第51話 依頼主の正体
「なるほど⋯⋯。」
「──あ!」
「なんですか?」
突然、目を丸く見開いて、大きな声を出したメリッサに、シルヴィオが驚く。
「一度だけ、別の人間がついて来たことがあったんです。」
「別の人間?それはどんな人ですか?」
「木の陰に隠れて、フードを被っていたので姿までは⋯⋯。それに一言も発さなかったので、声もわかりません。ですが、剣を持っているのが見えました。」
「つまり、相手が騎士か傭兵だったと言うことでしょうか?」
「はい、いつでも飛び出せるようにしていたのか、鞘に手を添えていたことで、剣が前に出ていてその柄の部分に特徴的な飾り彫りがあったんです。私、どこかでそれを見た気がするのですが、どうしても思い出せなくて⋯⋯。」
「それ、絵に描くことって出来ますか?」
シルヴィオは聞き取った内容をまとめる為に用意していた紙束とペンを、メリッサに手渡した。
紙は貴重な為、家庭教師との授業でも計算等には使わないが、授業の内容を書き留めておく為に、ある程度の量が事前に渡されている。
「はい、絵は得意なので。ただ記憶があいまいなので、正確ではないかも知れませんが⋯⋯。」
そう前置きをしつつ、メリッサがペンを手に取り、紙に絵を描いてくれた。
紙に描かれた絵を手にしたシルヴィオは、アカシックレコードで似た装飾を検索した。
『これ⋯⋯かな?』
かなり特徴的だった為、それと思わしき装飾がひとつヒットした。それはストルツォ王国の騎士団が持つ剣に彫られる意匠だった。
ストルツォ王国は、過去に戦争に負けたことで、シュレアというお姫さまが、人質としてこの城のどこかに住んでいるらしい。
ラヴェール王子いわく、国王さまはシュレア姫をラヴェールの妻にも、シルヴィオの妻にもするつもりがないそうだから、単なる人質であり、2人に引き合わせるつもりがないのだろう。
ストルツォ王国としては、将来オークランド王国に留学予定の第5王子、ジャイロとシュレア姫を、人質の交換をすることで、シュレア姫を戻すよう要望を出しているようだが、それを国王さまが突っぱねているということは先日聞いたばかりだ。
ストルツォ王国としては、シュレア姫のほうが価値があると考えているらしい。人質の交換に応じないからこんな手を使ったのかとも考えたが、少なくとも王妃さまに毒が盛られたのはラヴェール王子が生まれる前だ。
シルヴィオと同い年だというジャイロ王子が生まれるよりも前の話なので、人質交換を突っぱねたことが原因ではないだろう。
戦争に負け、姫を人質に取られはしたが、虎視眈々と反撃の隙を伺っていたということなのかも知れなかった。
そこへ、
【デイリーミッションクリア。
王妃を狙った犯人を突き止めよ・その3。
侍女メリッサに聞き取り調査をせよ。
報酬:背後にいる人物の情報。
依頼主はストルツォ王国宰相、マリバ・ルーンベルク。】
と文字とともにデイリーさんの声が聞こえた。宰相とはまた随分と大物が出てきたものだ、とシルヴィオは思った。
だがこれで犯人の手がかりは掴んだ。後は証拠を手に入れて、それをメリッサのおかげということにすれば、なんとか死罪は免れるかも知れない。
だがメリッサを直接操っていた呪術師は死んでしまったし、一度だけ姿を現したという騎士も、利用されていたメリッサの目撃情報だけでは、濡れ衣を着せようとしているのだと言われてしまえばそれまでと言える。
「はあ⋯⋯どうしたらいんだろう。」
シルヴィオはメリッサにお礼を言って牢屋を出た後、自室に戻ってテーブルに両肘をついて頬杖をつき、ため息をついていた。
「どうかしたのですか?」
シーラがいつもの無表情な真顔で尋ねてくる。
「呪術師にかけられた呪いを、呪い返ししたら、呪術師が死んじゃってね⋯⋯。その後ろにいる犯人を捕まえる為に証拠が欲しいんだけど、どうしたもんかなと思ってね。」
とシルヴィオは振り返らずに言った。
「呪殺返しですか?」
「呪殺返し?」
「殺す為の呪いを跳ね返して、相手を呪い殺す呪術師のやり方です。」
「ああ、うん、微妙に違うかな。口封じの呪いを返したんだ。それでも相手の呪術師は死んでるだろうって、宮廷呪術師が言っていたよ。」
「口封じですか?それは、呪いをかけられた相手が死ぬ可能性のあるタイプの口封じですか?」
今度はシーラが質問してくる。
「うん、そうだね。舌が膨れ上がって気道を塞いでいたから、放っておいたら死んじゃってたと思う。」
「それでしたら、追跡可能かと。依頼主を特定することが可能ですね。」
アッサリとそう言うシーラ。
「え?どういうこと?」
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