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炎牙獣が低く唸り、赤い瞳が標的を定める。ライネルの額には汗が滲み、荒い息が白く夜気に溶けた。

——この状況で、最善の選択肢は?

目の前には獣と盗賊。背後には森が広がっているが、手足の痛みがひどく、獣相手に逃げ切れはしないだろう。切り裂かれた傷口からじわりと血がにじみ、体が徐々に冷えていくのがわかる。

「……回復魔法を使う余裕もないか」

ライネルが回復魔法を使えるが、それほど得意では無い。使うには相応の集中が必要だが、動揺と痛みが集中を妨げていた。両手の震えが増し、指先の感覚が薄れていく。

——なら、一か八か。

ライネルは深く息を吸い込み、剣を逆手に構えた。

「……これで決める」

手足が使い物にならなくなる覚悟で、全力の魔力を刃に込める。

「《アイス・バースト》!」

剣が鋭利な冷気に包まれ、轟音と共に冷気の奔流が前方に放たれた。炎牙獣が咆哮し、炎に対抗するように自らの炎を噴き出す。

「今だ……!」

ライネルが前へと踏み出そうとした瞬間——

「ライネルーーッ!!」

夜空を裂く声と共に、影が舞い込んできた。

ガァンッ!!

ガルツの両手剣が炎牙獣の横面を弾き飛ばし、火花が散る。盗賊達も驚きの表情を浮かべ、思わず後退った。

「遅くなったな、相棒」

ガルツがライネルを庇うように背を向けて立ち、剣を構える。鍛え上げられた背中が、頼もしく広がる。

「……遅いんだよ」

力なくつぶやくライネルの唇が、わずかに微笑んだ。

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