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幕間



 私の名はヴィクトール。ヴィクトール・サマクストラ。

 エルフの名は長いから、これは通称だ。気軽にヴィクトールと呼んでくれ。


 どうしてエルフが商隊などにいるんだって顔をしているね。

 君はあまり旅の経験がないようだ。ここ石裂(せきれつ)大陸において、地獄の周辺を通過するなら、エルフだろうと何だろうと、固まって移動するのが一番だ。

 地獄からは魔獣がうじゃうじゃ沸いて出るからね。さしものエルフや獣人も、単独行動中に襲われるようなことは避けたい。


 ん? エルフは不老不死だろうって? どこから出てきたんだかねえその噂。

 確かに不老ではある。しかし不死ではないよ。

 魔獣にはらわたを食いちぎられたら、エルフとて死ぬ。君とおんなじにね。

 魔獣はエルフよりも人間の肉を好むという言説があるけれど、実際のところは分からない。人間とエルフが同時に一頭の魔獣に襲われたら、エルフの方がまず逃げおおせるからね。足も速いし、魔法も使えるし。


 ああ、そんなに気を悪くしないで。もし魔獣に襲われても、エルフたる私がきっちりと仕留めてあげるから。それを期待して、商隊の連中も私をメンバーに加えているんだろうし。


 そう、エルフは魔獣に強い。

 どうしてって……君、もしかしてあんまり魔獣に詳しくない?

 仕方がない、教えてあげよう。知識が生死を分けることもあるだろうから。


 エルフ、人間、そして獣人たちが住むこの石裂大陸の真ん中には、地獄と呼ばれる穴が空いているね。

 そして魔獣たちは、その穴から湧き出ている。

 地獄の構造はよく分かっていないが、純度の高い魔素が充満していて、だから魔獣が発生しやすい状態になっているのではないか、というのが我々エルフの見解だ。

 魔素というのは、説明しなくても大丈夫かな。魔法のエッセンス、魔法を構成する要素のことだ。地獄の魔素の純度の高さは、すなわちどのような魔法にも定着させられる柔軟性の高さを示している。

 ま、要するに地獄の中でなら、どんな難しい魔法でも指先一つで簡単にできてしまう、ということだよ。

 君たち人間は、地獄の中で一秒でも存在できないだろうけれど。


 そんな場所から生まれる魔獣の体には、魔素が90%以上含まれている。

 人間が10%、獣人が50%、エルフでさえも70%と言われている中で、90%というのは突出して高い。

 だから魔獣というものは、存在するだけで君たち人間にとって毒なんだ。

 君たちが獣を屠るようには魔獣を殺せないのは、そういう理由だね。


 具体的に言うと、君たち人間は、魔獣の魔素に耐性がない。

 強い魔素にあてられて、うまく考えられなかったり、行動したりすることができないんだね。

 ひどい場合は死に至る。

 強い魔素の最たるものが――君も知ってるだろう? 天使と呼ばれる存在だ。


 そう、たいていの場合は地獄の上空にいる。ものすごく強い魔素の塊だ。

 太陽のように強烈で、大地のごとく抗えない。忌々しいものだね。まあ、あれの行動原理は分かり切っているが。


「天使の目」は知っている? そうだ、天使と呼ばれる存在を目撃しても、その魔素の強さに焦がれ死ぬことなく、生き延びた稀有なる人間。

 そういう人間の魔素の耐性は、恐るべきものがある。おそらくはエルフをもしのぐだろう。

 もし会うことがあれば、色々と聞いてみたいものだ。きっと私と同じことを考える奴らから身を隠して生きているだろうから、なかなかお目にはかかれないだろうが――なに、エルフらしく気長に待つさ。


 話が脱線してしまったね。

 そう、天使の話だった。その天使は、魔獣を操っていると言われている。

 実際魔獣たちは、何かの指示を受けているかのような行動をとる場合がある。

 あと少しで獲物を殺せたのに、急に引き返したり、組織立って動いたり。

 凶暴さの中に奇妙な理性を宿しているんだ。

 厄介な存在だよ、魔獣というものは。


 ちなみに、獣人と魔獣は似て非なる存在だから気をつけて。

 魔獣は地獄から生じたもの。

 獣人は、人とけものが魔素によって結びつき、繁殖した結果生まれた存在。

 魔獣がこの大陸が発生した時から存在するのに比べて、獣人の歴史はまだ浅い。とはいえ強い戦闘力は刮目すべきところがあるし、理屈抜きで魔法を操ることができるのも強い。もっともエルフには遠く及ばないがね。




 おや、どうした、そんなに顔をこわばらせて。

 ああ、ようやく気づいたか。そう、魔獣の遠吠えが聞こえるね。

 足音と咆哮からいって狼型だろう。

 連中の特徴は群れをなし、かなり高度な狩りをすることだ。

 鋭い牙も厄介だが、丸太のように太い脚から繰り出される一撃も侮れない。俊敏だし、持久力もすごい。


 もちろん、ずっと前から気づいていたよ。エルフの長耳は飾りじゃないんだ。

 近づくまで黙っていたのは、いたずらに皆を混乱させたくなかったからだ。


 ――だって狼型の魔獣なんて、エルフの敵ではないからね。



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