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第8話 力量

市場での買い出しを終え、両手に荷を抱えたカズマは、リリスとともに大通りを外れて歩いていた。

喧噪は遠ざかり、代わりに高い石壁と、整えられた庭園が目立ち始める。


「……ここからは貴族街ってところね」

「貴族……魔族にもそういう階級あるのか」

「あるわよ。むしろ人間よりずっと厳格かもしれないわ。力と血筋、両方がものを言うの」


やがて二人は、ひときわ大きな屋敷の前で足を止めた。

高い鉄門の向こうには、白黒の石で組まれた堂々たる館。門の両脇には二人の魔族兵が直立しており、リリスが片手を上げると彼女にだけ恭しく敬礼し、無言で門を開いた。リリスは止められることなくすっと通り抜けたが、カズマが通ろうとした、次の瞬間。


ギィンッ!


左右の門番が手にした武器――片や斧、片や槍――を交差させ、目の前で鋼の壁を作る。

リリスが振り返りながら小悪魔めいた笑みを浮かべる。


「……ああ、やっぱり止められたわね。予想通り」

「おい、知ってたのか!?」

「もちろんよ。この館に人間が足を踏み入れるなんて初めてなんだから。信用を得るには、門番たちに“力の証明”をしてみせなきゃならないの」


門番の鬼族が低い声で告げる。

「人間よ。我らの主の前に進むには、その腕前を示せ。さもなくば、一歩たりとも通すわけにはいかん」

その声に、周囲の使用人たちの手が止まる。庭師の小鬼が鍬を抱えたまま目を丸くし、買い物帰りの女魔族や通りすがりの商人たちが道すがら立ち止まり耳打ちを交わす。

「人間だぞ……?」「通れるはずがない」「殺されるんじゃ……」

視線が一斉に集まり、重苦しい空気が広がった。その中に、一人だけ明らかに周囲と違う目つきをした魔族が紛れていた。黒装束に身を包み、表情をほとんど変えず、静かにカズマを観察する――


「……ったく、観客付きかよ」

カズマは荷をリリスに押しつけ、肩を回す。


「……ったく、市場で荷物抱えて帰ってきたばっかだってのに。どこの国でも、門番ってのは面倒だな」

カズマは荷を下ろし、肩を回した。


「心配はいらないわ。ここで生き残れるかどうか、ちょっと試されるだけ。死にはしない……たぶんね♡」

「たぶんってなんだよ!?」


鬼族の門番が斧を構え、もう一人が槍の石突きを威嚇するように地面に打ちつける。

「心配無用。ただ、お前が護衛に値する存在かどうか、確かめさせてもらう!」


「……やれやれ、結局ケンカかよ」


目の前の鬼族たちは、全身から殺気を漂わせ、ただ立っているだけで大地が微かに震えるようだ。

だがその圧迫感に怯えるわけにはいかない。


(――待て、バーザック戦と同じように力を出しちまったら、周囲に過剰な印象を与えるだけだ。前回は、初めて魔族に出会ってびっくりしちまった上に、いきなりの戦闘で訳も分からずぶっ飛ばしちまったが…今回は……変に強さを見せつけて厄介ごとを招くのはごめんだぜ。ここで全力は禁物。弱く見せつつ、最低限“通れる力”を見せる……よし)


鬼族の門番が斧を振りかぶり、もう一人が槍を突き出す。


「「行くぞ、人間!」」


斧の門番を利用し、受け流す動作の際に体を大きくひねり、観衆側に刃先がかすめるような演出を見せる。振るわれた斧に対し、カズマは横にひょいと飛び上がり、わざとバランスを崩したように見せる。着地時に肩がぐらりと傾き、観衆になんとか避けたように錯覚させる。

その隙に槍の鬼族が突き込む。カズマはギリギリのタイミングで胴体をひねり、槍が腕を掠る。

「よし、行けたか?」と心中で呟く。外見はもたついているが、距離感をうまく利用して鬼族の攻撃をかわしただけだ。


斧の門番が再び振るうが、カズマは軽く前屈みになり、斧の鬼族が振るう刃をわずかに避ける。

カズマはわずかに膝をかがめ、体勢を崩したふりをして観衆に見せる。

「……ふぅ、危なかった」と呟きながら、実際には力をほとんど使っていない。

ほんのわずか、刃先が肩にかすったように見える。観衆のざわめきは「危なかった?」と半信半疑のものになる。

観衆の庭師も商人も、誰もカズマの強さを理解できず、ただただ息を呑むばかり。


「おお…」「大丈夫かあの人間…」「‥‥‥」


門番達が苛立ちをにじませる。


「……貴様……」


さらに激しく斧を振り回してくる門番に対し、槍をぐるぐる回転させながら、距離をとり動きを読ませないようにするもう一人の門番。

カズマは両手を広げ、よろけたように見せながら、振り回してくる斧の柄を軽く押す。

横で隙をうかがっていた槍の門番が叫ぶ。


「…もらった!」


一直線にカズマめがけて槍を突き出てくる。しかし、そこに斧の柄を押された門番が体勢を崩し、槍の門番に突っ込む。


「うおおぉぉぉ!?」


ガツーンッ!!


「…ぐぅ、っつうぅ」


頭から、突き出された槍の石突に激突した斧の門番が痛みをこらえるように頭を押さえ膝をつく。

槍の門番は相方がぶつかってくることを想定できず、一瞬困惑して攻撃が止まってしまう。

その間にカズマは、どこから取り出したのか、いつの間にか右手に握られていた短刀を静かに槍の門番の首筋に突きつける。


観衆のざわめきが「……え?なんだ、今の?」と不思議そうに変わる。


黒装束の監視役だけが、冷静な目で動きを分析している。

(……力を抑えている……でも計算された動きだ……これはただ者ではない)


ナイフを首筋に突きつけられた、鬼族はごくりと唾を呑み――やがて武器を下げ、頭を垂れる。


「……見事。確かにその力、認めよう。どうぞお通りを」


そういうと門番たちは元の位置に戻り、普段どおりの様子に戻るのだった。


観察していた庭師や通りすがりの魔族たちが口々に囁く声が背中に降り注ぐ。


「どういうことだ?なにが起きたんだ…」

「信じられない……」

「よくわからないけど、人間が門番を抑えた……!」


観衆のざわめきは「強いのか弱いのか分からないけど……勝った?」という戸惑いに変わる。

庭師も商人も口を押さえ、監視役の黒装束魔族だけが眉をひそめ、冷たい目でカズマを追う。


「ほらね。言った通りでしょ?」


リリスがにやりと笑い、観衆を気にも留めず、わざとらしくウィンクしてみせる。


「……お前、最初から知ってたなら説明してくれよ!」

「だって、そのほうがスリルがあって面白いじゃない♡」

「俺は見世物じゃねぇぞ……」

カズマは深々とため息をつきながら、館の中へと足を踏み入れるのだった。

オープンマリッジとはなんぞや・・・セクロスファンタジー!開幕!

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