第4話 出生の秘密を探ろう
『ちなみに誰と入れ替えようとしてたの?』
「同じ日に生まれた別の赤ん坊とよ。そうと知らずに育てるなんて面白いじゃない?」
妖精はクスクスと楽しそうに笑った。
『少しも楽しくないよ。みんな困るじゃないか。』
「あなたは楽しくなくても、私たちには面白いの。妖精がよくやるイタズラよ。」
と言われた。
『そんな酷いことをいつもやっていたの?』
「そうね。時々ね。」
『そんなことを聞いちゃったら、これは返せないな。』
「どうしてよ!?返して!それがないと困るの!私の羽の一部なのよ!遠くまで飛べなくなっちゃう!」
『みんなを困らせてきた分、君も少しは困ったらいいと思うよ。君が反省するまで、これは没収させてもらうよ。ギィ、僕が寝ている間に奪われないように持っててよ。』
「ギィッ!」
ギィはシルヴィオから羽の一部を受け取ると、服をめくってその下に羽を隠して、返して!と詰め寄る妖精から飛び回って逃げた。
『返して欲しかったらしばらく僕の言うことを聞いてもらうよ。僕は動けない体だから、僕の代わりに色々調べる役目を引き受けて欲しいな。この世界について知りたいことも多いしね。』
「うう……。わかったわよぉ……。」
『君の名前はなんて言うの?』
「フィオレよ。普通人間になんか、妖精の名前なんて教えないんだからね!」
『君に用事を頼みたい時は、どうすればいいのかな?』
「心の中で呼べばいいわ。あなたの声は聞こえるから、すぐに飛んでくるわよ。」
『わかった。よろしくね、フィオレ。』
「ふーんだ!」
ふてくされたように、フィオレはプイッとそっぽを向きつつ、壁をすり抜けて部屋から出ていった。
そこへ乳母がやってきて、ご飯の時間ですよと告げ、シルヴィオを抱き上げてお乳を飲ませてくれた。背中をポンポンと叩かれてげっぷをすると、再び眠くなってくる。
シルヴィオは夢の中に落ちていった。
次の日目が覚めると、ギィが自分の頭の脇で丸くなっているのが目の端に見えた。
するとさっそく、
【デイリーミッション
出生の秘密を暴け・その1。
国王の書斎の鍵を手に入れよ。
報酬:スキル・鑑定】
と、声がして文字が現れた。
赤ん坊のシルヴィオには、到底不可能と思えるミッションだ。
出生の秘密……?
それがあのステータスの呪いに関係しているのだろうか、とシルヴィオは思う。
国王の書斎の鍵が必要ということは、父親は呪いの原因に関わっているのかも知れないな、と思う。
これはフィオレの出番だろうか。
いや、壁をすり抜けることが出来ても、鍵を持って来れるかがわからない、と思う。
それよりも、固有スキル、同胞の命のほうが最適だと思えた。眷属は他人の影に潜ませられ、影を通じて主人公のところまで物を持って移動が可能、とある。
つまりギィであれば、国王の書斎の鍵を持ってこられるということだ。恐らくはそれを前提としたミッションなのだろう。
もしも影をフィオレに奪われていたら、影の中を移動してギィに鍵を取ってこさせることが出来なかっただろう。
そう考えると、普通の人間よりも、シルヴィオの場合は影を奪われてはまずかったことになる。
『ギィ、国王の書斎の鍵を持って来てくれない?』
そう、心の中でギィに頼んだのだが。
「ギィ?」
困ったように首を傾げるギィ。国王の書斎の鍵がどこにあるのか、わからないからだろう。探すこと自体は、フィオレに頼んだほうがいいかも知れない。
鍵が見つかったらギィにそこに行ってもらって、持って来てもらえばいいのだ。
『フィオレ!ちょっと来て!』
シルヴィオは心の中でフィオレに呼びかけた。
「なによ、気持ちよく寝てたのに。」
今日もプリプリしながら、フィオレが壁をすり抜けてやって来る。
『国王の書斎の鍵が欲しいんだ。探してギィに教えてくれないかな。予備の鍵だとありがたいな。僕のところに持って来るのは、ギィがやるからさ。』
「ええ〜……。面倒くさ……。いいわよ、わかったわよ、やるわよ。」
そう言って、フィオレはどこかに飛び立って行った。
しばらくするとフィオレが戻って来て、
「鍵を持ってる人間と、予備の鍵を見つけたわよ?」
とシルヴィオに告げた。
『早かったね!ありがとう。ギィ、フィオレについて行って、その予備の鍵を盗んで僕のところに持って来てくれる?』
ギィもフィオレのように、自分の心の中の声がちゃんと聞こえているのか、シルヴィオは正直確信を持ったことはなかったが、ギィは、ギィッ!と言いつつ、全身を使って大きくうなずいてくれたので、どうやら通じているようだとわかった。
フィオレとギィが部屋を出て行き、しばらくすると自分の影の中からギィが姿を現した。
「ギィッ!」
と鳴いて鍵を手渡してくる。
『ありがとう、ギィ。』
鍵を手に握ると、
【デイリーミッションクリア
報酬:スキル・鑑定付与】
と、音声とともにウインドウが現れた。
ステータスを確認すると、スキル一覧に鑑定があった。
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