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第12話 目的

「はぁ・・・・・・やっぱりこうなったか・・・・・・」




 俺は思わず、溜息をついた。


 溜息を吐くと、幸せが7つ逃げていくというが、婚姻という人生の中でもトップを争うレベルの幸せを手に入れた俺に、そんな物は効かない。


『アイ』に覚悟しておくように、と予め言われたが、こういう事だったのか・・・・・・だが、自分で蒔いた種だ、しっかりと応えよう。





 ✳︎





 戦勝記念パーティーが行われた日の翌朝、王城でサルラックとスワンナの婚姻の儀が行われた。


 事前に準備がされてあっただけあり、すぐに始まり、すぐに終わった。ちなみに俺とヘレナの式は、俺の要望でハーンブルク領内で行われる事となった。


 理由は色々とあるが、他の貴族に参加して欲しくないというのが1番の理由だ。




 それはともかく、儀式後に王家と宰相とハーンブルク家で話し合いの席を設けたいと言われていたため、俺はそちらに頭がいってしまい、婚姻の儀の最中はずっと上の空であつた。ちなみにだが、ヘレナは俺と結婚した事によって『ヘレナ・フォン・ハーンブルク』と名乗る事になった。だが、変わったのは名前ぐらいで、王族としてサーマルディア王国軍に命令をしたり、他国と交渉する権利は残るらしい。


 というのも、普通は他の家に嫁いだらそれらの権利は失うが、相手がハーンブルク家という事もあり、それを認めさせたのだ。いつか役に立つかもしれないので、そこはちゃんと了承しておいた。




 儀式が終わり、記念パーティーも終わった午後9時ごろ、ついに戦費についての話し合いが始まった。


 国王や王太子、お父様も参加していたが、ほとんど発言せず、基本的にお母様と宰相の殴り合いとなった。




 王宮がした、ハーンブルク領への借金は合計2兆5000億マルクにのぼり、これはサーマルディア王国の国家予算5年分に相当した。


 ちなみにハーンブルク領の領内予算は3兆マルクで、変な話だが国家予算を上回っている。もちろん公表はしていない。




 当然、王宮は払いたくないわけで、どうしようもない状況であった。




「王宮としては、どうにか借金額を減らして欲しいと考えております。領地を渡して解決できれば話は早いですが・・・・・・」




「ふふふ、ハーンブルク家は残念ながら直接戦争に参加したわけではありませんから、領地をいただくわけにはいきません。それは宰相殿もご理解していらっしゃると思うのですが・・・・・・」




 王国は既に、今回の戦争で獲得した領土の多くを貴族達や、今回の戦争で功績を上げて新たに貴族となった者たちに分配していた。


 つまり、今回の戦争で目に見えた活躍をしていないハーンブルク家が領地をもらうわけにはいかないのだ。


 王宮としても、他の貴族に不満を持たれるのは避けたいだろう。




 というのはもちろん建前で、本音を言えばこれ以上領地がいらないから断った。ましてや、反乱を起こす可能性があるトリアス教徒など、邪魔でしかない。


 今回の戦争で新しく貴族となった人たちがどうやってこの問題を解決にするか是非とも聞きたいところだ。




「では、爵位はいかがでしょうか。侯爵位か、辺境伯位をご用意してあります。お好きな方をお選びいただいてけっこうです。」




「大変嬉しい話ではありますが、やはり戦争で活躍していないハーンブルク家が爵位をいただくわけにはいきません。」




 今更だが、サーマルディア王国には、7つの爵位が存在する。


 上から、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵の6つと特別枠の辺境伯だ。


 土地を持たない宮廷貴族であれば、前者の6つの爵位に応じて毎年給料がもらえる。


 しかし、土地持ちの貴族の場合は領地の広さに応じて税金を取られる。


 貴族しか使えない店に入れたり、パーティーに参加できたりといった特権はもちろんあるが、今のハーンブルク家が求めるものではない。


 そして、これは宮廷貴族も同様だが、むしろ爵位が高いとその爵位に応じて戦争の際に兵隊を派遣しなければならないので面倒でしかない。




 領地を持っていても税金を免除される辺境伯位というものもあるが、辺境伯位をもらった場合、戦争の際に数万人単位での出兵を命じられる事があるので是非とも遠慮させて頂きたい。




 お母様は最初、辺境伯位をもらうつもりであったが、俺がもっと良い方法を示すとそれに同調してくれた。


 それは・・・・・・





「では、ハーンブルク家の要望はどのようなものを望むのでしょうか。」




「はい、我がハーンブルク家からの要求は3つあります。1つ目は100年間の税金の免除です。現在ハーンブルク家は毎年200億マルクを税金として支払っております。それが100年分で2兆マルク分となります。」




「なるほど、確かに筋は通っておりますね。」




 実際は、全く通っていない。


 ハーンブルク領が、100年後も同じ税金であるわけないし、100年というのはあまりにも長い。


 まるで何処かの議員のように、真価に気づいていないのか、それともそういう政治戦略なのか、宰相のギュスターさんはこれを了承した。




「2つ目は何でしょうか。」




「はい、ジア連邦共和国を国家として承認し、相互不可侵条約を締結してほしいと考えております。」




「この件に関しては問題ありません。今すぐにでも締結を行えます。」




 王国の戦争に巻き込まれないように、軍事同盟ではなく相互不可侵にしておいた。何なら国家承認だけでも十分ありがたい。




 お母様は、旧サラージア王国との外交官を務めていた事もあり、国家承認の大切さは理解していた。




「では最後に、軍事戦略における指揮系統の分断を希望します。我々ハーンブルク軍と王国軍では、はっきり言って大きな開きがあります。練度もさることながら、武器などの装備が全く違い、王国の国防軍の指揮下では我が軍の真価が発揮できない可能性があるからです。」




 現状、王国は正規軍5万とハーンブルク家を除く貴族の私兵5万の10万ほどの戦力で、先の戦争の30万という兵力は、無理やり行った徴兵によるものだ。


 対してハーンブルク軍は正規軍2万とSHSを含む陸上保安部隊が1万、海上保安部隊が1万の合計4万の戦力を保有する。


 合同軍事演習などは行っていないので、当然戦術も武器もまるで違う。




「確かに、海軍に関しては王国の国防軍では手も足も出ません。エリナ様がおっしゃる意味は十分に理解できました。ですが、この3点を了承するためには1つ条件があります。」




「何でしょうか・・・・・・」




「それは、我が娘イレーナ=フォン=イルフェルンとハーンブルク家長男レオルド=フォン=ハーンブルクと婚姻を結ぶ事です。」





「・・・・・・はい?」




 これまで沈黙を貫いてきた俺であったが、いきなりで驚いて間抜けな声を出してしまった

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