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第14話 賢弟

「お久しぶりです、兄さん」




「おぉユリウスか、久しぶりだな。元気にしていたか?」




「はい、兄さんも、元気そうで何よりです。」




 俺の天使・・・・・・ユリウスもずいぶんと大きくなった。俺の一つ下で、今年で8歳になる。


 もう流石に天使とは呼べないが、お父様譲りの黒髪に中性的な顔つきな彼は、変装すれば美少女になれるかもしれないほど天使の面影が残っている。




 ユリウスは現在、湾岸都市テラトスタに作られた初等学校に通っており、夜はハーンブルク領の文官に混じって手伝いをする毎日を送っていた。




 ハーンブルク家6人家族の内、2人の姉は王都におり、お父様はドレスデンにいるので、現在シュヴェリーンにある我が家で寝泊まりをしているのは俺とお母様の2人だけだ。


 そのため、こうして顔を合わせるのは2週間ぶりぐらいになる。




「学校の様子はどうだ?エルフ達とも仲良くできているか?」




「はい、以前はギクシャクしていましたが、最近はすっかり仲良くなっています。やはり、商人が多いテラトスタでは受け入れられるのが早いようです。」




 ユリウスをテラトスタに送った理由は2つある。


 1つ目は俺たちには異母兄弟がおらず、テラトスタを任せられる人物が少ないからだ。


 ミドールのような中間都市ならともかく、ハーンブルク家の貿易の要であるテラトスタをハーンブルク家の人間以外が管理するのは少し困る。


 そのため、監視役という意味も含めてテラトスタに住んでもらう事になった。


 幸い、お母様の血を引いているからか、要領がよく手際もいいので、すぐに仕事を覚えて活躍しているそうだ。




 そして、2つ目の頼み事というのが・・・・・・




「最近では、テラトスタを訪れるエルフやハワフ島へ旅行に行く領民が増えているとの事です。やはり、定期船を設けたのは正解でした。」




「ハワフ島の珍しい果物とかが、領民の間で流行っているって聞いたな。」




「はい、私も先日試食しましたが、とても美味しかったです。ですがあれは・・・・・・」




「そう、お前の予想通りあれは俺が作らせたものだ。果実の甘さはその土地の気候によって大きく影響される。ワインの材料に使われる葡萄は一日の寒暖差が大きい所で育ちやすいってのがあるからな。大量に植えさせたんだよ。」




 黒船級1番艦『テンペスト』の上で安全保障条約が結ばれた際、実はハーンブルク領研究部の農業部門のリーダーであるエリーゼさんを連れて来なかった事を全力で後悔していた。




【無い物を悔やんでも仕方がありません。今出来る事を探しましょう。】




 そして、落ち込んでいたら『アイ』に慰められた。


 結局その後、できる限り土地を整備し、帰宅後すぐに送った農業部門のメンバー達に色々な果物を送ったのだ。


 そしてその第一陣が今年からハーンブルク領の市場に並ぶようになったのだ。




「そのおかげか、新たに数百人ほどの領民がハワフ島にあるハーンブルク領の都市『ハワフシティ』への移住を希望したので許可しました。」




「やっぱりそうなったか。」




 俺としては、ほぼ予想通りの展開であった。事前に『アイ』も予想していたが、俺や研究部の農業部門や漁業部門によって食文化の幅を広げた結果、それぞれの都市で独自の食文化が発達している。


 特にテラトスタでは、世界中から色々な食材が集まるためか、食にうるさい人が多い。


 そして俺は、今テラトスタで起こっているであろう問題について質問する事にした。




「鉄道ができたから人通りも増えて大変だろ。 」




「はい、特にサッカーの試合がある休日の混み具合はものすごいです。ですが、都市の中心部に集中してしまい、郊外には人が集まらなくなってしまっています。」




「なら、心を落ち着かせる場所を作ったらどうだ?」




「どういう事ですか?」




 どうやら発言の意図がよくわかっていないらしかったので、詳しく説明した。




「簡単に説明すると、サッカー関係以外の魅力的なスポットを増やすんだ。例えば公園とか園芸とかだな。」




「なるほど、人を呼び寄せるという作戦ですか。」




「そう、何も無いところには人は集まらないからな、子供が喜ぶような施設をたくさん作ればその家族も来てくれるからな。」




 俺からアドバイスできるのはこれぐらいだろうか、ユリウスならきっといい案を思いついてくれるだろう。




「わかりました、すぐにやらせます。」




「具体的な量や広さはそっちに任せるよ。」




「はい、ありがとうございます、兄さん」




 その後も、俺は久しぶりの兄弟の時間を楽しんだ。





 ✳︎





 その頃、サーマルディア王国内の国民の間では、変な噂が流れていた。




「おい、聞いたか?隣村の連中が、全員いきなり何処かへ引っ越したらしい。」




「引っ越しだと?そんな事できるわけないだろ。」




「酔っ払っていただけじゃないのか?」




「それがどうやら本当の事らしい。戦争で今の生活が苦しくなって村丸ごと夜逃げしたらしい。」




「ほ〜不思議な事もある物だな。」




 生きる余裕が無い者、周りから軽蔑されている者、賢い者など、多くの国民がハーンブルク領及びその周辺に移住した。


 レオルドの作戦は、ここでも大成功を収めていた。

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