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第13話 死兵

 勝敗はすぐに決着した。


 10倍以上の兵力差があったので、まともにぶつかったなら勝って当たり前の戦いであった。


 もちろん勝利はした、勝利はしたが・・・




「なんだと・・・・・・」


「ソラーノ将軍が?そんなはずはないっ!もう一度調べて来いっ!」


「馬鹿な・・・・・・」




「間違いございません。この場に将軍がいない事が何よりの証拠でございます。」




 報告に来た男は泣いていた。ところどころに返り血を浴びており、手にはかつてソラーノ将軍が愛用していた槍を持っていた。


 戦死の報告を聞き、国王を含むその場にいた多くの者が俯いた。


 サラージア王国国王にとって、右腕とも呼べる存在であるソラーノ将軍を失ったのだ。


 部隊を2万、2万、4万の3つに分けて挟撃を行い、敵を1人も残さずに殲滅するというソラーノ将軍の作戦は大成功であった。しかし、肝心な本人が戦死した。




「敵は、それほどまでに勇敢だったのか?」




「それが・・・・・・兵と兵がぶつかり合う直前に、敵の流れ弾が運悪く側頭部に当たってしまい・・・・・・」




 死体解剖などをすれば、ソラーノ将軍を葬った弾丸の形状が普通の弾丸とは違う事に気づけたかもしれないが、もちろんそんな事はしなかった。




「そうか・・・・・・惜しい友人ともを亡くしたな・・・・・・」




 国王は涙をぐっと堪える。国王にとって、ソラーノ将軍は良き友であった。同年代という事もあり貴族学校に通っていた頃から仲が良く、最近では気軽に会話ができる数少ない人物の内の1人であった。


 そんな友人を失ったショックは大きい。


 後悔と同時にふつふつと怒りが込み上げてくる。




「陛下、恐れながら申し上げます。もしかしたら敵には銃の達人がいるのかも知れません。ですので陛下は後方の安全な所で待機し、私に兵を預けていただけませんか?ソラーノ将軍の仇を討ちたいと思います。」




「弔い合戦か、いいだろう。お主に2万5000の兵をつける。このまま真っ直ぐ進めばハーンブルク領のドレスデンがあるはずだ、そこを落としてみよ。」




「はっ!必ずやご期待に応えます!」




「頼んだぞ。」




 そして、サラージア王国軍は隊を2つに分けると、国王率いる本隊はその場に留まり、ライカ将軍率いる別働隊がハーンブルク領ドレスデンに向けて進軍を開始した。


『アイ』の策略に既にハマってしまっているとは知らずに・・・・・・





 ✳︎





「ハァハァハァ・・・・・・どれぐらい減った。」




「残ったのは3部隊合わせて1000にも満たない数でございます。」




「くそっ!!」




 6000対8万という絶望的な戦力差はひっくり返らなかった。


 勝ち目が薄い戦いだという事は当然知っていたが、まさか本当に正面から殴り合うとは思っていなかった。その結果、戦場はさながら地獄絵図のような状態となっていた。


 また、騎馬部隊による挟撃によって退路を絶たれた結果、ほぼ全滅に近い打撃を受けていた。


 命かながら逃げて来たこの将校は、後ろを振り返って気づいた。




「他の2人はどうした・・・・・・」




「「「・・・・・・」」」




 兵達は答えず皆下を向く。ここにいないという事は、生き残った可能性は限りなく低いという事だ。


 そのような事実は、誰の目にも明らかであった。仮に生き残ったとしても、自分達から飛び出したハーンブルク領に逃げるわけにはいかず、敵の捕虜となったか、現在も自分達と同じように逃亡中という事だ。




 ともにハーンブルク領を飛び出した2人の将校は若かった。2人とも自分と同じ下級貴族出身で、年は離れていたが妙な親しみがあった。


 2人とも勇ましくて、これならば例え10倍の兵力差であっても勝てるかもしれないと考えていたほどだ。




 だが、現実はそう甘くはない。


 部隊は壊滅状態になり、2人の将校はおそらく命を落とした。勝つどころか、惨敗としか言いようがない結果であった。


 そして、ひたすら自分を責めた。




「わしがあの時、女傑殿と共に戦う道を選択していれば・・・・・・」




 サラージア王国国王と同じく、彼もまた自分の取った選択を後悔していた。


 後から後悔してももう遅い。そんな事は分かっている、分かっているが・・・・・・




「わしは、敗軍の将としておめおめ王都に戻るような真似はしない。」




 もう一つ、男は後悔している事があった。


 それは、自分だけ戦場から逃げ、生き残った事だ。男は覚悟を決め、部下に自分の選択を告げる。




「今一度攻勢を仕掛け、なんとしてもサラージア国王の首を取る。全員反転っ!!!」




「「「おぉー!!!」」」




 部下の兵達も、心は同じであった。誇り高き王国軍の兵士として、このままでは終われない。


 ならば・・・・・・




「全員突撃ー!!!」




「「「おぉー!!!」」」





 日も沈み始め、遠くがよく見えなくなった頃、わずか800名ほどの敗残兵の一味が、別働隊の監視を抜けてサラージア王国軍本陣に最後の奇襲を行った。さらに、それに合わせて捕虜として捉えられていた国防軍兵達も発起した。


 死兵となった彼らは猛威を振るい、サラージア王国軍に恐怖を与えるとともに散っていった。この戦いにおける国防軍の生き残りは100名にも満たず、サラージア王国の損耗率は2割にも登った。





 ✳︎





 国防軍の生き残りが最後の突撃を仕掛ける少し前、ライカ将軍を先頭としたサラージア王国の別働隊が進軍を開始した。


 当然その動きは丘で身を潜めら俺たちにも届いていた。




「敵部隊、隊を2つに分け進軍を開始しました。」




「先行部隊の兵力は?」




「およそ2万5000ほどだと思われます。」




「そうか、やはり隊を2つに分けたか。」




「いかがいたしますか?」




「撤退だ。国防軍と軍部の連中にゲリラ戦を任せて俺たちは補給線と連絡線の寸断と、敵の兵糧を潰すぞ。」




「「「了解っ!」」」




 俺たちは、次なる作戦を遂行するために別のポイントへと移動を始めた。


 敵の方が兵力が多い時の基本は、分断して各個撃破である。


 上手く噛み合えば、こちらの被害を出さずに敵を踏み躙れるかもしれない。

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