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第3話 就職

 ハーンブルク領は、誰でも仕事が貰える事でも有名だ。


 それぞれの都市に最低1つ以上ある『ハローワーク』に行けば、基本的に誰でも能力に応じて仕事が貰える。




 出稼ぎに来た他領や他国の農民が『ハローワーク』で仕事をもらい、ある程度生活できる目処がたったら自分の家族を呼ぶというのが一般的だ。




 大きな都市から小さな村まで、その噂を一度も聞いた事がない者はほとんどいないだろう。




 そして彼らは、基本的にサボったり怠けるような事はしない。社会保障制度などが無いこの世界では、堕落が自分や自分の家族の死に直結する。




 ちなみにハーンブルク領では『失業防止制度』と呼ばれる政策があり、やむを得ない状況を除いて、できるだけ失業者を減らすように色々と手は打ってある。


 まぁ簡単に言うと労働基準法のようなものだ。これが結構機能していて、ハーンブルク領に出稼ぎに来る農民は後を絶たない。




 そして今日、2人の少女がハーンブルク領に加わった。




「お〜超似合ってんな。」




「何か変な感じです。」


「レオルド様、この服は?」




 セリカとアキネの2人が、シュヴェリーンへ訪ねて来てから1週間が経過し、今日はやっと2人に制服を渡す日がやって来た。


 2人とも、案の定サッカーにハマったらしく、すぐにハーンブルク家に仕える事を決めた。


 俺としても、優秀な部下が増える事を残念に思う理由は1つもない。




 例によって、俺は2人にお手製のメイド服をプレゼントした。




 この世界にメイド服はもちろん無いので、最初は戸惑っていたが、袖を通したら気に入ってくれたようだ。




「確か、私たちをここに案内して下さった方も同じ服でしたよね。」




「あの可愛い子・・・・・・」




「あぁ、俺の専属メイドのクレアも同じ服を着ているぞ。」




 ちなみにクレアは現在ある任務で忙しいので、ここにいない。


 だけどもう1人、そういえばよくメイド服着ているやつがいた。




「あと、そこの赤い髪のやつもたまに着ている。」




「わ、私は着ないわよっ!」




 俺の部屋にある最近作ったふかふかのソファーの上でくつろぎながら本を読んでいた例の赤いやつは、少し声を荒げながら訴えた。




「実は気に入っていてよく着ているの知ってるぞ。」




「うっ・・・・・・」




 試しに言ってみたが、どうやら図星のようだ。


 馬鹿め。




「とりあえず君たちの仕事はイレーナの護衛からかな〜」




 お母様にはスピカが、俺にはクレアが、ヘレナには王都から派遣された女騎士が護衛として付いているが、イレーナだけ専属護衛がいない。


 もちろん他にも色々な人が護衛として俺たちを遠くから守ってくれているが、付きっきりでってなるとイレーナだけいない。


 ハーンブルク領内に、イレーナが王国の宰相の娘だと気づいている人は少ないが、イレーナはFCTの監督を務めているので色々と恨みを買う事があるかもしれない。




「私は要らないわ。どうせこの家からは出ないだろうし。」




「でもほら、FCTの監督としての仕事があるだろ?そういう時とかいた方がいいんじゃない?」




 前世でも、サッカー選手をファンが殺害するという事件が何度か発生している。


 一応、選手が被害に遭うという事件は今のところ発生していないが、今後発生する可能性は十分あるので、護衛を付けておきたい。




「確かにそうね、ならお願いするわ。」




 俺がお願いすると、案外簡単に折れてくれた。


 もう少し粘るかと思ったが意外だ。




「んじゃ、そう言う事で、2人ともよろしくね。」




「「は、はいっ!お任せ下さい!」」




 そして、2人はイレーナの専属護衛兼『戦闘メイド』となった。


 サッカーの監督という立場を理由にしたが、今後の情勢を考えると彼女を守る盾と剣が必要だと判断したからだ。


 きっと、彼女らが活躍する時が来るだろう。





 ✳︎





「レオルド様、奥様がお話があるとの事です。現在行っている事が終わったら、奥様の部屋に顔を出すようにお願いします。。」




「あーうん。後で行くって伝えといて〜」




「かしこまりました。」




 リヒトさんは、俺に伝言を伝えると、気配を消した。


 今日は日曜日だったので、サッカーの試合がシュヴェリーンにある『コロッセオスタジアム』で行われたため、試合を楽しみ、夕食をとり、久しぶりにゆっくりできる時間が来た。




 普段ならヘレナやイレーナとかが侵入してくるが、今日に関しては入って来ないようにお願いしてある。


 リヒトさんにも、用事がある時は壁越しに伝えてもらっている。




 今日はここで、彼女と話し合いをしたかったからだ。




「もう10年になるのか・・・・・・」




【長かったようで、あっという間でしたね。】




 相談したかった相手というのは、もちろんアイの事だ。


 現実世界に姿を現した彼女は、先程イレーナが占拠していたソファーに座ると、俺の呟きに答えた。




「じゃあ今後の方針について、話し合いといこうか。」




【はい、マスターのために、色々なプランを持ってきています。】




 そして俺たちは、今後の方針に関してすり合わせを行うとともに、最終確認を行った。




 動くなら、今だ。

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