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侍女が打つ最後の一手

予約投稿の間際に手直し箇所を発見したため予約解除するも間に合わず…_| ̄|○

クライマックスのはじまり(って何!)です。

楽しんでいただけたらうれしいです!


「いまです!」


 視界の端でお嬢様が耳を塞いでしゃがみ込んだのを確認して、私は思い切り息を吸い込んだ。


「        」


 独特の旋律が私の口から流れ出して、殿下たちの動きがピタリと止まったその時。




グァッシャドゥォォォォオンッッッ!!!




 耳を劈く轟音に次いで人々の叫び声。

 見れば、殿下とお嬢様の間に業火が立ち昇っているが、その威力の割には熱を感じない。


「登場が派手すぎやしませんかね」

「こういうものはハッタリかますくらいが丁度いいと思ったんだけど」


 熱のない焔の中から現れたのはこの世のものとは思われない美丈夫。軽口は叩けても、この方は国王陛下よりも高位の存在。私はその場で跪く。


「守護神ヴェラール。降臨いただき感謝いたします」


 そう、この方はこの国を創り守っている神。

 白銀色の艷やかな髪を無造作に一括りにしてそれを肩口から前に流し、その身に纏うのは真珠色の長衣と丈の長い深海色のジレ。装飾品もほぼないというのに光り輝いているように見える。


「アヴィ、いや今はミラだったね。長い間苦労をかけた」


 その言葉に私の心の奥から言い表せない喜びの感情が膨れ上がる。顔がニヤけるからちょっと抑えて抑えて!

 それで、といいながらヴェラール様はお嬢様へ視線を移したので、私は耳を塞いでうずくまったままのお嬢様の肩を軽くポンポンして、もう大丈夫ですよと声をかけた。


「ミラ、一体なにが……っっ!?」


 顔を上げたお嬢様は状況を確認しようと見回して覗き込むように見下ろしていたかの方と目が合い、しばし二人は見つめ合っていた。


「やぁ、久しぶりだね。すっごく美人になって見違えたよ」

「あ、あなた……あなたはっっ!!」


 ヴェラールさま、とお嬢様の唇が小さく動いたのを私もご当人も見逃さなかった。


「覚えていてくれたんだね。僕の名前」


 破顔したヴェラール様。美形の笑顔は破壊力抜群だ。お嬢様で見慣れたと思っていたが、神の造形には勝てないか。


「わたくし、いまのいままで忘れてしまっていて……」


 ごめんなさい、と頭を下げるお嬢様に私は寄り添ってヴェラール様を軽く睨みつけました。軽く肩をすくめたヴェラール様はお嬢様の前に膝をつきます。


「顔を上げて、シルフィ。謝ることじゃないよ。あの時の君は小さかったし、忘れてしまっても仕方なかった。けれど思い出してくれただろう?」


 お嬢様の頬にそっと触れるヴェラール様の指先に、嬉し恥ずかしで紅潮したお嬢様の表情。

 これは生温かく見守るしかない。

 

「それじゃあ、あの約束も思い出せるかな?」


「はい、あの…もし、次会った時にわたくしがヴェラール様のことを覚えていたらあなたの妻になる、と」

「そう。だから迎えに来たよ、僕のお嫁さん」


 そっと頬から手を外して、持ち上げたのはしなやかに伸びたお嬢様の手。ヴェラール様はそっと指先に口づけた。


 その途端、私の目の前でオーバーラップしていく光景。

 新緑眩しいローグ侯爵家の庭園で、幼いお嬢様と一緒にいるのは、ヴェラール様。


『きれいな花束だね。それをどうするの?』

『おかあしゃまのおみまいなの! …おかあしゃま、ご()()うきなの。シィがおみまいいきゅとね、わらってくれゆの!』


 無邪気なお嬢様の様子に私の胸はズキリと痛む。そうだ、この頃にはもうローグ侯爵夫人は床に就いていてあまり先は長くなかったのだ。


『そう。それじゃあ僕も少し手伝おうか?』

『ほんと!? おにーちゃん、ありあとー!』

『僕はヴェラール。君の名前は?』

『シィは、しりゅふぃ! よんしゃいになりまちた!』

『そっか、シルフィっていうんだね』

『おにーちゃん、しゅごいね! シィのおなまえちゃんとゆってくりぇたしと、はじめてなの!!』


 幼い頃、舌っ足らずだったお嬢様。それまで初対面で挨拶しても誰もきちんと聞き取れなかったからうれしかったのだろう。

 でもね、ヴェラール様ってば反則していたのよ? シルフィ様の思考から名前を読み取っていたんだから。


『そうなの? じゃあ、そんなすごい僕にご褒美くれる?』

『ごほーび? なぁに?』



『もし、次会った時に君が僕のことを覚えていたら。僕のお嫁さんになってくれるかな?』



『おにーちゃんのおよめしゃん? うん、なってあえゆ!!』

『じゃあ、約束だよ。そうだな、シルフィが十六歳になったらまた会いにくるから。僕のこと、忘れないで』


 そっと持ち上げたちいさなふくふくの手に口づけたヴェラール様は風に溶けるように消えていった。


 これを皮切りに頭の中に溢れ出す、記憶の数々。


⋯⋯⋯⋯これは私の、ミラのなくした記憶。願いを叶えるためヴェラール様へ渡した大切な思い出たちだった。


舌っ足らずなシルフィが書きたくて⋯

読んでいただきありがとうございました♪

次回は5/30予定です。

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