。」

 もうスプリンクラーからの水は来ないと思い、ラヴェール王子が近付いてくる。


 そして、シュレア姫の濡れて透けてしまった胸元から、思わずハッと目を背けた。ほんのり膨らんだ胸元から、下着が透けて見えてしまっていたのだ。


「ありがとうございます、シュレア姫。僕、ぼんやりしていて……ごめんなさい。」

 シルヴィオは眉を下げてお詫びを口にする。シュレア姫は穏やかに笑い、濡れた髪を耳にかけた。


「いいえ、構いませんわ。ここはわたくしが責任を持って任されている場所です。お客さまをお守りするのは当然のことです。」


「シュレア姫、ご迷惑をおかけしました。すぐに代わりの服をお持ちします。侍従を呼びましょう。」


 ラヴェール王子がサッと手を上げると、温室の外に待機していた従者が中に入って来て、ラヴェール王子から、シュレア姫の着替えをお持ちするようにと言われ、慌てて外に出て行った。

 

 すぐさま従者が戻って来て、用意された服にらラヴェール王子が眉をひそめる。

「──こんなものしかないのか?」


「は、その……。」

 従者が用意した服は、年若い従者の為の服だった。明らかに貴人に着せる為の服ではない。だがよく見れば、シュレア姫の着ている服も、それほど上等とは言えなかった。


 本来王侯貴族の服は、いくつも布が重ねられたドレスであったり、室内着であっても厚手の物だ。こんな風に濡れたくらいで透けるようなものではないのである。


 そもそもサイズもあっているようには思えなかった。恐らく大きくなるのを見越して、大きめの服をあてがわれているのだろう。まるで平民の子どもと同じである。


 それよりも少しマシな生地だというだけだ。王侯貴族ならば採寸し、体のサイズにぴったりあった服を着るものなのだ。その点をふまえてもシュレア姫の服はおかしかった。




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