第54話 痕跡をたどる儀式
従者に手を添えられながら馬車を降りる王妃さまを、あの日見かけた、ひときわ豪華な祭司服を身に着けた老人が、大勢の祭司たちを従えて出迎えている。
あの人が祭司長なのか、とシルヴィオは思った。強い魔法を放つガスパールを、たった1人で抑え込んでいたのだ。それもこれも、あの老人が祭司長だったからなのだろう。
あのままどこかに閉じ込められてでもいるのか、ガスパールの姿は見えなかった。
シルヴィオは思わずホッと息を漏らした。
「こちらへどうぞ。」
奥へと案内する祭司長たちについて、教会の奥へと進んで行く。
応接室に案内される。王族を通すには簡素な作りであるが、清潔に保たれており、それなりに歴史を感じる高そうな調度品が置かれていた。
「お手紙を拝見させていただきました。」
テーブルを挟んで座る祭司長の後ろに、若い祭司たちが立っており、シルヴィオと王妃さまの後ろには護衛の兵士たちが立っている。
祭司長はあの日手にしていた巨大な杖を床について、手放すつもりがないようだった。
本来であれば王族を前に、武器を携帯することは許されないが、これも中央聖教会が不可侵領域がゆえなのだろう。
「呪いで殺されかけた者に残った魔力の痕跡を探って欲しい、ということでよろしかったですかな?」
「ええ。その者はこのままでは死罪を免れません。ですが依頼主にたどり着くことが出来れば、罪の減免もやぶさかではありません。どうかお力添えをいただけませんでしょうか。」
不可侵領域の中央聖教会、しかもその支部とはいえ祭司長が相手ともなると、王妃さまも敬語を使うらしい。
「ふむ、よいでしょう。呪いに苦しむ人々を救うのは教会の役目。この老骨でよろしければお力をお貸しいたしましょう。」
「ありがとう存じます。これは心ばかりですが教会に寄進させていただきます。」
王妃さまがそう言うと、後ろに控えていたレジーナが、両手で持てる大きさの宝箱を、お辞儀したまま差し出した。
「これはお心遣い痛み入ります。主神もあなたの信仰心をご覧になっていらっしゃることでしょう。」
若い祭司が宝箱を受け取り再び下がった。
これで依頼は完了だ。
「ところで、その呪いをかけられた人物は、今どこに?」
「ここに連れてきております。魔力の痕跡は時間とともに薄れゆくもの。少しでも早いほうがよいと思い、気が急いてしまいました。現在は罪人の身でありますが、この部屋に通してもよろしいでしょうか?」
「あい、構いませぬ。たとえ咎人たろうとも、その肩が雨に濡れるのであれば、神は一晩の宿を貸し与えるでしょう。」
レジーナがお辞儀をして部屋を出て行くと、護送用の馬車に乗せて連れて来ていたメリッサを、護衛を伴って部屋に連れて来た。現状罪人の為、手枷がつけられている。
「この者が呪いをかけられた者で相違ありませんかな?」
「はい、間違いありません。」
王妃さまがそう頷く。
「わかりました。それではさっそく儀式に移りましょう。わたくしは身を清めて参ります。その者を着替えさせるように。」
「承知致しました。」
教会独自のポーズなのか、若い祭司は両手の拳を半ば組むように交差させ、そのままうたた寝する時の腕枕のようなポーズをとって頭を下げた。
シルヴィオたちは祭壇の前に集められた。祭司の服を着せられたメリッサが、怯えたように祭司長の前に立っている。
「これより呪いの痕跡をたどります。人を殺すような呪いには、悪しき思念がまとわりついているものなのです。我々は神の力を借りて、魔力の痕跡とともに、そこに絡みついた悪意をたどり、必ずやあなたに呪いをかけるよう指示をした、背徳者に罰を与えましょう。」
祭司長が穏やかにそう言って微笑むと、メリッサは、はい、としっかり言い、涙を流した。祭司長は聖水が満たされた聖杯に人差し指と中指をつけると、指についた聖水をメリッサの額にグイ、とぬりつけた。
「我、善良なる魂を呪いし者をあぶりださんとす。我は敬虔なるあなたのしもべでありあなたの愛する子。神よ、この哀れなあなたの子どもを救い給え。愚かな罪人を暴き給え。どうか力をお貸しいただけんことを。」
祭司長がそう言うと、祭壇が光り、メリッサの額の聖水がそれに反応して光りだす。糸をつむぐように、シュルシュルと細い光りが聖水からのびて、空中へと立ち上っていく。
あれが魔力の痕跡と悪意を追いかける、聖職者のやり方らしい。光はまっすぐひとつの方向を目指して移動を始めた。
「あとは呪いを依頼した者とこの光がつながれば、私には呪いを依頼した者がわかります。少し時間がかかりますので、このままお待ち下さい。」
と祭司長が言った時だった。
ドカン!という大きな音と共に、祭壇が爆発して崩れ落ちる。
「な、なんだ!?」
「祭壇がいきなり!」
もうもうと煙が立ち上り、それが隙間風に飛ばされてすぐに消え失せた場所に立っていたのは、ニヤリと笑うガスパールだった。
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