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③白馬村に到着

 木曽路を抜けて、松本盆地にやってきました。長閑な田園風景が広がります。しばらく走ると塩尻市を抜けて松本市に至りますが、国道沿いの道というのはどこも似たようなものだと感じました。コンビニエンスストアやホームセンター、ドラッグストアや大手家電量販店、全国展開している飲食店いろいろ。ある意味、どれも見慣れた看板なので安心感がありますが、少し寂しい気もします。


 僕は、バブルが崩壊したころに成人しました。中央卸売市場で仕事をするようになり、市場目線でこの世界の変動を体験してきました。昔は、個人店が非常に多かった。市場には、そうした個人店の社長さんが買い付けにやってくるのですが、その人数が半端ない。仲卸の店舗の前は、我先に買い付けようとする人で溢れかえり、周辺は歩くことすらままならない。怒声が飛び交い、トラブルは日常茶飯事で、そんな中を下っ端の僕は走り回っていました。


 現在の中央卸売市場は、閑散としています。閑散としていますが商売が成り立っていないわけではありません。取引のシステムが変わりました。個人店の買い付けが著しく減少して、商品の多くは大手量販店が吸い上げるようになりました。対面での取引はありません。事前発注に対応していくのが市場の仕事になりました。


 そうした変化は、小売業においても一緒です。個人店が集まる商店街が寂れていき、ブランドを確立した大手が全国展開していきます。そこには資本力の差もあるので、個人店ではなかなか太刀打ちが出来ません。自然な流れかな……とも思います。ただ、そのように隆盛を極めたかに見えた大手も、今はネット販売の大波に対策を講じなければならない時代がやってきました。大きすぎることが仇になる場合もあります。もしかすると、これからの時代は、形を変えてまた個人店が活躍する時代になるのかもしれません。正解はないんだな~と思ったり……。


 国道19号線を走りながら、左側に視線を向けます。穂高の稜線が見えました。登山家が憧れる北アルプスの聖地です。まだまだ初心者の僕ですが、憧れはあります。しかし、山が高い。大阪に住んでいる僕からすると、スケールの大きさに圧倒されました。僕が住む摂津市からは北摂の稜線が見えますが、高くても600mくらいの高さしかありません。3,000m級は、その北摂の山を縦に五つ積み上げた高さなのです。


 ――スゲェ~!!


 これからあの3,000m級に、僕は挑戦するのです。そのこと自体が信じられない気持ちになりました。武者震いします。鼻息を荒くしながら、アクセルを回しました……。いや回せなかった。渋滞です。松本から先は、ゴールデンウィーク特需により観光客の車で一杯。隙を見てすり抜けをしながら、先を急ぎました。


 安曇野市から、県道51号線に乗り換えて大町市に向かいます。白馬まで、あともう一息です。この大町市は、10年前に僕が従兄の遺体を引き受けた場所なので、非常に思い入れがありました。あの時と、山の景色も同じ。先を急ぐので通過しましたが、下山後に一度寄ってみようと思いました。


 大町市から国道148号線に乗り換えます。木崎湖、青木湖と二つの湖を越えて、とうとう白馬村に到着しました。3,000m級の稜線が目の前にあります。白い雪を被っていました。ただ、天気は晴れ模様なのに、山の上だけ厚い雲が覆いかぶさっています。山頂は天気が悪いのかもしれません。僕が登頂するのは明日ですが、少し心配になりました。


 白馬村は、リゾート地でした。お洒落なペンションや山小屋が、区画整理されたなか整然と建っています。スキー場には雪が無くなったというのに、人がとても多い。庶民派の僕にはちょっと縁のない世界ですが、夏の避暑地としてこの白馬村で過ごせたら、さぞかしのんびりできるでしょう。そんな別世界を横目に見ながら、僕はスーパーカブを走らせました。リゾート地のさらに奥、二股を目指します。


 建物が無くなり、新緑の林の中を走っていくと橋に出くわしました。ここが二股です。二本の川が合流していました。その橋を越えてさらに進むと、道路わきに所狭しと車が停められています。これらの車は全て、白馬岳の登頂に挑戦している人たちの車でした。男性二人がスキー板を車に載せようとしています。バックカントリーを楽しんできたのでしょう。目の前にゲートがありますが、閉じられています。事前の情報通り、通行止めになっていました。この二股から5kmほど舗装された道路を登っていくと、猿倉登山口に到着します。


 この二股のゲートから猿倉までのアクセスは、基本的に歩きになります。ただ、中には白馬村で自転車をレンタルして登る方もいました。ゲートの左隣は小さな土手になっていて、そこを登ると猿倉への道にアクセスすることができます。ただ、車が登れないように大きめの石を等間隔に置いて遮断していました。でも、自転車なら通り抜けることが出来ます。僕のスーパーカブでも……可能です。


 ――ニンマリ。


 スーパーカブで猿倉まで走れることを確認した僕は、二股の橋まで引き返しました。橋の傍に「おびなたの湯」があるのです。今から汗を流すことにしました。現在の時刻は17時。日没は18字45分。時間はありませんが、ここまで来たのなら後は何とかなります。一日の疲れを癒したい。ただ、この温泉。露天風呂なのは良いけれど、人が多すぎました。

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