第42話 八阪の転生した姿
教会の中では、祭司たちがそれぞれ与えられた役割をこなして仕事をしていた。まだ小学生くらいの年齢の、祭司服を着た子どもの姿も見える。
「……っち。なんで俺がこんなことしなくちゃならないんだよ。」
舌打ちしながら中庭で雑草を抜いている、シルヴィオと同い年くらいの子どもがいた。
小さな祭司服を身にまとっていて、しゃがんだ姿は丸っこく、一見すれば一生懸命に草むしりをしている健気な子どもだ。
金髪碧眼の愛らしい顔立ち。神に愛された子どもはこんな顔をしているんじゃないかと思える程に美しい顔を、醜く歪めている。
隠しきれない内面の醜さが、せっかくの顔すらも醜悪なものにしてしまっていた。
シルヴィオはそれを見た瞬間、思わず全身の毛穴がブワッと開いたのを感じた。
頭までがゾワゾワする。見覚えのある表情を浮かべたその子どもは、間違いなく八阪の生まれ変わりだと感じた。
「ガスパール!草むしりにどれだけ時間をかけているんだ?」
祭司服を身に着けた男性が、腰に手を当てながら、八阪──ガスパールを睨んでいる。
「ちゃんとやれば、この時間にはもう終わってる筈だぞ?」
そう言われたガスパールは、手に草を握りしめながら立ち上がり、ギロリと男性を睨んだ。
人を殺しそうなその目つきに、祭司服を着た男性は、一瞬ギョッとしたような表情を浮かべたが、
「頑張らないとまた最低限の食事になるぞ。頑張った分だけお恵みをいただけるんだ。せめてそこの壁までやるんだ。」
と教会の壁を指さした。
「──俺に命令してんじゃねえよ。」
ガスパールは祭司に手をかざすと、躊躇なく聖魔法で祭司を攻撃した。
ドカン!と物凄い音がして、祭司が土煙に包まれたかと思うと、風で土煙が流れて消えたところに、血まみれの祭司が痛みにのたうち回っていた。
自らの回復魔法で、慌てて傷を回復する祭司の前にゆっくりと歩み寄ったガスパールは、瞬きもせずに祭司を見下ろした。
「俺の代わりに草むしりをするか、このまま死ぬか、どっちがいい?選ばせてやるよ。」
と手に聖魔法をためながらそう言った。
「きょ、教会の中で人に攻撃するなんて!何を考えているんだ!」
傷を回復した祭司がガスパールを怒鳴る。
「うるせえよ。早くどっちか選べ。俺に命令出来る立場じゃねえって、もっとわからせてやろうか?早くしろよ、俺は気が短いんでな。」
ニヤニヤと笑いながらそう言うガスパールは、とてもシルヴィオと同い年の子どもには見えなかった。
魔法を使うと隠密が解けてしまう。シルヴィオは祭司を助けたものか、逡巡した。
そこへ、大きな物音を聞きつけた祭司たちが、大勢集まってくる。
「ガスパール……、またやったのか。」
その中でも、ひと際豪華な、金糸の編み込まれたバチカンのカズラと呼ばれる祭服と、ミトラと呼ばれる頭飾りのような帽子をかぶった、魔石のはめ込まれた魔法使い用の杖を手にした老人がそう呟いた。
「誰か、マルセロを救護室へ連れてゆきなさい。」
「はい。」
数人の男性が、マルセロと呼ばれた祭司を両脇から抱えて、この場から立ち去った。
「ガスパールよ、なぜ他の祭司たちを攻撃するのだね。」
祭司長である老人は、眉を下げながら優しくガスパールに尋ねる。
「俺に偉そうな口をききやがるからだ。」
それを聞いた祭司長は、フルフルと頭を振った。
「ガスパールよ。おぬしの力は神が人々を守る為に授けたもの。それをそのような使い方をしてはならぬ。」
「うるせえよ。俺に命令すんな。」
ガスパールは祭司長相手であろうとも、態度を崩すことがなかった。祭司長は、はあ、とため息をつくと、
「あれを持ちなさい。」
と軽く手を上げた。
「ガスパールよ、お前にはまたしばらく、仕置き部屋へと入ってもらう。そこでじっくりと反省しなさい。」
何人かの祭司が、手に魔法禁止の魔道具を手に持った。
「ちっ。」
「うわあ!」
ガスパールが魔道具を発動される前に魔法を放とうとしたが、それは祭司たちが慌ててボタンを押した、魔道具の力によってかき消された。魔法を奪われてしまえば、ガスパールとてただの子どもだ。
手錠のような魔法禁止の拘束具を身に着けさせられ、祭司たちに引きずられながら、それでもまだ大声で喚き散らしつつ、ガスパールは庭から消えて行ったのだった。
『相変わらずとんでもないな。』
シルヴィオは内心そう呟いた。祭司たちがいなくなった後で、ふとフィオレを見上げると、自らの体を抱きしめながら、ガタガタと震えているのが目に入った。
「どうしたの?」
と尋ねたが、消音行動で声がかき消され、その声はフィオレの耳に届かなかった。
ガスパールは魔法禁止の魔道具を付けられて、仕置き部屋とかいう場所に連れて行かれたので、当分姿を見ることは叶わないだろうと思い、シルヴィオはフィオレを連れて空間転移で自室へと戻った。
「どうしたの?」
消音行動を解いて、改めてフィオレに尋ねる。
「あの歪さがわからないの!?何よあれ、気持ち悪い……。あんなのが近くにいたら、そりゃあセフィーラさまだって体調を崩されるわ。」
怯えたフィオレは、何故かその日1日中シルヴィオから離れず、夜もくっついて寝ることになったのだった。
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