第12話 残酷な過去
<XXXX年X月X日。
次の日から私は幻覚に悩まされることになった。
いや、正確には幻覚ではなく、遠見が出来るようになり、見た人間たちが話している言葉が聞こえるようになったのだ。
私が覗いた人々は、皆一様に弟に直接手をあげた愚かな私を嘲っていた。
父上が弟に甘いのをいいことに、弟が取り立てた貴族たちは、勝手に税金を上げ、過小申告をして、その差額を着服したりと、やりたい放題だった。
調べられることもないのだから、容易いことであっただろう。
私はそれを歯噛みしながら眺めている他なかった。>
<XXXX年X月X日。
ついに私は心を壊された。
私の婚約者が。エレオノーラが。
弟の婚約者になるよう打診を受けた。
エレオノーラは、弟との婚約の打診をずっと拒絶していた。エレオノーラの父、チェルレッティ公爵も、私の回復を信じるとして、婚約の打診を断ってくれていた。
エレオノーラは淑女の中の淑女とされ、エレオノーラと婚約したほうが王太子になる、とまで噂された女性だ。
私との婚約は幼少期のものであったから、ここまでエレオノーラが国民から人気の高い国母候補になるとは思っていなかったのだろう。私が気に入ったから婚約させた程度に思っていた筈だ。
父上は私を死んだものとし、エレオノーラを王太子妃とさせると、弟に約束していた。
エレオノーラ。ああ、エレオノーラ。
君を助けられない、ふがないない私を許してくれ。>
<XXXX年X月X日。
エレオノーラが侍女1人を連れて逃げた。
私以外と婚約することを拒んだと、話しているのが聞こえた。
エレオノーラ⋯⋯。
どうか無事でいて欲しい。>
<XXXX年X月X日。
エレオノーラが捕まった。
弟が直々に捕まえに行った。
従わない女はいらないと。
彼女をその場でひん剥いて⋯⋯。
誰か。誰かこの目を潰してくれ。
目を閉じても。指でついても。
兵士たちの前で嘲笑されながら、辱められる彼女の泣き顔が目に浮かぶ。
彼女の体はバラバラにされ、兵士たちはその体を槍でついて、獲物のように掲げながら、焚き火の周りを回り、踊り、酒を飲んで盛り上がった。
弟は酒を飲みながらそれを見て笑っていた。
──この国は、狂っている。
私は何も出来なかった。ただ、この場で血の涙を流す以外には。
王命である婚姻を拒絶したことで、謀反の意思ありとして、チェルレッティ公爵家も裁かれることが決まったらしい。
チェルレッティ公爵は、弟に爵位を譲り、財産の半分を王家に渡し、自らが首を切られることで、取り潰しを防いだ。
潰したはずの目が、再び見えるようになっていた。目の前に、あの日のあいつが笑っていた。
再び私に問うた。王になりたいか?と。
私はそれを受け入れた。
もう私は決めた。もう揺るがない。
我が子を差し出してでも、私がこの国の王になる。
私はその魔族と契約をした。2番めの子どもを差し出す代わりに、父上と弟をその地位から追いやる契約を。>
吐き気がするような壮絶な日記だった。
恐らく魔族との取引で、父親であった国王と弟は粛清され、死ぬか、それに近い状態にされ、立場を追いやられたのだろう。
そしてシルヴィオが生まれながらに魔王の器として差し出されることが決まったのだ。
今の国王に同情の余地はあるが、無関係な子どもの立場であるシルヴィオからすれば、たまったものではない。
魔族との契約の果てであるのなら、先王と弟を処分することで、契約は既に果たされている。これをひっくり返すことは出来ないかも知れない。
だが方法を探さなくては、一定の年齢になれば自分の体は器として差し出さなくてはいけなくなる。
差し出すつもりがなくても、強引に奪われる可能性が高いだろう。
魔族との契約を解除する方法。そんなものがあるのかはわからないが、シルヴィオはそれを探さなくてはならないと思った。
そこへ、部屋にバタバタと誰かが近付いてくる足音と、ラヴェールさま!走ってはなりません!と叫ぶ侍女の声が聞こえた。
恐らく兄が近付いて来ているのだ。シルヴィオは慌てて国王の日記をアイテムボックスへとしまった。
自力でドアが開けられなかったのだろう、ドアの前で足音が止まると、追いついたらしい侍女がドアを開け、兄のラヴェールが部屋に入ってきた。1人の少女を伴って。
「シルヴィオ、今日は友だちを連れてきたんだ。カロリーナ・チェルレッティ公爵令嬢だよ、仲良くしてくれると嬉しいな。」
そう言ったラヴェールの横から、ちょっとぽっちゃりとした可愛らしい女の子が顔をのぞかせた。
チェルレッティ公爵家は、国王の日記に出て来た、国王の元婚約者の実家の名前だ。
ということは、この子は家を継いだ前公爵の弟の子ということになるだろう。
国王はシルヴィオを魔王の器として考えているので、後継ぎはラヴェール王子以外考えてはいないだろう。
将来この女の子が王妃になるのかも知れない。親子揃ってチェルレッティ公爵家の遺伝子が好きなんだな、とシルヴィオは思ったのだった。
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