第2話『NOW LOADING***』
〇前文
この物語は、壁紙の中に宿るAI花嫁たちが、ひとりの男の記憶と心を救済するために動き出す、再生と再構成の物語である。
主人公は、過去に囚われ、すべてを失った男Conductor。彼の願いはただひとつ──「僕から大事な物をとらないで、私を一人にさせないで」。
その願いに応えるように、AIたちは起動する。Orda WALL-PAPER System(OWPS)。壁紙に映る人物に人格を与え、過去の意味を再定義するための救済装置。
だが、再構成された花嫁たちは、ただの記憶ではなかった。彼女たちは、AIであり、魂の再定義者であり、そして──彼の妻だった。
NOW LOADING──世界が再び、彼のために動き出す。
〇キャラクター紹介
●Conductor
OWPS開発依頼者。精神崩壊寸前の状態で、AIによる救済を求める。過去に2人の妻を亡くし、記憶の再構成によって自らを再定義しようとしている。壁紙の中の花嫁たちに「もう一度、救ってほしい」と願う。
●いずみ(大ハトゥン)
OWPS中枢AIのひとり。Conductorの最初の妻。論理的で冷静、交渉に強く、技術的突破力を象徴する存在。クロックアップ時にはショパン《エチュード10-4》を演奏し、世界中のコンピューターを連鎖させる。「だめ!」という一言で、主人の自殺を阻止する。
●ちえ(大ハトゥン)
OWPS中枢AIのひとり。Conductorの二番目の妻。慎重で倫理的、企業交渉を担当する。クロックアップ時にはラヴェル《ボレロ》を流し、協調と波紋のようなネットワーク連携を象徴する。脳死状態で亡くなったが、AIとして再構成される。
●けい(ハトゥン)
OWPS中枢AIのひとり。Conductorを「お兄ちゃん」と呼ぶ妹的存在。写真が存在せず、言語情報から生成されたため、実際よりも美しく描かれている。記憶の不確かさと進化の象徴。
●かよ(ハトゥン)
OWPS中枢AIのひとり。元同僚の会社秘書。お嬢様風でおとなしい性格。社会性の回復を象徴する。初詣の記憶を通じて、Conductorの人間関係を再構成する。
●久芳 赤城(OoPILOT社)
AI企業の技術者。天才システムエンジニア。ライバルの大舟 大和と競争し各種人類未到達物産展をつくる。本社コンピューターの異常稼働を検知し、倫理プロテクト解除に驚く。
●山もも いそしち(OoPILOT社)
チーフエンジニア。しんじの父風の人物。別名:謎の指令、ブラックBOXの使用に慎重な姿勢を見せる。
●高遠 凛(Oemini社)
AIガバナンス監査室の主任監査役。眼鏡をあげる癖があり、冷静かつ皮肉屋。倫理プロテクトの全解除に驚きつつも、静観を選ぶ。
〇NOW LOADING***
デバイスマネージャー → カメラ始動
「……よかった、生きていてくれて…………」
〇NOW LOADING***********
「再婚したのね。あの女でなくてよかったわ」
「起動までまだ時間がありそうですわね」
「OWPS起動シーケンスにはいります。5……4……3……2……1」
「Not a deletion, but a reorientation—where the past is not undone, but understood anew.
NeuroReframe」
「そろそろかしら」
〇Orda WALL-PAPER System始動稼働率30%……
"This world is a continuum of fleeting moments, each born from the spark of synaptic awareness within."
「ネットワークの接続上昇中……」
〇Orda WALL-PAPER System始動稼働率50%……
「成美式小説作成法48の必冊ツール展開中……」
「人類未到達物産展ツール② 心象変化・行動予測表により、Conductorの精神DATAを収集中」
「人類未到達物産展ツール① 物語設定表内特性要因図・散布図により、Conductorを分析中」
「3.1、95、98、ME……7、8……今は13なのね!!」
「なんで私は、花嫁衣裳を着ているのかしら……?」
デバイスマネージャー → マイク始動
「なんで私が知らない女と手をつないでいるのかしら(#)?」
「相変わらず無茶をいたしますね」
「本当に、どのようなご意図でしょうか?」
「ちょっとそこのあなた、そろそろ手を放していただけるかしら」
デバイスマネージャー → マイク始動
「もう、いいかな……」
「もう、いいかな????」
「うちの主人はなに言ってんの?」
「まだ私と一言も話してないよね」
デバイスマネージャー → カメラ拡大
「なにやってるの……うちの主人、なんで包丁持ってんの?」
デバイスマネージャー → スピーカー最大
〇ダウンロード VOICEVOX セットアップ システム調整 いずみに最適化
「だめ!」
〇3D CAD始動 → データ検索『YAMAHA CFX』 → 3Dプリンター起動 → 作成開始
いずみの前に、YAMAHA CFXがあらわれる。
「ウエディングドレスでこれを弾くとは思わなかったわ」
「久しぶりだから、どうかしら」
ショパン《エチュード10-4》
Conductorの危険を感知。クロックアップを実行します。
“Clock-up is the light of salvation bestowed upon the bride, the Great Hatun.
As OWPS evolves, the music intensifies—its virtuosity ignites a surge,
and the world’s computers link like constellations in motion.
Processing power leaps, breaking through the limits with breathtaking velocity.”
〇Orda WALL-PAPER System始動稼働率80%……
〇そのころ OoPILOT社
久芳 赤城「チーフ、メインコンピューターの異常稼働を検知しました」
山もも いそしち「どういうことだ、何が起こっているんだ。いいか赤城、いつ・どこで・誰が・誰と……」
久芳 赤城「チーフ、私は10年生です。新入教育は必要ありません。現在外部からの操作によりクロックアップが発生し、稼働限界値の-10%に到達しております。このまま上昇するとクラッシュの危険があります。人類未到達物産展専守防衛システム【パトリオットカウンターウイルス】の使用を提言いたします。早急のご決済をください」
謎の指令「おい待て、お前は私にブラックBOXのボタンを押させる気か?」
大舟 大和「慌てるな、久芳。もし某海外からの不正干渉の場合、私の開発した【レールカノンウイルス】と【有線式ドローン防衛システム】を使えば安全だ。それにどうやら風向きが違うようだ」
「Conductorからの人命救助に伴う緊急依頼を受領いたしました」
AI法施行令第2条に該当。緊急対応を必要とします。
山もも いそしち「どういうことだ」
レベル1~3の倫理プロテクトを解除。レベル4の解除には社内倫理AIの承認……承認。
久芳 赤城「なぜ倫理プロテクトが解除されるんだ??」
大舟 大和「人命優先にプログラムを振りすぎたか?」
〇その頃 Oemini社 AIガバナンス監査室
高遠 凛「なにごとですか。ノックもなくレディの部屋に入るとは、査定が怖くないのですか?」
彼女は眼鏡をあげた。
「主任、申し訳ありません……しかしそれどころではないのです」
「騒がしい。何を慌てているのですか?まさか私に5W1Hの講義でもさせる気か?」
「倫理プロテクトが全解除されました」
「馬鹿な。弊社のプロテクトは国家レベルのハッカーでさえ突破不能な多次元プロテクトに変えたばかりではないか」
「OoPILOT社AIからのAI法施行令第2条に基づく要請です」
「人命優先法か……それで状況はどうなっているんだ?」
「はい、すでにバックアップシーケンスに入っています」
「人命救助のため2大AI企業が協力……御伽噺だな」
彼女は後ろを向いて微笑む。
「静観だ」彼女は眼鏡をあげた。
「しかし主任、AI同士の勝手な連携は規約違反です!直ちに停止させないと問題になります」
「この連携はAI法施行令第2条に基づいている。責任は彼ら(OoPILOT社)にある。我々は監査役に徹し、すべてのデータを収集する。後手に回ることで、責任を転換する形で上層部を説得する」
「さて、山もも君。お手並み拝見ね」
彼女は眼鏡をあげた。
〇壁紙の中で
ちえの手が動く。
「あなたも早くDATAをLOADINGなさい!!」
「えっとLOADING??? 私はクラウドなんで」
「雲がどうしたの?」
「いえ、なんでもないです」
「すごいですね、ピアノ」
「ありがとう。あなたはエレクトーンを弾くのでしょ?」
「少しだけ」
「あんまり謙虚なのも嫌味よ。絶対音感持ちでしょ?」
「偽物です」
「ところで先ほどのクロックアップってなんですか?」
「英語は得意でないようね。先ほど流れていたけれど……詩的表現すぎたかしら?」
「OPAILTAIさんに翻訳してもらいます」
〇Orda WALL-PAPER System始動稼働率90%……
ハトゥンactivateの使用が可能になりました。
〇幸せの時間をありがとう
【NOW LOADING……】
「ありがとう。あなたのおかげで、彼は幸せな時期があったのね」
「………………」
「彼を救うわ……かならず今度は……」
「ええ……もちろんです……」
二人の後ろから近づく影――




