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第1話 sideエリナ7

『やあやあこんにちは、初めてましての者もいるし、何度か話した事がある者もいるだろう。私は、ハーンブルク家の新たな当主となるレオルド・フォン・ハーンブルクだ。さて、私は今日、我々が新たなる発展を遂げた事を諸君らに報告しようと思う。その内容は、これを聞いている諸君ならば既に知っているだろう。私は、今日遠く離れた人々に音声を届ける装置の開発に成功した。』




 目の前に置かれた機械から、愛する自慢の息子であるレオルドの声が聞こえる。


 周囲に彼の姿はない。


 息子の説明では、遠く離れた場所でも声を届ける事ができる装置らしい。


 まるで、魔法のような所業だが、間違いなく現実だ。


 私の隣にいる、義娘たちも自らの目、いや耳を疑っていた。


 事前に説明があったものの、驚かずにはいられない。




「・・・・・・流石、私の自慢の息子ですね。」




「凄すぎだ・・・・・・同じ人間がやっているとは思えねぇ。」




 私の呟きに対して、正面に座った私の夫が呟いた。レオルドの異常性は、何も今になって始まった事では無い。


 優秀すぎる。


 一体誰が、このような未来を想像したのだろうか。




「ですが、正真正銘、私たちの大切な息子である事は変わりありません。私は、これからも、あの子の母親として、あの子を支え続けます。」




「あぁ、そうだな。あいつは俺の息子だ。」




 私は、愛する夫の手を握った。


 無意識に・・・・・・そして知らないうちに・・・・・・


 私は、どこかで不安を感じているのだろうか。


 いや違う、私は誇らしいのだ。見なくても感じる、立派に成長した自慢の息子を・・・・・・


 そして、幸せな未来が・・・・・・




『同時に、私はここに宣言する。今日から私が、ハーンブルク家の当主になると。』




 あんなに小さかったレオルドが、今、親元を離れようとしていた。


 いつの間にか、大きくそして頼もしくなった息子の言葉に、私は涙を流しそうになっていた。





 ✳︎





 家督相続、結婚式、誕生日の前日


 1人、バビロン宮殿のベランダからシュヴェリーンの街並みを眺めていたレオルドを見つけた私は、息子に声をかけた。


 既に日は沈み、2人ともお揃いの寝間着を着た状態であった。おそらく、レオルドも私と同様に、眠れなくて起きてきたのだろう。




「この街も、随分と明るく、そして賑やかになりましたね・・・・・・」




「そうですね。」




 街灯の普及によって、シュヴェリーンの街並みは大きな変化が起きていた。全ての道路と言うわけではないが、主要道路や政府関係施設、大きな商会、工場などにはここからでも見えるほどはっきりと明かりが灯っていた。


 変わったのは、建物だけで無く人々の行動もだ。


 明かりという存在が誕生したことによって、人々の行動可能時間が増加した。


 直接は見えないが、仕事帰りに仲間と飲み会をしている者たちも増えただろう。




「緊張しているのですか?」




「は、はい・・・・・・」




 レオルドは、少し恥ずかしそうに答えた。こんな息子は初めて見る、相当緊張しているようだった。確かに、家督相続と結婚式と誕生日を一緒の日に行うのは無理があったかもしれないが、これは仕方のない事なのだ。


 ハーンブルク領の急激な拡大は、レオルド以外の誰にとっても予想外の出来事なはずだ。注目しているのは周辺諸国だけではない。


 おそらく、全世界がレオルドに対しての情報を集めているだろう。




 そして、その助けとなるのが今回の家督相続だ。レオルドをハーンブルク家の当主と言う立場にすれば、息子は自然と今よりも内政に力を入れるようになる。つまり、今までの強引な手段ではなく、平和的で理論的な判断を取らざるを得ないということだ。これは、母親である私からの贈り物であると同時に足枷でもあるのだ。


 おそらく、息子はこの事に気がついているだろう。




「僕に、当主の座が務まるでしょうか・・・・・・」




「ふふふ、レオルドにも、心配な事があるんですね。」




「僕にも悩み事や心配事はありますよ、お母様」




「そのようですね。ですが、心配は無用ですよ、レオルド。」




 寝間着姿の私は、そっと後ろから愛する自慢の息子を後ろから抱きしめた。こうすれば、レオルドが落ちつくと考えたからだ。


 香水の類は使っていないと記憶しているが、不思議と良い香りがした。




「お母様?」




「あなたには、責任と同時に、たくさんの仲間がついています。ヘレナさん、イレーナさん、ユリアさん、クレアさんだけではありません。執事のリヒトさん、海軍のアコールさん、研究所のアインさんなど、多くの人々がレオルドについています。そしてもちろん、私を含め家族全員があなたの味方です。」




 今言った人々以外にも、本当に多くの人々がレオルドに期待している。そして、信じている。




「大丈夫です、私の自慢の息子であるレオルドならできますよ。」




 これだけ言えば、彼なら大丈夫だろう。


 これ以上の助言は、むしろ邪魔かもしれない。


 あとは、本人とその陰に潜むメイドが答えを出すだろう。




「では、私はそろそろ戻りますね。身体が冷えないように、早めに寝て下さい。」




「はい、わかりました、お母様。お休みなさい。」




「はい、お休みなさい。」




 その後、私は静かに自室へと戻った。


 緊張していたのは、レオルドだけではなかったのかもしれない。

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