第38話 セフィーラさまとの謁見
「僕は図書室に本を読みに行くことにするよ。シルヴィオはどうする?」
「僕は自室で過ごすことにします。」
「そう。じゃあまた明日ね。」
そう言って、ラヴェール王子が部屋から出て行った。
「フィオレ、場所を案内してくれる?」
「もちろんよ!」
フィオレを手に乗せたまま、シルヴィオは空間転移のスキルで、精霊と妖精の森へと飛んだ。
森の中は薄暗く、肌寒い空気だった。
「普段はこんなんじゃないのよ。常に光がさしていて、冬でも温かいのに……。」
フィオレが独り言のように呟く。
足元の花は枯れかけ、草木も元気がない様子で、とてもそんな風だったとは思えない。
これも精霊が体調を崩していることによる影響なのかも知れないと思った。
「とりあえず、セフィーラさまに会ってみようか。案内して、フィオレ。」
「わかったわ。ついて来て。」
羽ばたくフィオレの後を追いかけて、シルヴィオは小走りに森の中を走った。
途中、フィオレを避けるかのように、前にあった木々がサアッと道を広げてくれる。
なるほど、こうやって普段は、森に入った人間を惑わして、迷子にさせているんだな、とシルヴィオは思った。
木々が動いて道を変えてしまえば、人の歩く道らしい道のない森の中だ。簡単に迷子にさせることが可能だろう。
しばらく進むと、巨大な木の根本に横たわるようにして、美しいドレスをまとった、水色がかった髪色の、足元まで広がる長い髪をした女性が目を閉じているのが見えた。
シーラも美しい女性だが、魔族だけあってか、どこか毒々しい美しさだ。だがその女性は透明感のある素肌をしていて、お姫さまとはこういう女性のことを言うのだ、とシルヴィオに感じさせる雰囲気を持っていた。
周囲には、心配した様子の妖精たちが飛び交っているのが見えた。なるほど、あれがセフィーラさまのようだ。
「セフィーラさま!」
フィオレも心配そうに近付いた。
「フィオレ!こんな時にセフィーラさまのおそばを離れてどこに行っていたのよ!」
「そうだぞ、フィオレがいなくなったことで、セフィーラさまは胸を痛めてらしたんだぞ!何も言わずにいなくなるなんて!」
セフィーラさまの近くにいた妖精たちの一部がこちらに飛んで来て、口々にフィオレに文句を言った。
「ごめんね、でも、どうにか出来るかも知れない人を連れて来たの。シルヴィオよ。」
そう言って、他の妖精たちにシルヴィオを紹介した。
「人間の子ども?」
「こんな子どもに何が出来るって言うんだ?」
妖精たちは、ジロジロと遠慮のない視線をシルヴィオに向けてくる。
「だいじょうぶですか、セフィーラさま。」
シルヴィオが声をかけると、セフィーラさまは薄っすらと目を開けてシルヴィオを見た。
「神の寵愛を持つ子ども……?」
と小さな声で呟きながら。
シルヴィオは思わずギクッとする。
神の使命を持ってこの世界に降り立ったことなど、誰も知る筈のないことだったが、セフィーラさまには見ただけで、そのことがわかるのだろうか。
神に最も近いとされるのが、精霊とされているということは、家庭教師の授業で教わっていたものの、そんなことまでわかるとは思わなかったので驚いた。
「ああ……。とても澄んだ空気を感じます。久方ぶりに気持ちいい……。」
嬉しそうに目を閉じて微笑むセフィーラさま。その姿が、とても綺麗だな、とシルヴィオは思った。
「初めまして。シルヴィオと申します。ひょっとしてセフィーラさまは、僕がどんな存在なのか、おわかりなのでしょうか?」
シルヴィオは顔を覗き込みつつ尋ねる。
「シルヴィオ、よい名ですね。あなたからは神の寵愛が伝わってきます。わたくしには神に愛されている人間がわかるのです。わたくし自身、神の寵愛をいただいているからでしょうか。見ただけでそれがわかるのですよ。」
セフィーラさまは弱々しいながらも、微笑みながらそう言った。思った以上に弱っているようだ。このまま話させてだいじょうぶだろうか?とシルヴィオは一瞬考える。
「ですが珍しいですね。精霊にも神にも、力を与える存在には、寵愛、加護、祝福と段階があるのですが、普通の人は祝福までしか授かれないものなのです。」
「人間に与えられるギフト、ですね?それは神の祝福だと聞いています。」
家庭教師の授業で教わった知識を披露するシルヴィオ。
「ええ。普通、人の子に等しく与えられるのは祝福までですが、まれに加護を持つ人間が現れます。ですが寵愛ともなると、とても珍しいこと。あなたは大いなる使命を持って生まれてきたのですね。」
セフィーラさまはにっこりと微笑んだ。
「僕はあなたを助けたいと思ってここに来たのですが、僕がいると空気が澄むとおっしゃいましたよね。ひょっとして、僕に何か出来ることがないでしょうか?僕は神さまからもあなたを助けるように言われているのです。」
デイリーミッションでセフィーラさまを救えと指示してきたのだから、これは神さまがお願いしてきたことで間違いないだろう。
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