第44話 実行犯を救え
「くっ……!卑怯者……!」
「さあ、わかったらいつものように、これを王妃の食事に盛るんだ。」
嫌そうに顔をそむけながらも、メリッサは相手が差し出した、茶色い布袋を受け取ったのだった。
声で男だとだけわかるその人物の後を、念の為追いかけるよう、ギィに念話を送ったのだが、途中でまかれてしまったようだった。しょんぼりした顔でギィが戻って来る。
「……このように聖水には段階があり、上級ともなりますと、管轄祭司クラスでないと作れないものとされております。
呪いは聖水でなければ解呪出来ないものであり、強い呪いは通常の祭司が作る聖水では解けないものとなるのですな。」
ちょうど呪いについての授業をしていた家庭教師が、聖水についての説明をしてくれていた為、シルヴィオはしっかりと家庭教師を見つめた。
「先生、上級聖水は、どの程度手に入りにくいものなのでしょうか?」
ラヴェール王子が家庭教師に質問する。
「管轄祭司自体の数が少ない為、非常に貴重なものだとされておりますな。だいたいこの国の伯爵家の領地の収益の、最低3年分とも言われます。まあ、滅多なことではそこまでの呪いにかかることもありませんがな。」
小柄でモジャモジャした長い黒髪の家庭教師が、長いあごヒゲを引っ張りながら言う。
呪いというのは、ダンジョンにいる呪いを使う魔物と遭遇する以外では、呪術師と呼ばれるスキルを持つ人間がかけることの出来るものなのだそうだ。
だがそれだけに、呪術師のスキル持ちについては、各国でも大体把握をしている。
だが孤児や奴隷の中に呪術師のスキル持ちがいた場合、国も把握出来ないケースがあると言う。
貴族であるメリッサの父親がダンジョンに行くとは思えない為、国が把握していない呪術師に呪いをかけられたのかも知れなかった。
上級聖水が伯爵家の領地の収益の3年分ともなれば、簡単に買える値段でもなければ、そもそも管轄祭司の数自体が少ないのであれば、作ってもらうことすら難しそうである。
王宮に勤める侍女たちは、基本的に貴族の令息令嬢だと聞いている為、メリッサもどこかの貴族の筈であるが、上級聖水を手に入れる手段か、お金がなかったのであろう。
つまり、デイリーさんはメリッサを救ってやりたいのだろう。上級聖水がデイリーミッションの報酬というのは、そういうことだ。
「僕と王妃さまは、セフィーラさまの加護と祝福で毒を打ち消してもらえましたが、それがあれば今後呪われたりしなくなりますか?」
「それは難しいですな。呪いも毒も、加護や祝福があってもかかりはするものです。授ける時にそれまでの状態異常はすべて打ち消されるものとされておりますが、それ以降新たに状態異常を防ぐものではありませんので。」
つまりまたメリッサがまた毒を盛ろうと思えば、それは新たに毒を消す手段を考えなくてはならないと言うことだ。
王宮側ではまだ犯人どころか、毒を入手したルートも掴めていない為、もちろん従者たちもそれを見越してグナの葉を、王妃の分まで用意することだろうが。
「特に王妃さまに盛られた毒は、銀の食器にも反応しない特別な物でした。多少の毒であれば、ラヴェール殿下の場合、加護に弾かれるかと存じますが、そういった特別なものや強い毒であれば、加護があっても毒におかされるかと存じます。」
昨日の夕食の時点で既に、王妃さまの食事が出来た後、配膳前に毒見役が毒見をした後の料理を、更に小分けして、薬師と錬金術師に成分分析を依頼した。ですが、毒は検出されなかったようですね、とシーラがどこから仕入れてきた情報なのか、教えてくれた。
既存の方法では見つけられない特殊な毒だということだ。それこそ、デイリーミッションでもなければ、犯人を見つけられないかも知れなかった。
【デイリーミッションクリア
王妃を狙った犯人を突き止めよ・その1。
侍女メリッサの秘密を探れ。
報酬:上級聖水
報酬は直接アイテムボックスに付与されます。】
と文字が現れ、デイリーさんの声が聞こえた。さて、問題は、どう理由をつけて、この上級聖水をメリッサに手渡すかである。
シルヴィオは、毒におかされていた王妃さまの体調が心配なので、面会したいとシーラを通じて申し込みをした。
たとえ王子であっても、国王と王妃に面会する際には、事前に面会申請が必要という、なんとも他人行儀な話だった。
すぐに許可が降り、明日、シルヴィオは王妃と昼食を共にすることとなった。
ちょうど家庭教師の授業も休みの為、昼食の時間を長く取ってもらえますよ、とシーラに言われた。
メリッサは王妃への給仕の為、その場に現れる筈である。翌日になると、シルヴィオはシーラを伴って王妃宮へと向かい、嬉しそうに待っていた王妃に、時間をとってもらえたことへのお礼をのべた。
【デイリーミッション
王妃を狙った犯人を突き止めよ・その2。
侍女メリッサに聖水を手渡せ。
報酬:侍女メリッサと会っていた男の情報】
シルヴィオが椅子に腰掛けると、デイリーミッションが発動する。メリッサは心なしか青ざめた様子で、王妃の食事を給仕していた。
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