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第3話 初めての眷属作り

 その塊が回転を止めると、

「ギィ!」

 と鳴き声をあげ、かっぴらかれた全白眼の目に、下から上に長い牙が生えている、黒い丸い体に丸っこい手足のついた、顔の部分だけ丸く白い、キモカワイイ感じの生き物が誕生した。


『これが僕の眷属なのかな?』

 心でそう思うと、ギッ!ギィ!と鳴きながら、その生き物がフワフワと空を飛びながら近寄ってくる。


 裾がドレープのように揺れているので、恐らくフードをかぶっているのかも知れなかった。初めての眷属に名前をつけてあげようとシルヴィオは考えた。


『よし、君の名前はギィだ!』

 喋れないので心の中で思っただけだったが、それが伝わっているのか、ギィは嬉しそうに空中をフワフワと飛び回りながら、ギィッ!ギィッ!と鳴いた。


 そこに先程の乳母が突然戻ってくる。慌てて、隠れてギィ!と心の中で叫んだ。ギィも慌てて隠れようとしたが間に合わず、ギィの姿はバッチリ乳母に目撃されてしまった──筈だった。


 乳母はまるで気にした様子もなくシルヴィオに近付くと、シルヴィオさま、お兄さまがいらっしゃいましたよ、と笑顔で告げた。


 どうやらギィの姿は乳母には見えていないらしい。ベッドの脇にに乳母が椅子を運んで来て、その上に抱きかかえた子どもを乗せた。


 椅子の上に乗せられた、小さな男の子がこちらをじっと不思議そうに見つめている。自分のステータスに第2王子とあったので、恐らくこれが第1王子なのだろう。


 母親は金髪に青い目をしていたが、この子どもは耳の下までの少し長めの、黒髪というには少し明るい髪色に紫色の目をしていた。

 自分はどちらに似ているのだろうかと考える。


 前世で見たことのある、希少な紫色のスピネルのような、濃い紫色だ。紫色というところに、異世界なのだと強く感じた。


 その子がベビーベッドの木枠の隙間から、そっと手を伸ばしてきたので、シルヴィオはその手を握り返してみた。すると男の子がニコッと微笑んだ。とても愛らしい表情だ。


 既に艷やかなまつ毛がビッシリと生えていて、整った顔立ちをしている。

「ラヴェール殿下、弟君にプレゼントがあるのでございましょう?」


 乳母にそう言われてコクッと頷くと、モジモジしながら小さな猫のぬいぐるみを差し出してきて、枕元に置いてくれた。


 どうやらこの世界にも猫がいるらしい。固太りした丸い体に手足のついた、デフォルメされたデザインのものだ。


 兄の気持ちが嬉しくてニコニコとしていると、弟君が喜んでいらっしゃいますわ、と乳母が微笑みながら兄に告げる。


「さあラヴェール殿下、弟君は赤ちゃんですから、そろそろお休みになる時間です。もっと大きくなったら一緒に遊べるようになりますから、それまで我慢なさって下さいね。」


 乳母はそう言って、ラヴェール王子の体を椅子からおろしてやると、その手を引いて部屋の外へと出て行った。


 赤ん坊の体は、お乳を飲むか、排泄をするか、泣くか、寝るか、しかやることがなく、シルヴィオは何回目かの眠りの果てに、ふと目を覚ました。


 すると、ギィが現れた時とは別の、白いモヤのようなものが空中をフワフワと漂っているのが視界の端に見えた。


 寝返りをうつことが難しい体では、そちらのほうに首を向けることが出来ずに、こちらに近付いてくるのを目線だけで追った。


 ゆったりと飛び回るだけのそれを見ていると、また眠たくなってくる。目を閉じていると、なにやら体の近くでモゾモゾと動き出したので、半ば寝ぼけた状態で、よく見ようとそれを手でパッと掴んでみた。


 何かが触れる感覚があり、目に近付けて見てみると、それはまるで透明の小さな下着のような形だった。


「──ちょっと!それ返してよ!」

 少女のような声がする。そしてツンツンと何かがシルヴィオの体をつつき始めた。何かを突き刺しているのかちょっと痛い。


『ギィ!助けてギィ!!』

 思わず心の中で叫ぶ。ギィッ!とギィが鳴いて、シルヴィオを攻撃している何かに突進し、どうやら捕まえたらしく、シルヴィオの目の前にそれを差し出してきた。


 それは可愛らしい少女の姿をし、透明な4枚の羽を持ち、鼠径部ギリギリのミニスカートをはいている、妖精のような生き物だった。


「ちょっと影をとろうと思っただけじゃない!なのに妖精の羽を奪うなんて!」

 羽、とはなんのことだろうかとシルヴィオは考える。見る限り普通に羽ははえているようだし飛んでもいる。


 そう考えていると、

「それよ!その手に持ってるやつ!」

 と透明な下着のような物を指さした。

 どうやらこれを返して欲しいらしい。


『返してもいいけど、影をとろうとしたっていうのが気になるな、影なんてとってなんにするつもりだったんだろう?』

 と逡巡した。


「う……。それは、影を盗むと中身を入れ替えられるからよ。慌てふためく人間を見るのが面白いの。」

 それを聞いたシルヴィオは驚いた。


『君、僕の心の声が聞こえるの!?』

「あなたからは私たちに近い力を感じるわ。だから声が聞こえるのよ。」

 と教えてくれた。


『ねえ、影って入れ替えたらもとに戻れるの?それなら一瞬だけ別人になるってだけだよね?なんの為にそんなことをするの?』


「戻れないわよ。私たちが入れ替えようとしない限りは。基本やらないけど。入れ替わった体が死ねば、そのままその体で死ぬの。」


 どうやら人の一生を左右するようなことを、イタズラとしてやろうとしていたようだった。



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