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ライネルは盗賊達に悟られないよう慎重に辺りを見回すと、足元にライネルの魔法剣や魔道具が置いてあるのが見えた。
「っ……!」
ライネルは猿轡を噛み締め、手足の縄を引っ張った。しかし、粗雑に見えて意外としっかりと締められている。汗が額を伝い、背筋を冷たくなぞった。
「おい、お前」
焚き火のそばに座っていた盗賊の一人が、ライネルの僅かな動きに気が付いた。
その男はライネルの近くに腰を下ろすと、ライネルの銀色の髪を乱暴に掴んで引き上げた。口元には下卑た笑みを浮かべている。
「やっと目が覚めたか?さっそく俺たちと楽しもうぜ」
ライネルは冷ややかな目で盗賊を睨み付け、猿轡越しにくぐもった声を発した。
「口は外して良いだろ?俺、悲鳴を聞きながらするのが好きでさぁ」
別の男がライネルに跨り、乱暴に猿轡を外した。
「……オレ……は、男だ……!」
ライネルのその言葉に盗賊たちは一瞬沈黙したが、次の瞬間、爆笑が洞窟内に響き渡った。
「ははは!男?そんなの最初からわかってるよ!」
「この綺麗な顔と体なら、ヤる方は男も女も関係ねえんだよ」
ライネルの髪を掴む男のもう一方の手が、ライネルの首筋から頬の質感を楽しむようにねっとりと撫でる。
「やめっ……!」
ゾッとする感触に全身が強張る。
「良いねぇ、その表情。興奮するぜ」
ライネルの心臓が早鐘を打つ。冷たい恐怖が全身を駆け巡った。
「……っ!」
ライネルに跨っていた盗賊が、ライネルの脇のスリットに無骨な手を差し入れ、ゆっくりと味わうように腰のくびれをなぞるその感覚に、嫌悪と恐怖が混ざり合う。
「おいおい、いい反応じゃねえか……。震えてるぜ?」
「やめろ……っ!」
必死に体をよじるが、縛られた手足は言うことを聞かない。盗賊がさらに身を乗り出した瞬間——。
グォオオオオオッ!!!
洞窟の奥から地響きと共に獣の唸り声が響き渡った。
「なんだ!?」
盗賊たちが慌てて唸り声がした方を振り返る。暗闇の中で、赤い光が二つ揺れていた。
「まさか……炎牙獣……!?」
獣の影が光を反射し、巨大な牙が露わになる。全身に炎を纏い、地面を焦がしながら姿を現した魔獣——《炎牙獣》が、洞窟内にその威容を現した。
「うわあああっ!」
盗賊たちは悲鳴を上げ、武器を取り出して後退する。もはやライネルに構っている場合では無かった。
一方でライネルは、目の前の獰猛な魔獣に対する恐怖よりも、貞操の危機が去ったことに対する安堵の気持ちの方が強かった。
炎牙獣の目がライネルに向けられる。その紅い瞳に、獲物を狙う飢えが宿っていた。