お供えもの、ひとつ
夏のホラー2024
その年は、世界的大流行したあのウイルスが終息し始めて、久しぶりに地元へ帰ってお墓参りにでも行きたいなと思っていた。親戚や友達にも会いたいし、大きくなった娘も見てもらいたい。
が、かなり遠方のため家族での帰省はなかなか費用がかかる。それに、また少し周りでウイルス感染者が増えていて盆の入になっても重い腰が上がらなかった。
そんな時、結婚して地元で暮らしている妹からLINEが来た。
【お姉ちゃん元気?子ども連れてそっちに旅行にでも行こうと思ってるけどなかなかねー(汗)】
お互い思うことは同じなようで、【私もだよ】と謝罪の返事を入れる。あまりマメではない妹から珍しくすぐにリプが来た。
【ねーねー。うちの納骨堂って、子どもいる?】
──は?
どういう事かわからず混乱していると、追いLINEが来た。
【今日ね、息子たち連れてお寺参りに行ってきたんよ】
うちは祖父の代からお墓ではなく、お寺の納骨堂で供養してもらっている。祖父・祖母・父・母・伯父が納骨されていて「もう満員だ」と、伯母たちが集まるとブラックジョークが始まる。
妹は近くに住んでいることもあり、たまにお参りに行くとこのようにいつも私に連絡を入れてくれていた。
妹から続きの文章が画像と共に送られて来た。
【そしたらさ、お菓子がお供えしてあるんよ。ひとつ。小さい子どもが食べるような、ほら、自分で作って食べるみたいなやつ】
画像には妹が言ったような、水や粉を入れて自分で混ぜたりして楽しめる、いわゆる知育菓子がひとつ、映っていた。
【関係ない人が間違えてうちに置いたんじゃない?】
1番に想像できる事を言ってみると、待ってましたとばかりに妹からの返信が来る。
【いや、そう思うやろ? 私もそう思ったんよ。去年は】
──去年は?
妹が言うには去年の盆に引き続き、今回は2回目らしい。去年も同じようなお菓子がひとつお供えされていて、その時は間違えだろうと思ってあまり気にしなかったらしい。しかし2回目ともなると置き間違えも少し考えにくい。
その時、ふと思い出したことがあったので妹に文を送る。
【むかーし聞いたような気がするんだけど、ちょっと記憶が定かじゃないから本当かわからんよ?】
【うんうん、なに?】
【おばあちゃんがさァ、もう1人子どもがいたって噂を聞いたことがあるような気がする 】
【え!そおなん?】
【うん。お父さんと伯父さん2人と、千葉の伯母さんの4人やろ? それにもう1人お父さんの上にいて、生まれた時に亡くなったって聞いたような気がする】
【マジで!?】
【うーん……本当かどうかはわかんないけど……】
私たち姉妹にしては珍しくLINEが続く。
【いやでもさ、おかしくない?】
【なにが?】
妹が異を唱える。
【生まれた時に亡くなったのなら、知育菓子はちょっと年齢が合わんくない?】
【……確かに】
【それにさぁ】
【うん、なになに?】
【去年初めて見たよ、お菓子】
──確かに!
もし、おばあちゃんの子どもが生まれた時に亡くなって、そのお供えなら昔からあってもおかしくないのに今まで一度も見たことない。知育菓子も対象年齢が違う。知育菓子なら少なくとも3歳か、5歳6歳くらい。
やはり誰かが間違えて置いたのか……。
【ねーねーお姉ちゃん】
【なに?】
【うちらが知らん間に誰か亡くなったとか無いよね?】
──無いやろ
……とは言えない。
しかし、誰からもそんな情報をもらってない。もし何かあったのなら、伯母なり従姉妹なりから知らせがあるのではないだろうか。
付き合いの薄い親戚もいる。コロナ禍で親戚を集めてのお葬式をやらなかった可能性もある。だとしても、子どもが生まれたよって話すら聞いていない。
【伯母ちゃんに聞いてみる?】
妹が言う。
妹の方が親戚付き合いが上手いので、聞くなら妹からの方がいいのだが……。
【いや、なんか聞きにくくない? 知育菓子なら3歳とか5歳とかやろ? 子供生まれたとか、あんたのとこくらいしか知らんよ?】
【そおなんよねー。聞いてないもんね】
【もし子どもが生まれとって亡くなったとしたらよ、うちらが知らないって事はよ、めっちゃ言いにくい事情があるって事かもしれんよ?】
【それは……そうやね】
【知らない人が間違えてるって可能性も捨てきらんし】
【うん】
【もう少し、様子見しない?】
【うん。わかった】
2人の間で、モヤモヤを残したまま合意した。
そして、そんな事もすっかり忘れていた今年も、お盆がやって来た。
妹から来たLINEは……
【お姉ちゃんヤバイ】
その一言だけ。
頭の中が?でいっぱいになっているところに画像が送られてきた。
うちの納骨堂にお供えされてある、真新しい、ピンク色のランドセルがひとつ。