表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
133/181

第1話 side クレア7

「こんなところにいらしたのですね、クレアさん。」




「ヘレナ様・・・・・・」




 第一艦隊、第二艦隊、第三艦隊の3つの艦隊が揃った、最強無敵のハーンブルク海軍の主力艦隊は、月明かりに照らされた夜の海を東に進んでいた。デュークス島を出発してから1週間後、ハーンブルク艦隊は数時間以内にギャルドラン王国への上陸作戦を開始できる地点で待機していた。


 夜番の兵士以外はほとんど寝静まった夜、何故か眠れなかったクレアは、自身が艦長を務める『秋雨』の艦橋で何もない海とその海を照らす星空を眺めていた。




 そんな私を見つけたヘレナ様が、背後から私に声をかけた。私は、振り返りながら答える。




「美しい夜空ですね。」




「はい。」




「明日は、いよいよ戦争ですね。」




「はい・・・・・・」




 私にとって予想外の出来事であったが、息抜きのはずの船旅は再び戦争への道を進んでいた。


 最近は戦争による疲労のためか、大人しかったギャルドラン王国が、大型船20隻からなる海軍主力部隊というカードを切った事を受け、ハーンブルク家は今が好機とみて大陸西側統一に向けて最後の攻撃を行おうとしていた。いつも通りレオルド様が作戦を立案し、デュークス島にいるうちにすべての艦と情報共有を行った。




 そして先程、明日の午後に上陸作戦を決行するという発表が、レオルド様が出された。




 デュークス島での演習時点で、察しのいい軍人は今回の演習がただの演習ではなく、近いうちに本番が行われる事を想定したものであり、本番同様、強襲上陸からの拠点設営と後続部隊のための橋頭堡の確保の流れを再確認していた。




 上陸作戦決行の知らせが、兵士全員に通達された今日は、海軍全体が良い緊張感に包まれていた。私のような軍艦を預かる者は、その日の航路と艦の点検を行い、準備を万全にしていた。万が一が起きた場合の事も、艦内で共有した。




「ところで良かったのですか?ヘレナ様。貴方様も参戦して。」




「はい、毎回お留守番は辛いですからね。それと、レオルド様がデュークス島よりも『レインシリーズ』の軍艦の方が安全だよ、とおっしゃったので・・・・・・」




「確かにこの艦の方が安全かもしれませんね。」




 デュークス島へ直進してきた、敵の船団およそ20隻の撃滅に成功したハーンブルク海軍ではあるが、まだ敵が残っている可能性を考えると、ここ『秋雨』の方が安全であると考えたのだ。


 結果、最低限の兵士を残して出撃することとなった。


 ちなみにヘレナ様は、どうせならと、レオルド様が乗る『春雨』への乗艦を希望したが、全体の指揮を担う『春雨』は止めといた方がいいということで、上陸部隊である『マウントシリーズ』の後方支援を担当することとなった『秋雨』に乗艦した。




「ところで、何か悩んでいるようですが、どうか致しましたか?クレアさん。」




「え?別に悩んでは・・・・・・」




「ふふふ、嘘は良くないですよ。私たちの仲です、隠さずに教えて下さい。」




 長年の付き合いのせいか、すぐバレた。


 確かにヘレナ様が言う通り悩み事はあった、しかしそれは誰かに話したいという気持ちはあっても話せない内容であり、特にレオルド様やヘレナ様に話すわけにはいかない内容であった。


 私は恥ずかしくてなって、その事を隠そうとした。




「い、いえ。ヘレナ様に相談してもらうほどの事ではありません。」




「そうですか・・・・・・では、私はそろそろ寝ますね。何か悩み事があれば、すぐに相談して下さいね。」




「はい、いずれは・・・・・・」




 そうは答えたが、おそらくこの悩みを彼女に打ち明ける日は来ないだろうな~と思いながら、私は明日の作戦の事を考えて気を紛らわせた。


 私がどれだけ悩んでも、夜空の中央を流れるミルキーウェイは、光り輝いていた。





 ✳︎





「『春雨』より入電、前方およそ10000mに確認された敵船団の推定兵力が判明しましたっ!敵の推定兵力は中型船100隻と小型船200隻です。」




「わかったわ。打ち合わせ通り、本艦は射程ギリギリから主砲の雨を降らせて差し上げましょう。」




「「「了解っ!」」」




 エリナ様からの贈り物として、第二艦隊には第一艦隊と第三艦隊用の無線受信器が運ばれてきた。こちらから送信はできないが、ハーンブルク海軍の司令塔である『春雨』からの指示を受信することができるという優れものであった。


 本当は、全艦分の送受信機があればよかったのだが、流石に間に合わなかったということで、受信専用の無線通信が支給された。




 それのおかげで、先ほどからスムーズな連携が可能になっていた。




 ハーンブルク海軍は、『秋雨』以外の攻撃艦である『レインシリーズ』を前面に展開させて、正面からの殴り合いを選択した。


 余計な作戦を立てるのではなく、迅速に首都を制圧し、戦争を終わらせる事を目的とした。




『春雨』『時雨』『五月雨』『霧雨』の4隻が、猛スピードで全速前進する。


 その後ろを、私が艦長を務める『秋雨』が追いかけた。




「クレア様、まもなく射程圏内に入ります。」




「前方の4つの艦が砲撃を開始したら、本艦も砲撃を開始して下さい。」




「「「了解っ!」」」





『秋雨』の矛は、敵船団を正確に捉えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ