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第27話 side エリナ

 私は今日、すごい物を見た。




 私の愛する息子であるレオルドは少し、いやだいぶ異常だ。もちろん悪い意味ではない、いい意味で常人とはかけ離れた想像力と創造力を持っている。




 赤ちゃんの頃から、上の2人の姉とは一味違った。とにかく成長速度が早く、すぐに共通語を話せるようになった。


 そして、小さな物から大きな物まで、数々の常識を覆すような発明を繰り返していた。


 製鉄技術や蒸気機関は言うに及ばず、研究機関や海上貿易の独占など、幅広い分野でその才能を発揮していた。中でも私が評価しているのは、共通の時刻の設定である。あまり気にしていなかっただけあって、この存在はあまりにも大きい。時間のズレが少なくなった事によって、どれほど効率化された事か、まだ時計の数は少ないが、同時に開発された砂時計と共に、早くも役に立っている。




 そして今度は、ハーンブルク領を代表するような領民の娯楽を作り上げた。


 レオルドが作ったこのサッカーと呼ばれるスポーツ、この影響力は凄まじいものであった。


 2つの巨大なサッカースタジアムの建設の許可を出した私が言うのも何だが、許可を出した当時はあまり成功するとは思えなかった。私もレオルドに薦められてサッカーをやってみたが、これが結構難しく中々上手く出来なかった。丸いボールなはずなのに、右へ左へとそれてしまい、最初のうちは真っ直ぐ蹴る事すらできなかった。そのため正直、領民の間で流行る事はないだろうと思っていた。失敗するのも経験のうちだ、と軽い気持で許可したが、結果は私の予想を大きく上回った。




 結果は文句なしの大成功。1番最初に、お試し程度で使ったサッカー場には、毎日多くの子供達が訪れ、一生懸命にボールを追っていた。休日は親子でサッカーを楽しむ姿を見る事も増えた。


 次第にサッカー場の数も増えていき、その勢いは止まらなくなっていった。同時に需要が急増したサッカーボールの売り上げも止まる事を知らない。正直それだけで、サッカースタジアム建設の元は取れていた。


 そして、レオルドが次に行ったのはサッカーチームの設立である。ある日の夕方、訪ねて来たレオルドにこんな事を相談された。




「お母様、サッカーチームを2チーム作ろうと思います。」




「サッカーチームですか?」




「はい、子供兵舎にいる子の中から特に上手い28人を選んでチームを作ります。そして、その2チームで本物のサッカーの試合を行う予定です。」




 レオルドの意見を聞きながら、私は頭の中で情報を整理する。確かにレオルドは、サッカーの事を競技だと言っていた。という事は、サッカーの本来の遊び方は、大勢でボールを追いかけ回すのではなく、別の遊び方があるのではないかと考えた。


 そしてそれが、サッカー場を作るときに、その大きさを厳しく設定した事に何か繋がりがあるのではないか、と予想した。




「先日新設されたサッカースタジアムで試合を行うという事ですか?」




「はいそうです、大々的に公表して領民から観客を集い、入場料や飲食費によって利益を得るという計画です。」




『試合』と言われて、私は剣術の大会のような物を想像した。王都で開催される剣術を競い合う大会で、毎年多くの有名な貴族や騎士が参加するやつだ。


 貴族夫人であるとはいえ平民出身の私は、夫が参加した大会を2、3度見たことある程度で詳しい内容などは知らない。


 ただアレは、貴族と騎士及びその家族限定で、平民の出場及び観戦は出来ないルールになっている。


 それを、領民向けに開催するという事だろうか。


 その瞬間、私の中で全てが繋がった。レオルドは最初からこれが目的であったのだ。領民の心を掴み取り、サッカーに熱中させたところで、サッカーの試合を見せさらにその人気を加速させるという事だ。




「だいたいやりたい事がわかりました。人選はレオルドに任せます、私はサッカーの試合を行う際の警備や周囲の貴族への対応について考えます。」




 他の貴族との外交などは、レオルドはまだ経験が無いので、私が担当する事にする。


 しかし、肝心の集客の部分などは私よりレオルドの方が適任だろう。




「ありがとうございます、早速話を進めようと思います。」




「他にもやってほしい事があれば対応しますが、何かありますか?」




「では1つ、商店や飲食店をスタジアムの周りに集めて下さい。」




 飲食店?なるほど、観客に買ってもらうつもりですか。




「観戦に来た領民が周囲の売店でお金を落とす事を期待する作戦ですか。わかりました、私の方で調節します。」




「ありがとうございます!」




「頑張って下さい、レオルド。」




「はい、お母様っ!」




 そういうと、レオルドは笑顔で私の部屋を後にした。そして私も、どういう物になるのか楽しみで仕方がなかった。





 ✳︎





 そして、月日が流れ試合当日となった。


 私は私の子供であるユリウス、ファリアとヘレナ様とその護衛を連れて、スタジアムにやって来た。


 選手が座っているベンチのちょうど真上あたりに特別に作るように命じた特別観覧席に座る。


 私たちは、試合開始の30分ほど前に到着がすでにスタジアムはほぼ満席であった。




「人がいっぱいだね、お母様。」




「そうですね、チケットが完売した時からこうなる事は予想していましたが、すごい人数です。」




 しばらく経ち、いよいよ試合が始まった。


 私からみて右側にレオルドが監督を務めるRSW、左側にイレーナさんが監督を務めるFCTがそれぞれ人を貼る。


 レオルドが用意したと思われるユニフォームを着て、早くも盛り上がりを見せていた。




 そして会場全体の空気がガラッと変わったのはRSWのキャプテンを務めるアンさんが、豪快なシュートを決めた時であった。


 先ほどまでとは比べものにならないほど大きな声援が、スタジアムを沸かせた。


 はっきり言って私も領民達と同じ気持ちであった。


 この一発のゴールによって言葉では言い表せない感動を味わった。


 やがてチームの応援に段々と一体感が生まれた。レオルドの用意したタオルを掲げ、レオルドが用意した旗を振り、レオルドが用意した応援歌を歌う。


 いつのまにか作られていた楽器が、大きな音を出しながら会場を盛り上げた。


 そしてこれは、RSWだけではない。同じような動きがFCTの方にも顕著に現れた。


 私も途中からRSWを応援するようになり、ヘレナ様もRSW、ユリウスとファリアはFCTを応援していた。




 一度は追いつかれたものの、試合終了直前に、華麗なドリブルで3人の敵プレイヤーを抜いたRSWのアンさんが、決勝点を決め試合は幕を下ろした。




 領民達同様、私も終始ずっと興奮しっぱなしであった。


 勝利が決まった直後なんか、感動で泣きそうであった。周りを見渡してみると、多く領民達も同じように感動して泣いている人が何人もいた。




 そして、サッカーの影響は、試合の応援グッズの完売だけではなかった。これは後から調べてみてわかった事だが、その日の飲食店や宿の収益が倍増していた。


 おそらくここまでレオルドは計算していたのだろう。




 私は、我が息子ながら恐ろしさに戦慄するとともに、将来がより一層楽しみになった。

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