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街を出てしばらく歩き、山の中腹に差し掛かる頃にはほとんど人とすれ違うことはなくなっていた。
「ここまで来れば……もういいだろ?」
ライネルが立ち止まり、ローブの留め具を外す。ローブの下から現れた薄手のシャツは陽光を受けてわずかに透け、白い肌が淡く映し出される。高めに束ねた髪が揺れ、うなじに滴る汗が光る。
「……くっ」
ガルツは思わず顔をそむけ、心の中で自分を叱責した。
——落ち着け、俺。見慣れてるはずだろ、何回も。
だが、目の端に映るライネルの姿が脳裏に焼き付いて離れない。腰のライン、シャツのスリットから覗く脇腹、そして光を受けて輝く銀髪。思わず剣の柄を握る手に力が入る。
「どうした、ガルツ?」
「い、いや!なんでもねえ!」
ガルツは慌てて笑い、無理やり足を前に進める。ライネルは訝しげに見つめつつも、何も言わずについてきた。
二人が街道を進む中、時折すれ違う人々が驚きの表情を浮かべた。
「今の人、すごく綺麗……」「えっ、男?女?」
そんな声が背後から聞こえてくる。中には馬を止めて振り返る者や、足を止めて見惚れる旅人もいた。
「やれやれ……」
ガルツがため息をつく。その直後、前方から歩いてくる男二人組がライネルに目を留め、口笛を吹いた。
「お嬢さん、こんなところでどうしたの?俺たちと一緒に休んでかない?」
「……てめえら、死にたいのか?」
ライネルが冷ややかに返すが、相手は気にせず近寄ってくる。
「そんな冷たいこと言わないでさ、ちょっと遊ぼうぜ?」
「おい、お前ら。こっち来んな」
ガルツが一歩前に出て、剣の柄に手を掛ける。その目は笑っていない。
「なんだよ、兄ちゃん。邪魔しないでくれよ」
「邪魔じゃねえよ。こいつは俺の相棒だ。勝手に触んな」
ガルツの低い声に、男たちは顔を見合わせて肩をすくめ、そのまま立ち去った。
「……ふぅ」
「お前、ずいぶん疲れてるな」
「当たり前だろ!こんなに目立つ相棒連れて歩いてりゃ、疲れねえわけねえっての!」
ガルツが頭をかきながら笑うと、ライネルは微かに口元を緩めた。
「それはすまなかったな」
「いや、別に……お前が悪いわけじゃねえし……」
そんな会話を交わしながら、二人は街道を進んでいった。
目的地、灼熱の牙を持つ《炎牙獣》の巣がある山岳地帯に向かって。