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侍女が取り戻した過去

過去話な回になりました。

楽しんでいただけたらうれしいです!


『お願いします! 私を生き返らせてください!』


 私は、ミラはあの病で一度死んだ。


『奥様が亡くなられて、ようやく笑顔が戻られたのに私までお側から離れてしまったらシルフィ様の笑顔がまたなくなってしまったら……』


 大好きで大切なお嬢様の笑顔を守りたくて。

 ずっとそばにいたくて。

 それを聞き届けてくれたのがヴェラール様。

 この国の守護神様。

 あの日、お嬢様と遊んでくれたお兄さんだった。


『ふむ。あの笑顔がなくなってしまうのは僕もイヤだな。じゃあお前、僕と契約するか?』

『けい、やく…?』


 ヴェラール様と契約をして、眷属の精霊と融合すれば元の肉体に『新たに宿る』ことができるという。

 ただしそれには対価が必要と言われた。


『お前のこれまでの記憶を僕に渡してもらおうか』


 私の十年間の記憶を対価として要求された。そうすればずっとお嬢様といられる。


 過去(じぶん)を取るか。

 未来(シルフィさま)を取るか。


 そんなこと、選ぶまでもない。

 けれど過去を売り渡した代償は大きかった。

 目を覚ました私は、大切なお嬢様のことすら忘れてしまっていたのだから。


 私と融合したヴェラール様の眷属・アヴィはとても親切なひとで、混乱している私をなだめながらゆっくり彼我の融合をしてくれた。


『ミラがいてくれて、ワタシはありがたいと思っていたわ。精霊の姿のままじゃあいろいろ限界があるから』


 アヴィはもともとお嬢様を見守るようにヴェラール様から命じられていたのだが、そのままでは制約も多くてできることが少なかったらしい。お嬢様含めて大多数の人間は精霊を視ることができないから、辛いこと悔しいことがあって声を出さずに泣いているお嬢様に寄り添ったり等々。

 私と融合することでアヴィは出来なかったことができるようになったし、私はアヴィが知っていることを共有できるようになった。

 ただし、ヴェラール様に関すること、アヴィを通じて知り得たことを人間に話すのは禁じられていて、それも契約の範疇。


『でもそれなら私の記憶を渡す必要はなかったんじゃないの?』


 だって私の存在は必要だったのでしょう?

 お嬢様を一番近くで一番長く見ていたのは確かに私だからアヴィの役目にピッタリといえる。


『アナタにはワタシが必要で、ワタシにもアナタが必要。けれどヴェラール様ご自身には何も益がないでしょう?』


 理屈は合っている。

 私が契約をしなかったら、私が死んだあとでその肉体にアヴィだけが宿る選択肢もあった。

 けれど私はお嬢様の乳兄弟で、ずっと遊び相手をして侍女見習いになった。いくら記憶をなくしたとはいえ(ミラ)の中に違うもの(アヴィ)がいることにお嬢様が違和感を覚えるかもしれない。


『アナタの記憶を対価としたのは、ヴェラール様がシルフィ様のすべてを知りたかったからだけど』


 これからのお嬢様についてはアヴィ(私含む)と共有ができるから、欲しいのはそれまでのお嬢様のこと。


 少しどころでなく引いた。神の執着こわっ。

 それでも、ヴェラール様がいなければ私のこの六年間はなかったのだ。


「僕の名はヴェラール。この国の民なら僕の名前を知っているね。僕はこのシルフィが十六になった今日、神の花嫁として天界へ連れてゆくために来た」


 お嬢様の肩を抱き、ヴェラール様が居並ぶ紳士淑女へ高らかに宣言するとその場にいるものすべて平伏する。

 王族・貴族は基礎教育の段階で守護神についてきっちり教育を受ける。なにせ神は降臨されるのだ。


 このように。


「だが、この国の王子は僕の愛しいシルフィに国外追放を命じた。正当な理由があるなら申し開きをするといい」



読んでいただきありがとうございました♪

次回は6/2予定です。

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