第17話 新たな眷族
人間椅子の男は立ち上がり、シルヴィオに手をかざした。すると地中からツタがいくつも突き出してきて、まるでジャックと豆の木のように一気に成長したかと思うと、ドリルのようにねじれて攻撃をしてきた。
シーラはシルヴィオを抱いたまま、動こうともしなかった。やられない自信があるのか、それともシルヴィオがなんとかすると思っているのか。
シルヴィオは何をすべきかを考え──ツタのドリルに手をかざした。
すると次の瞬間、ツタのドリルが逆回転したかのように地中に潜ってしまう。
混乱しているかのような様子の人間椅子の男が、再びツルをドリルにして攻撃してきたが、またしても逆回転して土の中へと戻ってしまう。
「なるほどねえ。局地的にしか使えない復元の刻を逆手にとったってわけだな。」
感心したようにレルグが言う。
以前ギィたちが室内で遊んでいた時に、ぶつかって落っことしそうになった高そうな壺を、復元の刻を使って台座の上に戻したことがあった。
レベルが上がれば、もっと広範囲の時間を巻き戻すことの出来る復元の刻だが、今は狭い範囲にしか使うことが出来ない。
それでも、最初は5秒だったものが、今は5分まで巻き戻せるようになっている。相手を倒さなくてもよくて、1対1なら、これでじゅうぶんだとふんだのだ。
「そいつの能力じゃあ、今の器は倒せねえな。どうすんだ?お前自身がやるか?」
そう言って、シャイナを見て笑うレルグ。
「むうっ!わ、私が直接戦って、せっかくの魔王さまの器を壊すわけにはいかないもの。いいわ。私も従ってあげるわよ!」
と、シャイナはプン!とそっぽを向いた。
「“魔王の揺りかご”をクリアね。おめでとう。まさかこんなやり方で番人たちを従わせるとはね。思った以上の逸材だったわ。」
シーラは満足げに微笑んだ。
「さあ、眷族化の儀式よ。この2人を眷族として正式に認めるの。そうすれば、この子たちのように、いつでも彼らを呼び出せるようになるわ。私がいない時でも、器であるあなたを守れるようにね。」
つまりギィたちのように、いつでも城の中に呼び出せるということだ。だがギィたちは城の人間に見えないが、彼らは見えてしまうかも知れない。そうなると気軽に呼び出せるかと言われるとちょっと難しい。
『ギィたちはお城の中の人たちに見えないみたいなんだけど、2人はやっぱり見えちゃうよね?』
「いや?眷族化すれば、可能だぜ?」
『そうなの?じゃあ安心だ。というか、だったらシーラも僕の眷族にしちゃえば、人間に化けて城を徘徊しなくても良かったんじゃないの?』
「眷族化は、力の差があり過ぎると出来ないのよ。この2人が強いとは言っても、所詮は“魔王の揺りかご”の番人。従わせられるだけの力があるから、眷族に出来るというだけのことよ。私はあなたよりも強いもの。」
そう言って嫣然と笑うシーラは、ちょっとおっかなくて綺麗だな、とシルヴィオは思った。始祖の血を引くシーラは、やはりかなり強いほうの魔族らしい。
『わかった。じゃあレルグと、えと、』
「シャイナよ。」
『レルグとシャイナを眷族にするけど、その⋯⋯椅子さんはどうなるの?』
と、シャイナの人間椅子を見ながら、この人を眷族にするのは、ちょっと嫌だな、と考えていた。
「この子は私の奴隷だもの。私の眷族みたいなもの。所有物よ。私を眷族にするということは、自動的に私の奴隷も眷族になるわ。」
『そ、そう⋯⋯。』
嫌だけど仕方がないか、と内心ため息をつくシルヴィオだった。
『それで、どうすればいいの?』
「血の盟約を使うわ。あなたの血を、彼らの体内に取り込ませればいい。直接血管に送り込んでもいいし、飲ませてもいいわ。」
『じゃ、じゃあ、飲ませるほうで⋯⋯。』
直接血管に送り込む方法がどんなだかはわからないが、あまり気持ちのいいやり方ではない気がしたので、飲ませる方を選択した。
シーラが小さく立てた指を振ると、シルヴィオの指先に傷が出来、そこからぷっくりと小さな血の半円球が出来る。
「幾久しく、あなたのおそばに。」
レルグがそう言って、恭しくシルヴィオの手を取り、指先を口に含んだ。
「⋯⋯あんたの後とか、いやなんだけどぉ?絶対臭いじゃない。別の手にしてよね!」
と嫌がるシャイナ。
「オメーの加齢臭よりマシだっつの。」
耳をほじりながら言うレルグ。
「なんですって!失礼ね!」
「1000歳超えてるババーの加齢臭が、オレっちの鼻にはキツ過ぎんだよ。」
「エルフの1000歳は女盛りよ!」
と切れるシャイナ。
エルフは耳が長いものだとシルヴィオは思っていたが、シャイナは少し耳の先が尖っているだけだ。本当のエルフの耳とは、ああいったものらしい。
『別の手にするから、喧嘩しないで⋯⋯。』
そうとりなすように言うと、シーラにもう片方の指を傷つけてもらって血を出した。
「幾久しく、あなたのおそばに。」
シャイナもそう言って、シルヴィオの指を口に含む。レルグの時と違い、美人のシャイナにそうされることに、ちょっとドキッとしてしまうのだった。
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