Ep:0 扉を開けて
「「だれかいますかー」」
返事がない。担任の先生が言っていたのは確かにこの教室だったはずなのだが。
「もう入っちゃう?」
「そうだな」
先に教室の中で待つことにするか。
扉を開いて中に入る。すると教室の中には奇妙な扉があった。
壁にあって別の部屋とつながっているとかではなく、ただ扉だけが閉まった状態で置いてあった。
「開けてみよっか」
「開けてもなんもないだろ。扉しかないんだから」
「もしかしたら異世界とつながってたりー」
「漫画の読みすぎだぞお前。そんなことあるわけ」
その時。扉が大きな爆発音と共に勝手に開いた。
同時に扉がものすごい勢いで周りの空気を吸い込み始める。
「お前一体なにしたんだ!?」
「私まだ何もしてないよ!」
扉が空気を吸い込む勢いはどんどん強くなっていく。
「おい慧奈!一回教室出るぞ!このままじゃ吸い込まれる!」
「おっけー!」
吹き荒れる風に抗いながら教室の入り口へと向かう。
よかった。今なら問題なくたどり着けそうだ。
「きゃっ」
その時。慧奈がバランスを崩して転倒する。
同時に、風の勢いが急に強くなった。
どうする。一か八かで助けに行くか?それとも一人で行ってしまおうか。
慧奈との小学校からの思い出が頭の中を駆け巡る。
一瞬の思考の後、俺は答えを出した。
よし。置いていこう。
「まってー!おいてかないでー!」
後ろで何か言ってるが、気にせず入り口へ向け歩を進める。
さよなら慧奈。今まで楽しかったよ。
心の中で幼馴染に別れを告げ、入り口のドアに手をかける。
ん?
開かない。鍵がかかっているみたいだ。
「私を見捨てた罰が当たったんだ!」
後ろで何か言っているが、気にせず何とかしてドアを開こうと試みる。
というかあいつだいぶ耐えるな。
力ずくで引いてみたがドアはやっぱりびくともしない。
風の勢いはもう立ってるのがやっとくらいになっていた。
その時。ドアの向こうに人影が見えた。
「「あー!」」
現れたのは俺らをここに呼び出した担任の先生だった。
明らかに異常な教室内の様子を見てもニコニコ笑顔は崩れていない。
突如現れた先生に動揺し、ついドアから手を放してしまった。
なすすべなく吸い込まれていく俺。
壁に併設されたロッカーにしがみついてしぶとく耐えていた慧奈を巻き込み扉へと吸い込まれていく。
俺らは扉の中で白い光に包まれ、そのまま意識を手放した。
「さて。今年の二人はどんなものかな。」
暗転していく視界の中に一瞬映った先生の顔は、未だ笑顔のままだった。