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第5話 勧誘

 少し粗末な作りだが、結構な大きさの建物に案内された。中に入ると、事前に得た情報通り100人ほどの子供たちがそれぞれで遊んでいた。


 俺の存在に気づいた年老いたシスターさんの1人が声をかけてきた。




「ようこそいらっしゃいました、噂は聞いております、レオルド様ですね?シスターです。」




「こんにちは〜!レオルド・ファン・ハーンブルクです!」




 俺はいつもの『五歳児の対応』を行い、警戒心を解く。5歳児に警戒するような大人は普通いないと思うが、念のためだ。




「はいこんにちは。本日はどうしたのかな?」




「見学に来ましたー!」




「あらそうなの。なら同じぐらいの子に頼んだ方がいいわね。ちょっと待っててね、そこのあなたクレアを呼んできなさい。」




「は、はい。」




 俺の見学したいという要望に対して、同じぐらいの年齢の子に任せるべきと判断したのか、1人の少女を呼び出し、対応させた。


 やがて、整った顔立ちだが、少しあどけなさを感じる金髪でショートヘアの少女がやってきた。年齢は5つか6つぐらい上で、とても可愛らしく、孤児院なのにこんな子もいるんだ、と思うような美少女だった。




「こんにちは、シスター。どうしましたか?」




「そこにいるレオルド様にこの孤児院を案内してさしあげて下さい。私が案内するより、同じぐらいの子に任せた方がいいと思うの。」




「はーい、わかりました。」




 シスターさんから説明を受けた少女は、振り返った。




「はじめまして、クレアです。よろしくお願いします。」




「レオルド・フォン・ハーンブルクです、よろしくお願いします!」




 俺はそう、元気よく答えた。元気と笑顔は大切である。


 それと、彼女めっちゃ可愛い。


 こういうメイドさんとか欲しいなとつい思ってしまう。




「じゃあ後は彼女にお願いするわ、楽しんでいってちょうだい。」




「はい!」




 それだけ伝えると、シスターさんは奥の方へと行き、別の子供たちの相手を始めた。


 どうやら、俺の相手をあまりしたくないらしい。




【どうやら異教徒であるレオルド様をあまり良く思っていないようですね。さっさと帰ってくれという思いが伝わります。】




 ーほんとそれな。めっちゃ伝わったわ。確かにこれは『アイ』が言った通りお掃除しなきゃだな。




【というわけでまずは子供達をこちら側に引き入れましょう。子供の可能性は無限大です、その可能性こんなところで潰したくありません。】




 了解っと。




「では案内してもらえますか?」




「っ!は、はい。」




 先ほどまでの喋り方をやめ、いつもの口調に戻す。すると案の定、クレアは驚いた顔をした。


 これこれ〜この顔が見たくて秘技『5歳児の対応』を使ったんよ。




【・・・】




 その後、クレアの主導の下、孤児院の内部を見て回った。施設を見学する振りをしつつ、孤児達の表情や衣服、施設の設備などを見て回った。




「ここが食堂です。信者様達からの寄付と領主様からの寄付で成り立っていると聞いています。」




「出てくる料理に、不満などはありませんか?」




 聞きたい事をストレートに伝えた。それっぽい資料を作らないと、お母様は納得させる事はできないだろうからこの辺の資料は必要だ。


 最悪、捏造すればなんとでもなるが、ここは一応証拠を残しておく。




「・・・・・・私はそんな事ありませんが、より年長組の男の子の多くが少ないと感じているそうです。」




「そうか。」




【おそらく、あまり文句を言いたくは無かったが、この一言で援助金が増えるかもしれないと判断したのでしょう。少しは頭が回るようですね。】




 そして俺たちは、食堂の隅の方に向かい合って座った。一応見せてもらえるところは全て見て周ったので、あとは彼女自身に聞いてみたい事を聞こうと思ったからだ。


 リヒトさんに、盗み聞きされないように、周囲を警戒してもらい、俺は聞きたかった事を聞き始めた。




「一つ疑問に思った事があります。」




「何ですか?」




「あなたに、夢はないのですか?」




「夢、ですか?・・・」




「はい、将来の目標と言い換えてもいいかもしれません。」




 ずっとこれが聞きたかった。孤児院に通うという事は、将来は自動的に神父もしくは信者としてこの宗教に人生を捧げると言う事だ。


 これでは、優秀な子供までもが宗教という闇に埋もれてしまう。




 確かに子供たちは活気に満ちていて、楽しそうな生活を送ってはいた。しかしそれは、より小さい子供のみで、年長組になるとどちらかというとあまり良い顔をしていなかった。




 おそらくだが、夢を諦めた子が多いのだろう。街で見かけた活気よく楽しんでいる人々とは違い、自分達はこうするしかないと、子供ながらに知ってしまったのだろう。


 結論としては、概ね予想通りであった。




「夢がないと言われたら嘘になります。しかし、私たちはおそらく神父かシスターになるでしょうから、将来の夢などは持たないようにしています。」




 クレアは、少し焦った顔をしながら周囲を見回した後、周りに聞かれたくなかったようで、とても小さな声でそう伝えた。




「それは、この孤児院にいる子供たちに共通することか?」




「はい。」




【だいたいの状況は掴めました。そろそろ帰宅して、作戦の準備を進めましょう。】




 ー俺もそれが良いと思う。とりあえず戻って準備をするべきだよな。




【そこで提案なのですが、彼女クレアに一緒に来てもらってはいかがですか?】




 ーいや無理だろ、口実がない。なんて伝えればいいんだよ。




【普通に、来たがっていたからと言えば良いでしょう。実際、子供がいない夫婦が孤児院から子供を引き取る事はよくある事です。】




 ーでもそれって信者じゃ無いとダメなんじゃないの?




【通常ならばそうでしょう。しかしそこは、次期領主という事を盾にゴリ押せばなんとかなるはずです。】




 ーわかった。




「一つ提案があるんだけどさ、ウチに来ない?」




「それは、領主様の所で働かないかという話ですか?」




「まぁ簡単に言うとそうかな。俺としても、この孤児院は将来的になんとかしなきゃと思っている。そこで、この孤児院に詳しい君が味方になってくれたら動きやすいってのもある。」




「私だけ、ですか?」




「君1人のつもりだけど、一緒に来たい子がいるならその子も一緒でいいよ。」




「少し考えさせて下さい。」




 そして、彼女は考え始めた。


 何故この子を勧誘するのか、能力的に見ればまだ未知数な部分は多かったが、まだこの宗教に染まっていない事が大きな要因だ。


 俺はてっきり、子供たちは既に熱狂的な信者へとなってしまっていると思ったが、どうやらまだちゃんと自我がある子がいるみたいだ。もちろん、美少女である事も忘れてはならない。


 後は、クレアがこちらについてくれればだが・・・




【どうやら彼女も、決意したみたいですね】




 ーこの顔はそうなんだろうな。




「レオルド様、今日からあなたの下で精一杯頑張らせていただきます。よろしくお願いします。」




「わかった、これからよろしく。」





 そして俺は、いずれ相棒となる優秀な少女のスカウトに成功した。

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