9 狐狗狸さんの覚悟
いつもお読みくださりありがとうございます。
長らくお待たせしました、久しぶりの投稿。
最近忙しく、なかなか執筆の時間が取れず……申し訳ありません。
今後は2日に1話は必ず、できたら毎日投稿を行うつもりでおります。
暖かい目で見守ってくださると嬉しいです。
今後も霊専門カウンセラー狐狗狸さんをどうぞよろしくお願いいたします。
「僕のこと……」
「ああ、年齢、誕生日、好きなことなど色々だ。簡単なことでかまわぬ。いわば自己紹介だからね」
「自己紹介? だったらできるよ。日比谷誠13歳、3月31日生まれ。好きなこと……うーん、人間観察とか?」
「趣味が随分と渋いな」
「でも狐狗狸さんもカウンセラーしてるんだから人間……じゃなくて霊観察が得意なわけでしょ? おんなじだと思う」
「言われてみればそうかもなあ……」
狐狗狸さんは軽く相槌をうつと顔をあげ藤の花を見上げた。つられて誠も目をそちらにやる。ちょうど綺麗に羽が虹色に光る鳥が花の葉に止まった。
「わあ……」
「君はあの鳥は何を食べると思う?」
「うーん……人の魂とか?」
「……怖いもの知らずだな。」
誠は自分が今魂だけであることを完璧に忘れていた。
「そう? この風景にはぴったりだと思うけど」
「そうか……うん……そうか……いや、いい。他には? 何を食べると思う?」
「他? うーん……食べ物じゃないけど紅茶とか」
「……君は我を困らせるのが上手だな。」
「それよく言われる。志願理由書に長所としてかけるかな?」
「……君は褒められていると感じたのか……私が面接官だったら合否を迷うな。やめておくことを勧めるよ。」
どこまでも純粋な子供を前に狐狗狸さんは頭を抱えた。そもそも子供自体来ることが少ない世界だ。今まで子供の相手をした経験が悠月の尻尾の数ほどしかない狐狗狸さんにとって誠のような子は未知も未知の生命体だった。
「まあいいだろう。では目を瞑りなさい。」
言われた通りに誠は目を瞑る。感覚が研ぎ澄まされ、一層風が心地よく感じた。
「そのまま我が言った通りのものをイメージするのだ。目の前に紅茶のセットがある。君はソーサーを持ち、その上には花柄のティーカップが乗っている。中には……ダージリンあたりか?が入ってると思絵ばいい。きっと華のある香りがしてくるだろう。」
素直に狐狗狸さんの言葉通りに頭の中でモデルを作り、それらを動かしていく。なんとなく手にティーカップを持っている気分になった。小学校の頃の図工の成績を「想像力」という項目に頼りきっていた彼にとっては造作もないことだった。
「できたか?では続けよう。そのカップを持った手をまんま前へと出すんだ。先ほどの鳥がそこに止まりカップの中の紅茶を飲むだろう。」
「紅茶を?」
「ああ、君が先ほど言っていただろう?あの鳥は紅茶を飲むとね。どうだい? ソーサーの縁に止まりカップを覗き込むように飲んでいる。鳥の重さを感じてくるだろう?」
「ほんとだ。なんか言われるとそんな気がしてきた。」
「だろう? ではその光景をしっかりと目に焼き付け……いや、目を閉じているのだから無理だな……。魂に記憶させるんだ。その後ゆっくりと目を開け目の前を見てごらん。」
魂に記憶するというのがいまいちよく分からなかったがおそらくそのイメージを崩さなければいいのだろう。誠は指示に従い目を開けた。
「な!?」
「こら、紅茶を落としてはいけないよ。鳥が驚いてしまう。ほら、しっかりと持つといい。」
「で、でもなんで!? こ、紅茶なんてなかった……」
誠は驚いた。紅茶のソーサーが動いたことに驚いている鳥よりも驚いた。(誠の主観による判断である)イメージした光景が目の前に広がっていたのだ。自分の妄想が現実になったら誰だって驚くだろう。二次創作が現実になったら困るのとおんなじだ。
「ほら、そう思うからだんだん薄くなって消えてしまうんだ。言っただろう? 来た者の意識や記憶よってこの空間は形を変える。君が何かを想像し、それがこの空間にあって正しいものだと思えばその通りになるんだ。」
「な、なるほど……? あ、だからあの時ポケットに10円が?」
「ん? ……我はそれに関与してないな。この空間のみだぞ、そのルールが適用されるのは」
「え……?」
一体あのいちご飴のおば……否お姉さんは一体なんだったんだ。
「まあいいだろう。この世界は不思議なことが多い。我でもまだ把握できていないものがあるくらいだからな。」
「そうなの? この街の主なのに?」
「この街は我が作ったものであることは確かだが、もともと別の空間だったものを変形させたものにすぎない。だから色々とまだ不安定でね。どうしてこちらの世界に君たちが来てしまうのかも分かっていない。君たちが来る理由があったとしてもどうしてそれに常世が応えてこちらへ招いてしまうのか。それを解明することが今の我らの目的の一つだよ」
「そうなんだね。じゃあ僕たちはその解明の糸口になるかもなんだね」
「ああ、理解が早いね。できればこちらへ来る人は減らしたいと思ってる。少なからず魂に負担はかかってるだろうしね。まだ前例はないが来る前に魂が耐えきれず破壊してしまうこともあるかもしれない。そうなる前にどうにかしたい……否、どうにかするさ」
それが狐狗狸さんの一番の願いであることを誠はなんとなく感じ取った。そんなことを望んでいなかったらこんなことわざわざしないだろう。暇だとは言っていたが悠月の話からしてそれも本当かどうか怪しい。そもそもそんなに大事な魂を扱う仕事なのだ。半端な覚悟でできるものでもないのだろう。狐狗狸さんがどこか遠い存在に思えた。