第2話 初めてのデイリーミッション
「仕方がない。もう時間がない。このままでは転生出来なくなる。彼の為に用意していた体があるから、ひとまずそれに入りなさい。
他の体は私の力で用意出来ないのだ。
君の為の体を作るのに力を使ってしまったからね。」
「え?でも、困難が待ち受けている体なんですよね?」
桐野は困惑しつつ言う。
「ああ、彼の為に用意した体は、私の加護が受けられない。だが、もちろん私もこのままにはさせない。」
創世神リヒャルトは、桐野の魂にそっと触れた。
「……君の魂そのものに祝福を授けた。転生したら、君を救う為の手助けがあるだろう。
君は、体にかせられた運命に抗い、彼に奪われた、君の為に用意した体の代わりに、世界を救って欲しい。言葉などはわかるようになっているから、安心してくれ。」
「わかりました。頑張ってみます。」
そうして桐野佳祐は、本来予定していた体とは別の体に転生すべく、神の門をくぐっていった。
──目を覚ますと、そこは天井に羽の扇風機が回る部屋で、桐野はベッドに寝かされていた。どうやら赤ん坊のようだ。
「まあまあ、シルヴィオさま。お目覚めになられたのですね。さあ、ご飯の時間ですよ。たくさん飲みましょうね。」
そう言って若い外国人の見た目の女性が、桐野をシルヴィオと呼んで抱き上げた。
ここはどこなのだろうか、と桐野は考える。部屋は異常に広くて、赤ん坊1人の為の部屋と考えるにはかなりおかしい。
内装も豪華でお金がかかっている感じがする。女性に抱かれながら乳を飲む。目が見えているということは、生まれたてではなく、かなり育っている筈だと桐野は考えた。
そこへ、従者のような女性を従えた、ドレス姿の貴婦人が部屋に入ってきた。かなり豊かな胸元をしている。
「私の子は元気にしているかしら?」
「はい、王妃さま。たくさんお乳を飲んですこやかに成長していらっしゃいますよ。」
桐野に乳を飲ませながら、若い女性が貴婦人に笑顔で答えた。
どうやらこの女性が母親で、王妃と呼ばれていたことから、桐野は王子に転生したようだった。なかなかいい条件の転生先であるにも関わらず、困難が待ち受けているというのはどういうわけなのだろうかと考える。
そこへ、
【デイリーミッション
母親の関心を得よ。
報酬:ステータス開示】
と、きれいな声が頭に響き、目の前に文字が書かれたウインドウが現れた。
これが神さまの救済措置ということだろうか?と桐野は考えた。
ひとまずやってみる他ない。
桐野は、あっ、あっ、と言いながら、母親らしき女性に手を伸ばしてみた。
「まあ、王妃さまに甘えられたいのですね。」
目を細めて乳母の女性がそう言う。
「まあ、シルヴィオったら。いらっしゃい。この母が抱いてあげましょう。」
母親が目を細めてシルヴィオを抱き上げた。すると、
【デイリーミッションクリア
報酬:ステータス開示。
ステータスオープンと唱えると、いつでも自身のステータスが確認可能となります。】
と再び音声とともに文字が現れた。
桐野はステータスオープン、と内心で唱えてみた。
名前:シルヴィオ・アキュル・オークランド
種族:人間
年齢:0歳
性別:男
職業:オークランド王国第2王子
レベル:1
HP:10/10
MP:10/10
精神力:30/30
攻撃力:10
防御力:10
俊敏性:5
知力:20
器用:10
幸運:1
魔法:
スキル:
固有スキル:復元の刻、同胞の命、導きの羽
称号:<****>
状態:呪い
──呪い。これがこの体の困難ということだろうか、と桐野は考える。ならば呪いをとく方法を見つけ出せば、それは解決するのかも知れないと思った。
今日から桐野佳祐ではなく、シルヴィオ・アキュル・オークランドなのだ。この名前にもなれなくてはいけないな、と思った。
ステータスに手を伸ばすと、触れることが出来た。固有スキルの部分の説明が表示される。
・復元の刻
時間の巻き戻し。現時点の最高時間は5秒。
・同胞の命
1日1体眷属を生み出すことが出来る。
眷属は他人の影に潜ませられ、影を通じて主人公のところまで物を持って移動が可能。
・導きの羽
攻撃そのものにも使え、当てた対象の行動を操れる。
と書かれていた。ステータスは低いが、固有スキルはなかなか便利なのではないかと思えた。母親が部屋から出ていき、乳母は部屋に残っていたが、しばらくすると人が呼びに来て、乳母も部屋から出て行った。
シルヴィオはさっそく固有スキルを試してみることにした。身動きの取れない赤子の体だ。眷属を生み出せばいろいろと助けになるだろうと思った。
だが見られたらまずいかも知れないので、念の為人がいなくなるのを待っていたのだ。
眷属を生み出したいと念じてみたが何も起きない。ステータス画面の同胞の命の部分を触ると、空中に黒いモヤの塊のようなものが生まれ、くるくると回転し始めた。
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