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第6話 思惑

 パーティーも無事終了し、少し早めに自由解散となった。商人や家臣達、サッカー組は既に帰宅しており、明日帰宅予定のハワフ共和国一行などはハーンブルク家が経営する高級ホテルに案内しておいた。




 しかし、最後にもう1人、パーティーに参加したメンバーの中で最も重要な人物との会談が残っている。




 日も沈み、ヘレナ様を彼女の寝室に送ったあとで最後の会談が始まった。




「それではそろそろ始めましょうか。」




「はい、わかりました。」




 相手はもちろんイレーナの父親であり、サーマルディア王国の宰相であるギュスターさんだ。


 ただ今回の話し合いではイレーナが向こう側ではなくこちら側に座った。




「ではまず私から、サラージア側の戦線に関しては口を出さないという約束でしたが、王国としてはトリアス戦線に参戦してほしいと考えております。」




「それは、何故でしょうか。」




 いきなりとんでもない発言がぶっ飛んできた。サッカー観戦中は、現状維持を目指すと言っていたが、おそらくこのままじゃ厳しいのだろう。




「理由は簡単で、トリアス戦線が膠着してしまったため、ハーンブルク領及び一部の地域を除くサーマルディア王国のほぼ全ての地域で人手不足となっているからです。」




 考えてみれば、当たり前な話だ。


 今回のトリアス戦線に投入されたサーマルディア王国軍の兵力はおよそ30万、それに対してハーンブルク領を除くサーマルディア王国の人口は200万、つまり人口の15%ほどが戦争に参加している事になる。


 さらに、人口200万といってもその内のほとんどが武器を持った事のない農民で、丈夫な身体を持つ健康的な成人男性となると、ちょうど30万いるかいないか程度である。




 半年近く戦争が続けば、こうなるのは当たり前だ。




「つまり、貴族の不満が爆発する前に戦争を終わらせたいという事ですか?」




「簡単に言えばそうなります。現在何とか戦線を維持できているのはハーンブルク領からの物資の補給があるからと言っても過言ではありません。」




 王国側の本当の狙いとしては、今回の戦争で苦しい思いをしている貴族が反乱を起こさないために、ハーンブルク家の力を削いでおきたいと考えたのだろう。


 つまり、反乱を起こす気力を失くそうという事だ。




「まずはトリアス教国と休戦するのが先ではないんですか?」




 お母様は状況を理解し、適切に対応した。




「既に、休戦の提案は何度もしておりますが、教国からの提案はとても同意できるような物ではありませんでした。」




「そうですか。」




 お母様は、特に驚きもせず流した。


 実は、このような動きはある程度予測できた。何故なら数日前、似たような話をお母様としたからだ。





 ✳︎





「レオルド様、ひとつだけ妙な報告があります。」




 サラージア王国との間に停戦条約が締結されてから十数日後、俺はSHSメンバーの1人から気になる報告を受けた。




「どうしたんだ?」




「はい、サラージア王国の敗北の情報は、トリアス教国中に伝わったはずですが、トリアス教国軍に動きが全くなかったのです。」




 確かに変な話だ。


 サラージア王国が敗北した以上、トリアス教国は二正面作戦を強いられる事になる。ならば、多少なりとも部隊を派遣してハーンブルク側の防御に回すはずだ。


 しかし、そのような動きは一切見られないという。


 どういう事なのか、この状況をアイはこう分析した。




【トリアス教国の真の狙いはサーマルディア王国の分断かもしれません。】




 どういう事?




【国の団結力が高い教国では、宗教という土台があるので戦争が長期化しても反乱が起きる事はまずありません。しかし、王都から戦線までの距離が遠く、国土の広い王国では、戦争の長期化によって地方の貴族や国民に不満が溜まり反乱が起きる可能性が高かまります。】




 でもトリアス教国って確か人口150万ほどしかいなかったよね。総人口の20%を兵士として駆り出した状態で半年は流石に厳しいんじゃない?




【その30万という兵力も実際はその半分程度しかいない可能性もあります。さらに、長期化する事を最初から狙って国境付近を流れる河の近くに畑を作り、最初から備えておけば十分戦えます。】




 でもそれってハーンブルク側から攻められたら意味無くない?




【サーマルディア王国の軍部、もしくは参謀にトリアス教国と内通している人物がいる可能性があります。そしてさらに、サラージア王国も同じように内部分裂させる計画があったかもしれません。サラージア国内のおよそ30%はトリアス教の信者だという話もありますし、我々と同じように平民優遇派を味方につければ共倒れを狙えます。】




 ・・・・・もしそういう計画であったとしたら天才じゃん。




【はい、相当な策士である事は間違いありません。】




 それほどの奴がなんで宗教国家にいるんだか・・・・・・




【早速、状況を打開するための布石を打っておきましょう。】




 ならこっちも仕返しに、宗教の内部分裂を狙うとかは?


 ほら、異教徒はまだ改心するかもしれないけど、異端者は許さない、みたいな話あったじゃん。




【なるほど。一理ありますね、では私が思いついた作戦とマスターの作戦の同時進行でいきましょう。】




 おっけー





 ✳︎





 という話があったのだ。




 これについて、俺は既にお母様と相談してあった。敵の真の狙いがサーマルディア王国の内部分裂かもしれないという話をすると、お母様はとても驚いていたが、いつも通り丁寧に説明すると、納得してくれた。そこで俺達は、2つの布石を打つことにしたのだ。




「お話は理解できましたが、我々としても今は動ける状況ではありません。サラージア王国とは終戦ではなく停戦ですので、いつ攻めてくるかわからないのです。そんな中、教国側に兵士を回すとなると、ここシュヴェリーンを攻撃される可能性があります。念のため教国付近にも軍を配備してありますが、こちら側から攻勢を行う予定はありません。」




 もちろん嘘である。王国から派遣された国防軍およそ4000弱を教国との国境付近に展開しているのは本当だが、仮に教国と全面戦争になってもシュヴェリーンやテラトスタに危険が及ぶわけがない。


 もちろん本音は、教国と戦争したくないの一点である。




「やはり、そうですか・・・・・・」




 まあ当然の反応であった。


 おそらくギュスターさんも、頷いてくれるとは思っていなかっただろう。


 1番困るのは、ハーンブルク家を敵に回す事だ。


 自分達からした提案を、自分達の都合で、裏切った結果、ハーンブルク家からの信用を失っては元も子もない。




「ですが、何もしないわけではありません。」




「っ!!!」




 お母様の言葉、ギュスターさんはいち早く反応した。




「それではレオルド、説明をお願いします。」




「はい、お母様。」




 待ってましたと言わんばかりに立ち上がった俺は、説明を始めた。

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