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6/7

侍女も初めて知る真実の裏側

楽しんでいただけたらうれしいです!



「正当な理由があるなら申し開きをするといい」


 ディオン殿下はガタガタと震えているばかりでなにも話すことができない。


「お、おそれながら申し上げます!」


 側近の一人が震えながらも声を上げた。


「その、ローグ侯爵令嬢はこのディオン殿下の婚約者となっておりましたが、」

「それは王子自身が先程破棄したのだろう? 人違いだったんだよね?」

「そ、そうです! その女はボクの婚約者になるために話をでっち上げたんです!」


 ここでディオン殿下が声を上げた。

 側近とヴェラール様が会話できたことで自分の話を聞いてもらえると思って。


「ですからボクはその嘘つき女に裁きを下しただけでっ⋯むぅぐっ!?」

「君はさっきからデタラメなことしか言わないね。聞きたくないからその口はしばらく閉じさせてもらうよ」


 ディオン殿下の口が閉じたまま奇妙な形に動いていて気持ち悪い。ヴェラール様の力ですね。あ、手でこじ開けようなんて殿下も無茶しますね。ケガしますよ。


「シルフィは嘘なんかついていないよ。彼女が話していたのは、僕のことだからね。シルフィが僕と出会った時は四歳だったんだから、覚えていなくても仕方なかった。けど、覚えていたんだ」


 ヴェラール様は愛おしそうにお嬢様を見つめている。


「顔がおぼろげでも、僕と一緒にいたことは覚えていた。それにシルフィは思い出してくれた。僕を見た瞬間にね。僕の名前も、僕との約束も」


『ヴェラール様はしょっちゅうこちらに降りてね、人間に話しかけたりするんだけど、話ができてもほとんど数年で忘れられちゃうのよね』


 アヴィが昔教えてくれた。ヴェール様と話ができたのはたいてい幼い子ども。人間は子どもの頃のことをあまり覚えていないものだ。


「人間は忘れる生き物だっていうけれど、完全に忘れるんじゃない。しまいこんで必要な時には思い出せるようになっているんだ」


 だから、『次に会った時に覚えていたら』ってヴェラール様は言ったのか。


「そうだ、お前が会いたがっている若草の君、だっけ? 探してあげようか」


 なぜそんな親切を? と不審に思ったが、ここはヴェラール様に任せることにする。

 ヴェラール様は土や木々、水の巡り、渡る風からこの国で起こったことならすべて読み取ることができるのだ。もちろん人間の記憶からも。

 まぁ、姉神様方は天界にいてもわかるらしく、そこは所謂年季の差というものだろうか。


 声が出ないディオン殿下へヴェラール様が人差し指を向けると、殿下の周りを光の環が取り巻いていき、それが殿下の足先から頭の上へと抜けヴェラール様の指先へ吸い込まれていった。


「ふぅん……これは興味深い」


 殿下の記憶を読み取った結果、なにやら面白いことがわかったようだ。


「そうだ、ここにいる人たちにも見てもらおう。君たちの出会いを」


 ヴェラール様の伸ばした手の上に現れた大きなガラス玉のようなものが浮かび上がり、そこに花咲き乱れるどこか庭園のような場所が映った。さらに映り込んだのは小さなディオン殿下と幼い頃のお嬢様に少しだけ似た少女の姿。けれどその髪色はお嬢様より幾分淡く、逆に瞳の色は些か濃い色合い。

 え、やっぱりこれって。

 

「もぐぐっ! うぐぐうむぐううう!」


 ディオン殿下の目がキラキラ輝いている。探していた少女の姿を見て興奮しているいようだが、そこへ特大の矢が放たれた。


「殿下、あれ、自分です」

「む、むむ?」


 放ったのはディオン殿下の後ろに控えていた護衛騎士の一人。

 ローグ侯爵家の分家にあたるコレオス子爵家の()()()だ。

 彼の外見はまさに若草色の髪と熟れた桃のような瞳。お嬢様とよく似た濃淡が異なる色合い持つ人物に心当たりはあったが、いやまさかとさっきまで除外していた相手だ。


「五歳くらいだったかと思います。うわぁ〜恥ずかしい」


 その顔は「うぇ〜、こんなの見たくなかったなぁ」みたいな表情だ。


「そう、王子が探していたのはまちがいなくその()だよ」


 もう一度言うが、()()()である。


「むううううっ!?」

「君さ、なんで女装していたの?」


 ヴェラール様の問いかけにコレオス子爵令息は家の事情だと答える。

 彼は遅くにできた長男で、元気に育つようにという願掛けで七歳になるまで姉君のお下がりを着せられていた。そのおかげか、すくすく育って無事に立派な騎士となったのだと。

 まぁ、願掛け中だったとしても王族主催のお茶会にドレス姿で行っちゃうあたりどうなの? と言いたいところだが。


「むぐぐうううぐぐうううっ!!」

「王子が、なんでいままで黙ってたんだー! って怒ってるけど」

「まさか自分のことだと思ってもおりませんでしたから」


 幼い頃に女の子の格好をしていたなんてそりゃあ忘れたい記憶だろう。コレオス子爵令息自身、なるだけ昔のことは思い出さないようにしていたそうで、お茶会のことだってヴェラール様が見せてくれたから思い出したのだとか。


「ローグ侯爵家の血筋は記憶力のない奴ばっかりか!!」


 お前にだけは言われたくない、この節穴王子が。

 あれ? 殿下が話せるようになってる。えー、あのままで良かったのに。うるさいから。

 

「さてと、茶番はこれで終わりだね。行こうか、シルフィ」


 阿鼻叫喚な周囲はもう放置で、ヴェラール様の目にはすでにお嬢様しか映ってないようだ。


「行くって、天界にですか?」

「もちろんだよ」


 甘やかに瞳を細めるヴェラール様に対して、お嬢様は。


「あの、ヴェラール様! もう、あと半年だけ待っていただけないでしょうか!?」




 …はい?



読んでいただきありがとうございました♪

次回は6/4予定です。

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