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西の渓谷に向かって二人は細い山道を進んでいた。道の両側には苔むした岩が並び、木々の枝が空を覆っている。
ライネルは黙って歩きながら、ちらりと前を行くガルツの背中を見た。
——今回の薬草、ガルツのためにもいくらか確保したい。
言葉にはしなかったが、その思いが心を占めていた。
ガルツは大柄で力も強いが、無茶をしがちだ。ライネルは時折、不安に駆られることがあった。
——もし、自分の回復魔法が届かない場所で、ガルツが深い傷を負ったら?
——市販の回復薬や自分の魔法では治せないような重傷を負ってしまったら?
今回の依頼で採取する薬草《セラフィアの葉》は、ハイポーションや、切断された手足を再生させる効果を持つエリクサーの材料になるものだった。すぐにエリクサーを作ることはできなくても、旅を続けながら少しずつ材料を集め、いずれ優秀な薬師に託すつもりだった。
「ライネル、黙ってるけど、何か考えごとか?」
ガルツの声にハッとして顔を上げる。
「いや、別に」
「まあ、お前が考え事してる顔も悪くねえけどよ。あんまり難しい顔すんなって」
「おまえはもう少し頭を使って静かにしてろ」
ライネルはガルツを想う心とは裏腹に、ガルツを冷たくあしらった。
歩き始めてから約二時間後、二人は小川のそばで足を止めた。陽光が水面に反射し、涼やかな空気が漂っていた。
「ここで休憩にしよう」
「賛成」
ガルツが肩にかけた水筒を下ろし、川へと向かう。
「水汲んでくるわ!」
「あぁ」
ライネルが岩に腰を下ろし、地図を取り出して位置を確認する。小川の先に目指す渓谷があるはずだった。
その時——。
「うわああっ!」
ガルツの悲鳴が響き、ライネルが反射的に顔を上げる。
「ガルツ!?」
川辺に駆け寄ると、ガルツの体が宙に浮かんでいた。全身に無数のツタが巻き付いている。緑色のツタが軋む音を立てながら、ガルツを持ち上げていた。
「ツタ型のモンスターか……!」
その正体は《ヴァイン・ストライカー》。獲物を捕えて締め付け、窒息させる森の捕食者だ。
「ライネル!やべえ、これ、かなり力強い!」
ガルツが苦しそうに声を絞り出す。ツタがさらに締め付け、筋肉質な体が軋む。
ライネルは剣を抜き、魔力を込めた。
「ガルツを返せ……!」
瞳に冷たい光が宿り、魔力が剣に集まっていった。




