第18話 メイドサンドイッチの離乳食
「ふーん、なかなかいい住処じゃんか。魔王さまが器に入ったら、ここを新たな城にするのもいいな。」
レルグはひとしきりオークランド城を回って、シルヴィオの部屋に戻って来ると、そう言ってニヤリと笑った。
「なかなか、いい奴隷になりそうな子たちがいたわぁ。騎士団も魔法師団も、逸材が揃ってるわねぇ。楽しみぃ。」
シャイナはさっそく新たな奴隷としてツバをつける相手を中心に見て回ったらしい。
『や、やめてくださいね⋯⋯?』
ベッドの上に仰向けに寝ながら、困ったようにそう言うシルヴィオ。
「今は従うわよぉ。あなたの眷族なんだしぃ?まあ、魔王さまがその体を乗っ取ったら、そのまま魔王さまの眷族になるだけだから、その時奴隷にすることにするわぁ。」
「それより、ダリィからもう寝るわ。そこのソファー借りるな。」
『え?具合悪いの?』
「オレっちはワーウルフだからな。夜、特に月の出ている晩は能力が2倍になるんだけどよ。代わりに日中ダリィんだ。」
そう言って、レルグはさっそくソファーに横になって、腕を枕に寝息を立て始めた。自由な人だなあ⋯⋯とシルヴィオは思った。
「あー、やることなくて退屈!あなたが城の外に出ない限り、結界のせいで戻って来られないから、外に遊びに行かれないんだもの!早く大きくなってよね!」
『無茶言わないでよ⋯⋯。人間は成長が遅いんだから⋯⋯。』
眷族同士で遊んだり、影に潜って鬼ごっこをして時間を潰しているギィたちと違って、やることのないシャイナは暇で仕方がないらしい。
『シャイナもシーラみたく、人間に化けて仕事でもしたら?シーラは情報を集めつつ、僕を守りつつ、そうやって過ごしてるみたいだよ。』
「うーん、仕事ねえ⋯⋯。ここの制服ダッサイのよねえ⋯⋯。」
と、あまり乗り気ではない様子だ。
『シャイナなら何を着ても、誰より似合っちゃうんじゃない?シーラ、ここの城の人たちに人気だけど、シーラよりも似合って、人気出ちゃうかもよ?』
それを聞いたシャイナは、パアアアアッと表情を明るくし、
「それもいいわね!今のうちに奴隷にしたい子たちを、私の魅力で骨抜きにしてこようかしら!私がシーラなんかに、女の魅力で負けるわけないしね!」
と言って、手をパンと合わせた。
『ほ、ほどほどにお願いします⋯⋯。』
「──誰が誰に勝てるって言うの?」
そこに、メイド服を着たシーラが部屋に入ってくる。そろそろ授乳の時間なので、乳母と共にやって来るかと思ったが、それだと会話が出来ないからだろう。
「あーら、私に負けそうで悔しいのかしら?あなたじゃその服も、そんな程度にしか着こなせないものねえ?」
フフフン、と笑うシャイナ。
「あら、試してみる?」
と、どこまでも余裕そうなシーラ。
「今日からこの子の離乳食を始めることになったのよ。あなたもどうせならメイドになって、この子が育つのを手伝いなさいな。」
もう離乳食の時期なのか、と思った。首もすわったことだし、やはり生後5ヶ月程度は経過しているようだ。
生前親戚の双子が、片方は3ヶ月、もう片方は5ヶ月頃に首がすわり、ちょうどその頃から2人同時に離乳食を始め出したと、親戚が話していたことを思い出す。
確かアレルギーを確認しつつ、少しずつ始めるものだった筈だ。ということは母乳ももうしばらく続くのだろう。
おそらく今は柔らかくした固形物を与える時間で、乳母がこないということは、シーラだけでじゅうぶんということだ。
「いいわ、どうせ暇だしね!」
そう言って、シャイナは人差し指をくるりと回し、メイド服姿に変身した。耳も人間と同じ丸い耳になっている。
だがシーラと違い、まるでメイドカフェのような、超ミニスカなメイド服姿である。
「さ、料理を取りに行くわよ。」
「はぁ〜い、せんぱぁ〜い。」
新人メイドになりきって、部屋を出て行くシーラについていくシャイナ。
戻って来た2人が出してくれたのは、かなり柔らかくして薄めたおかゆのようなものだった。お米だ!とシルヴィオは目を丸くする。
もう2度と食べられないと思っていたので、この国にも米があることは嬉しい誤算だった。だが、味は美味しくなかった。
離乳食は大人と違う味付けだと聞いたことがあるので、こんなものなのかも知れなかった。せっかくのお米だったが、美味しくなかったのであまり量を食べたいとは思えなかった。のだが。
「はい、あーん。」
「もっと食べられるかしら?」
両サイドから、シャイナとシーラが、あーんで食べさせてくれる。
それも正統派メイドと、ミニスカメイドの格好で。メイドカフェに行ったことはないが、メイドカフェでもこんなことまではしてくれないんじゃないかと思えるサービスぶりだ。ついつい食べ進めてしまう。
⋯⋯まあ赤ん坊なので当然かも知れないが。本来初めての離乳食というものは、赤ん坊はそんなに食べるものではないらしく。
子どもに食に興味を持たせるのがうまいと、はからずもシーラとシャイナが、乳母に褒められることになったのだった。
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