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第20話 異端

「はっ!」




「おっと、今のは良かった。」




「は、はいっ!」




 SHSメンバー用に開発された、特殊なナイフを片手にクレアは連続的な攻撃を繰り出す。


 基本的に、フィジカルでは遅れをとってしまうクレアには、自由で多彩な攻撃を教えた。その場にある物を、最大限に活用する方法を授ける。




 武器とは、何も道具だけではない。例えば柔道選手が、相手を投げた先に石があったならば、それは武器と言えるのではないか。武器は無数にある、素人はそれに気づかないだけだ。


 大切なのは、自分のフィールドに相手を引き摺り込む事だ。




 って、『アイ』が言っていた。




【・・・・・・】




 ・・・・・・




 いや、すまん。


 俺には戦闘の事なんかさっぱりです。


 だってそうだろ?もうこの世界に来て10年とはいえ、まだ10歳だぞ?


 俺の弱さを舐めないでもらいたい。




【確かにレオルド様には不可能ですね。】




 わかってるよ、そんな事・・・・・・




 そんな俺・・・・・・いや俺の身体は、現在クレアと模擬戦をしていた。


 場所は、シュヴェリーンの北側にある軍事機密区域の中にある訓練所だ。


 木々が生い茂る小さな人工林の中で、刃物と刃物が交わる音が鳴り響いた。  




「今の動きは単純過ぎかな〜、もっと大胆に動かなきゃだな。」




「は、はい。」




 激しい打ち合いが一区切りつき、少し余裕が生まれたので、お互い距離を開けた。




 最初の頃と比べれば、見違えるほど動きは良くなっているが、プロと対決した時の事を考えると少し物足りない。




【やはり、センスがあります。経験も積んでいるので、適応力がすごく上昇しています。】




 終戦後、俺はハーンブルク領内の全ての盗賊団及び山賊を撲滅した。


 それまでも、何度かSHSを派遣してたくさんの組織を潰してきたが、今回は新領地の治安回復を行いつつ、いつものようにサッカーの普及と道の整備を行った。




 盗賊というのは、素晴らしい存在である。


 排除する際に、SHSメンバーの戦闘訓練ができる上、盗賊団が貯めていた財産は全てハーンブルク家が回収できる。


 さらに、盗賊団を潰したというニュースが周囲の村や町に拡散されることによってハーンブルク家の威信が高まる。


 まさに一石三鳥、いや場合によってはもう2、3羽ほど鳥をゲットできるかもしれない。




「行きますっ!」




「おっと・・・・・・」




 クレアは、魔力によって身体全体を強化すると、周囲の木々を足場にしながらするどい動きで俺の死角へと入り込む。




「はっ!」




 俺は、クレアの攻撃を残り数cmのところで回避する。もちろん全て見切っていた。


 対するクレアの動きは早かった、攻撃が回避される事を想定した上で次に繋げた。


 後ろに回した左手から、隠していたナイフを投げた。




「狙いは悪くない、でもそれだけじゃ勝ち切れないよ。大事なのは組み立てかただね。」




「は、はいっ!」




 狙いは本当に悪くない、だがナイフを上手く隠し切れていない。素人やその辺の貴族なら容易に制圧が可能だと思うが、相手が同じ諜報部隊の人間だったとすると、勝ち切れない可能性がある。




 アイがアドバイスすると、クレアはすぐに修正してきた。


 彼女の成長を見守る事は楽しい。





 ✳︎





 その頃、現在進行形で王国軍に包囲されていたトリアス教国の首都では、ある異変が起きていた。




「お待ち下さいっ!枢機卿猊下っ!私は全くの無実ですっ!」




「ならば、君の机の上にあったコレについてはどう説明するんだね?」




 今回の戦争を引き起こした原因であり、トリアス教国の騎士団長を務めるこの男は、現在異端審問を受けていた。


 教国の首都内では、戦争の即時停戦を求める声が日に日に増えていた。


 それに対して、教国の中で1番偉い教皇は、即時停戦を求める者全員を異端者と認定した。


 まぁ実際は、まだ幼い教皇の名前を借りたこの枢機卿が、強引に発言したわけだが、この発言によってトリアス教国内は大混乱に陥った。




 まず、教国内のほぼ全員の信者は、心の中で即時停戦を求めていた。既に、1年以上が経過したこの泥沼の戦争によって心身ともに疲労が溜まっており、あらゆる面で物資が枯渇し始めていた。


 食料はもちろん配給制になり満足に食べられない信者が増え、何度か食料が盗まれるといった暴動も発生していた。


 教国は何度も粛清を行い、統制を何とか維持してきたが、そろそろ限界が近づいてきた。




 あと何か、小さくてもいいからきっかけが有れば・・・・・・




 そんな時、教国内に新たな一派が誕生した。首謀者は誰なのかわからない、だが即時停戦を謳い、『プロス派』と名乗る信者が指数関数的に激増した。焦った教国首脳部は、騎士団長の書斎に『プロス派』である事を指し示す端が突き出た楕円形のマークが書いてある本を発見し、彼を『プロス派』の指導者として拘束した。


 そしてすぐさま異端審問された。




「何かの間違いですっ!猊下っ!」




「さっさと仲間を吐けっ!全員まとめてギロチン送りにしてやろう。」




「そんなはずありませんっ!」




「黙れ黙れっ!もうネタは上がっているんだっ!さっさとしろっ!」




「う・・・・・・」




 騎士団長を殺したところで、事態が好転するはずがない。


 だが、極限の緊張状態によって、冷静な判断はできていなかった。


 結局、騎士団長は投獄される事になったが、『プロス派』の勢いは留まる事を知らなかった。

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