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第7話 分離

「ほ、本当にこれに着替えるの?」




 少し恥ずかしがりながら、俺の持ってきた服を受け取ったクレアは、慌てた。




「うん。動きやすさや頑丈さに特化させた服が欲しいなと思ったけど、無かったから作った。」




「うぅ・・・分かったよ。」




 もちろん、嘘である。


 製作期間一週間、材料集めやら道具集めやらで動き回り、『アイ』に縫ってもらって作ったメイド服をクレアに渡した。


 この世界にメイド服という文化があるかどうかは知らないが、やはり自分の付き人にはメイド服を着せるのが、異世界転生した者への宿命と言っていいだろう。




 ちなみに、クレアは魔力持ちであった。俺は会った時には気付かなかったが、『アイ』は気付いていたみたいだ。本人も自覚はしていたけど、周りには秘密にしていたらしい。


 およそ100人に1人と言われている魔力持ちと分かったら、教会もクレアを手放さなかっただろう。


 この件に関してラッキーとしか言いようがない。


 そこで、クレアの戦闘メイド化計画を実行する事にした。やはりメイドは戦えてなんぼだろう。




「どうかな?」




「・・・・・・。」




 ダメだ、似合いすぎる。


 ってクレアはまだ8歳だぞ?やっていいのか?こんな事。


 どことなく犯罪の臭いがするが、俺は5歳だからセーフである。




「に、似合ってる?」




 しばらく無言で見惚れていると、俺が黙っている事に対して不安になったクレアがそういった。




「いや、似合っていると思うよ。」




「そ、そう。ありがと。」




「う、うん・・・。」




 そう答えながら、2人そろって何とも言えない感じになってしまった。




 もちろん、この一週間をただ遊んでいたわけではない。お母様にお願いして必要な物を揃えてもらい、トリアス教にこの領地から退場してもらうための準備を進めていた。




「ここが、子供達の移動場所になる所?」




「はい、奥様が空いていた屋敷を改良して下さいました。」




 ハーンブルク領の中央にある都市、シュヴェリーンの郊外にあった空き家を改造して新たな屋敷を作ったらしい。この屋敷は元々ハーンブルク家に仕える家臣の1人が暮らしていたらしいが、数十年前から放置されていた場所であった。


 ハーンブルク家のお抱えの大工達に最優先で作らせたその家は、元々の孤児院よりはだいぶ立派な建物となっていた。




 そして次に、子供達を救出するための方法である。それは・・・・・・




【徴兵令を出しましょう。】




 徴兵令?って確かあれだよな、強制的に兵隊にするやつ。




【はい、現状我々ハーンブルク家は30万の人口に対して6000人の兵隊と2000人の予備隊によって成り立っています。そこで、予備隊2000人の内の1000人を領地公務員として雇い、新たに1000人の子供達を予備隊として登録するのです。】




 つまり強制的に子供達を救出する事が可能ってことか。




【そして、その子供達に未来を担うリーダーになるための教育を施す事も可能です。先進的な教育を行う事によって、レオルド様が当主の座を受け継いだ後の生活がずっと良くなります。】




 なるほど、問題は1000人の領地公務員をどうするかだけど・・・・・・




【はい、それに関しても考えがあります。】




 100人・・・子供達の保護


 100人・・・製鉄技術を習得させる。


 100人・・・農業の研究


 100人・・・漁業及び造船の研究


 100人・・・医療の研究


 450人・・・公共施設、道路や橋などの建設及び採掘


 50人・・・諜報部隊




『アイ』は、次のような人材運用を提案した。何故研究面に多くの人材を確保するかというと、この世界の研究者が少なすぎるからだ。


 そもそも、研究者という仕事すらない。


 女傑と呼ばれているお母様ですら、そのような考え方は無かったそうだ。だが、俺の書類(内容はほとんど『アイ』が考えた)を読んで考え方を変えさせた。


 戦争を例に研究の大切さを説いたら、すぐに理解してくれた。この点は、お母様の理解力の高さに感謝という感じだ。




 俺の提案した政策はすぐに実行に移された。ひとまず兵舎の元々予備隊が使っていたスペースにそれぞれハーンブルク領研究部と建築部の拠点を作り運営を開始した。


 製鉄班に関しては、新たに製鉄所を建設するまでは建築班に入ってもらう事にした。




 また、それぞれのチームのリーダーには、お母様の選んだ、まとめる力がある人が起用された。





 ✳︎





「ミネルっ!リーリアっ!」




「「クレアっ!」」




 政策が軌道に乗り出したので、俺たちは子供兵舎に視察に行く事にした。


 子供兵舎へと偵察に来ると、クレアはミネルと呼ばれた友達らしき子供達の下へと走っていった。おそらく、孤児院時代の頃の友達だろう。今日は、旧友との10日ぶりの再会だ。




「あの時はびっくりしたけど、再会できてよかったわ、クレア」




「元気そうでよかった・・・」




「どう?2人ともここでの生活は順調?」




「うんっ!孤児院にいた頃と比べて、勉強をする時間が多くなったけど楽しい毎日になったよ!」




「祈りの時間とかが無くなったから何でもできるんだ〜」




 子供達の徴兵令は、一気にではなく少しずつ行うと発表され、まずは身寄りのない子供のみを集めた。


 2つの孤児院の孤児、現在の暮らしに余裕がなく子供を孤児院に渡そうか考えていた人、街中でホームレスをしている人を全員雇うと、300人に登った。


 年齢層ごとにクラスを分け、それぞれに教育を行った。




「それより聞いたよ、ハーンブルク様に仕える事になったんでしょ?いーなー」




「まぁそうだけど、みんなにもチャンスがあるよ。」




「え?どういう事?」




「この徴兵令の目的っていうのが、近い将来ハーンブルク様のために働いてくれる人を育てる事なんだ。だからもしかしたら、家臣にしてもらえるかもしれないよ。」




 今現在、普通は貴族しか勉強しない四則演算に加えて、農業や漁業に関する基本的な知識を与えたり、金銭の使い方を教えたりして、今後この子達が独り立ちした後も生活できるようなシステムを構築している。




 さらに、農業研究部の人達と意見交流会などを開いて、植物にどんな特徴があるかなどの意見交換なども行わせた。




 そしてもう一つ、子供達に人気な物がある。




「あ、もう一つ聞いてみたいことがあったんだけどさ、『サッカー』って楽しいの?」




「うん!とても楽しいよ!」


「最近は毎日みんなでやっているよ!」





 この世界の子供の娯楽として、サッカーを広めたのだ。サッカーボールに関しては、布の中に羽毛を詰め込んだ物で代用しているが、広さやゴールの大きさは地球の物と一緒になっている。ちなみにゴールは、木で作った物だ。


 子供を元気にするならスポーツが一番という『アイ』の意見を受けて、『サッカー』を採用したのだ。


 理由はもちろん作るのが簡単だったからだ。




 ボールを12個とサッカーコートを2つ作ったら、毎日大賑わいだと子供兵舎の方から聞いている。


 計画は成功と言っていいだろう。


 後日試合ができるようにルールを書いてまとめた紙を渡して置いた。次に来た時には試合の観戦ができるだろう。

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