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第16話 side ヘレナ

 私は今日も1人、兄の誕生日パーティーには参加せずに部屋に引きこもっていた。




 物心がついた頃から色々な事で揶揄われ、できれば兄弟たちとは一緒にいたくないなと、思うようになった。


 長男である事を鼻にかけ、使用人達を奴隷のように扱う姿は、見ていて不愉快であった。それだけではない、サルラックによって辞めさせられた使用人も多いと聞く。




 お父様やお爺さまがいる時はいいが、いない時は最悪だ。


 私が兄弟の中でも特にお母様の血を強く引き、髪色がみんなとは違って黒色である事も馬鹿にされた。


 何でこんな事になってしまったのか分からなかったが、私は1人になった。


 閉じこもり本を読むのにももう慣れ、このまま何もせずに大人になっていくのかなぁと考えていた私に転機が訪れた。


 今思えば引きこもるという判断をした過去の自分を、褒めたいほどの。




 その日、今日も私はいつものように自分の部屋で本を読んでいた。


 お父様やお爺さまは「お前もパーティーに参加しないか?」と誘って下さったが、私は断った。


 別に、パーティーが嫌いなわけではない。美味しい物が食べられたり、美しい踊りが見れたりでむしろ好きな部分の方が大きい。




 でも、私の苦手なサルラックお兄様の誕生日パーティーに出たいとは全く思わなかった。


 遠くから聴こえてくるダンスの音楽から耳を遠ざけ、聞こえないフリを続ける。


 音楽が悪いわけてはないが、どうしても好きになれない。


 パーティーが始まってからかなりの時間が経過し、そろそろダンスパーティーが始まる頃かなっと思った直後、私の部屋に誰かがやって来た。




「今入っても大丈夫ですか?」




 声だけでは誰なのかわからなかった。


 ここを訪れる人は、最近では随分と減った。


 そのため、声を聞けば誰なのかたいていすぐわかる。私は久しぶりに、今までに聞いたことの無い人の声を聞いた。




「ど、どうぞ。」




 少し不安になりながら了承する。返事をすると、扉がゆっくりと開き1人の少年が入って来た。


 濃い紫の髪に、優しそうな顔立ちの少年は、ベットの隣に置いてあった椅子に座った。


 自然と、目線が合う。




「オッドアイ・・・・・・」




「おっどあい?どういう意味ですか?」




「いやごめん、何でもない。」




「そうですか・・・・・・」




 私の部屋に上がり込んで来た変な人は、私の顔をじっくりと見つめた。


 私は、この方がどなたなのかを必死で考えたが、一切思いつかない。そもそも、最後にパーティーに参加したのはだいたい1年ぐらい前の事だし、彼のような美しい紫色の髪の方など一切記憶にない。


 といことは、この子はどこの誰なんだろう。ますます謎は深まるばかりだ。




 お互い無言の状態が続き、少し気まずくなった所で、彼は自己紹介をした。




「僕の名前は、レオルド・フォン・ハーンブルクです。よろしく、ヘレナ。」




「ご挨拶ありがとうございます。現王太子が三女ヘレナ・フォン・サーマルディアです。こちらこそよろしくお願いします。」




 私は、彼が名乗った苗字に、驚きが隠せなかった。ハーンブルク家といったら、古くから王家に仕える名家の1つである。


 北のハーンブルク家は、この国の人たちなら知らない人はいないほど有名だ。


 特に、当主代理を務めていらっしゃるエリナ・フォン・ハーンブルク様は国中の女の子にとっての憧れの的である。


 平民出身ながら、名家の伯爵の正妻となり、今では領地経営までしていらっしゃるお方だ。




 故にわからない。そのような名家の子供が何故私の部屋に来たのかが・・・・・・




「あの〜本日はどのようなご用件で?」




「ん〜君がどういう子なのか知りたくて遊びに来たんだ。」




「遊びに、ですか。ですがこの部屋には大して遊べる物なんてないですよ?」




 この部屋には、本当に本ぐらいしかない。


 生活に必要な物も、パッと思いつくのは私の服ぐらいしかない。




「ならダンスでもしない?楽しい音楽が聞こえてくるこの部屋で、一人でいるのは暇でしょ?」




「い、いいですよ。」




 私は了承し、差し出された右手を掴む。すると、ぐいっと強引に立たされた。


 少し呆気を取られたが、両手を優しく繋ぎ輪を作る。彼の手は、ほんのり温かった。




 音楽に合わせて2人はスイスイと踊る。


 久しぶりに踊ったせいか、少し私がばたついてしまった箇所もしっかりと彼が支えてくれたおかげで楽しく踊れた。




 とても、楽しくて充実した時間であった。


 音楽から自然と遠のいていた自分が再び巻き込まれたような感覚であった。




 ダンスを踊り終わると、私達は並んでベッドに座り、会話を楽しんだ。


 最近は本ばかり読んで引きこもっていた私に対して、最近起こった出来事を面白おかしく話してくれる彼に私は心を開いていた。




 しかし、同時に辛くもあった。彼は、ハーンブルク家の人間で、自分は王家の人間だ。


 ハーンブルク領と王都ではあまりにも遠い。という事は彼と次出会えるのは少なくとも1ヶ月後、長ければこの先数年は会えないなんて事もある。


 これがまたすぐに会える相手であったならどれほど良かったことか。




 私は次第に、仲良くなった事を後悔し始めた。


 そして、いよいよその時がやって来た。




「遊び疲れたし、そろそろ戻る事にするよ。」




「あの・・・・・・もう行ってしまわれるのですか?」




「うん、ごめんね。僕も明日には帰らなきゃいけない事になっているんだ。」




 彼は、申し訳なさそうな顔をしながら答える。こればかりは仕方がない、子供とは親の都合で大きく左右されるものだ。




「そうですか・・・・・・あの、またいらして下さいますか?」




「ん〜今度はヘレナ様がハーンブルク領に遊びに来てよ。じゃあね。」




 と、彼が去り際に言ったこの言葉は、何故か私の心にしっかりと響いた。明確な理由はないが、なんとなく一緒にいて心地よい相手だった。


 彼が王城を去ってから少し経つと、お父様の口から私とレオルド様との婚約を告げられた。




「レオルド様・・・・・・これが目的だったのかな。」




 そう呟きながら、そうだといいなぁと、思った。

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