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第5話 恐怖

 本土決戦というのは、防衛側の勝利で終わる事が多い。地形的有利もさることながら、全国民が一丸となって奮戦するため、例え大きなダメージを与えられたとしても攻めきれずに痛み分けで終わる可能性が高い。


 有名なのは、ナポレオンのロシア遠征や米軍が介入したベトナム戦争だろうか。


 では、どうすればいいか、最も簡単な方法は、実力の差をしっかりと見せつけた上で、相手に恐怖を与える事だ。


 圧倒的な武力をもって、敵国の国民や首脳部の心を折る事で、相手を諦めさせるしか方法は無い。




 俺は、敵を誘い出すためにある作戦を実行した。





 *





「アコール艦長、レオルド様より、書状を預かっております。」




 ハーンブルク海軍第一艦隊所属『春雨』の艦長であるアコールはギャルドラン王国の王都近海で待機していた。ちなみに、人員や物資をすでに運び出し終えて空になった『マウントシリーズ』の『穂高』と『荒川』は、物資を輸送するため一度デュークス島へと戻った。『レインシリーズ』とは違い、砲門が2門しかないが、例え敵艦に発見されても、船速に大きな差があるのでおそらく大丈夫だろうと判断された。




 周辺にいた敵の船はほとんど海の底に沈めたので、もう海の安全は確保したようなものだが、念のため周辺の監視を行いながら主人であるレオルドからの命令を待っていた。




「ここに持って来い。」




「はっ!」




 アコールの命令を受けて、一人の部下が書状を持って来て手渡した。アコールは受け取ると、すぐさま開いて中を確認する。


 内容は、やはりと言うべきか、アコールの想像通りの内容だった。アコールの事を心配してか、書かれていた内容を実行すべき理由も丁寧に書いてあった。




「やはりレオルド様は、そのように判断なされたか・・・・・・」




 アコールの呟きを聞いた部下の一人が尋ねる。




「いかがいたしましょうか、艦長」




「これより、本艦単独で極秘任務を行う。エンジン再始動、進路南南西っ!」




「「「了解っ!!!」」」




 アコールの命令に対して、艦橋にいた全員が頷いた。同時に、一体感を持ちながらそれぞれが自分の持ち場に戻り、行動を開始する。


 だが一人、アコールの左隣に立つ男、副艦長だけは、疑問の声をあげた。




「えっ!南ですかっ?それだと岸から離れてしまいますが・・・・・・」




「あぁ、南だ。」




「りょ、了解っ!!!」




 アコールの出した謎の命令は、レオルドからではなく、アコール自らが判断した内容であった。もちろん、命令違反と言うわけではない。レオルドからの命令にはしっかりと答えれているし、何よりこちらの方がより良い結果をもたらすと判断したからだ。




「敵の首都マルカト周辺にいる、すべて友軍の軍艦に連絡してくれ。海岸から近寄1km付近まで艦を近づけ、海岸線沿いを警戒せよ、場合によっては艦砲射撃も許可すると伝達しろ。」




「了解っ!!」




 アインが開発した、長距離用無線通信機によって、モールス信号が各艦に伝えられ、それぞれはその通りに動き始める。


 しばらくして、鮮やかな回頭を行った『春雨』は、ある地点に向かって、歩み始めた。


 この作戦は、ハーンブルク海軍の中で最も優秀かつ多くの戦闘を経験した『春雨』とその搭乗員だからできる作戦であった。





 *





 ギャルドラン王国


 首脳部





「状況はっ!」




「敵艦隊襲来の知らせを受け、先遣隊を派遣したころには既に敵の上陸を許してしまっておりました。このまま交戦しても不利だと判断したため一度撤退し、部隊を揃えて再び向かった頃には既に港周辺が制圧されていました。」




 対サーマルディア王国戦の作戦の立案を行っていた参謀長の下に、最悪の知らせが届いた。急に沖合に現れた謎の船団によって、付近の護衛任務を行っていた自国の海軍はおそらく全滅し、敵の上陸を許してしまった。


 王都が直接攻め込まれる想定はしていたものの、多くて敵軍の兵数は2000程度と考えていた彼は、驚きが隠せなかった。


 自国も同じような作戦を立てていた以上、逆もまたしかりと普通は考えるが、国内に多数の大河が流れており、かつ海軍に対して莫大な予算を割いているギャルドラン王国首脳部は自国の海軍に絶対の信頼を寄せていた。


 そのため、対応が遅れてしまったのだ。




「敵の兵力はどれぐらいだ。」




「およそ1万と、我が国よりも大きい戦艦と思われる超大型船が10隻ほど確認されております。」




 1万という、想定外の兵力を受け、頭が痛くなる。マルカトに残っている守備隊はわずか2500、万が一の時に王命によってのみ動かすことができる近衛騎士団をあわせても3000ほどしかいない。




 参謀長は、今回の攻撃に関して、最も聞きたくなかった事を尋ねた。




「敵というのはやはりハーンブルク家なのか?」




「確証はありませんが、確信はあります・・・・・・」




「そうか・・・・・・」




 考えうる中で最も最悪なパターンだ。


 となると野戦で勝利をつかむのはほぼ不可能。


 だって彼らは、8倍の兵力差でありながら勝利するほど野戦に強いという情報を得ている。




 残された道は、籠城戦か市街戦か、データが少なく、どちらの方が得意なのかは知らないが、どちらにせよ厳しい戦いになる事が確定した。




「籠城戦か市街戦かなら、籠城戦だな・・・・・・トリアス方面の戦線から、引抜けるだけ引き抜いて来いっ!援軍が到着するまで、死ぬ気でここを守ぞ!!!」




「「「おうっ!」」」




 籠城戦を選んだ彼らは、前線から援軍を呼ぶように命令した。ギャルドラン王国としては、最低でも同数の兵力はもっておきたいところだ。


 それと、彼らには作戦があった。例え、援軍が無理でも、時間稼ぎさえできれば敵には食料の問題があるため、撤退を余儀なくされるだろう。


 そこで、できるだけ時間を稼ぐための作戦をいくつも立案した。




 ハーンブルク軍は、海上輸送によって物資を補給できるとは知らず・・・・・・

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