表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/181

第19話 日誌

「レオルド、これ・・・・・・」




 おいちょっと待て、いやだいぶ待て。




 俺の日誌を掴みながら、涙を流がす俺の妻を見て、俺は全てを察した。


 あの日誌は、俺がこの世界に誕生して文字が書けるようになった日から毎週、その週に起きた出来事を書いたやつだ。(最初の方は曜日という概念が無かったため、7、8日に1回)


 最初は、この世界の文字を覚えるために書き始めたやつであったが、いつの間にか習慣となっていた。




 あの日誌の中身は、家族にすら見せた事が無いやつで、見せられない内容がたくさんある。




「どこを見たんだ?」




 俺は、声を震わせながら尋ねた。


 まさか、転生の事がバレたか?




「ここよ。」




「・・・・・・よりにもよってそこか。」




 イレーナが指したページは、俺が最も恥ずかしい内容を書いたページであった。




「私、昔の心境を思い出したわ。」




 それは、去年俺がイレーナとの婚約を決めた時の事が書いてあるページだった。


 俺の日誌を閉じ、自分の胸元で抱きしめたイレーナは、静かに自分の心境を呟いた。




「最初はライバル心だったの。お父様の紹介で貴方の存在を知ってから、会った事すらない貴方にライバル心を抱いていた。初めて会って、目の前でお父様と交渉している貴方を見て、すごいと思ったわ。」




 俺もその時の事は覚えている。 貴族のルールやマナーなんかわからないし分かりたくも無かった俺は、無我夢中で交渉を頑張った。


 俺もイレーナの存在は知っていたが、特に気にしてはいなかった。




「それで、お父様に言われてシュヴェリーンを訪れて、世界が変わったわ。思えばこれが、私の人生初めての旅行だったわね。」




 イレーナは、ギュスターさんの英断というか決断によってハーンブルク領で預かる事となった。


 お母様の手伝いをしながら、我武者羅がむしゃらに頑張っていた。




「大変な事も多かったけど、エリナ様に必死に付いていく日々が続いて、貴方と一緒に色々な所を回って、サッカーの監督をやって、戦争も体験して、それからだんだんと、貴方を好きになって・・・・・・」




 言葉に表すとたったそれだけの内容だが、そこにはとても濃い内容がある。色々な人と出会い、色々な事に挑戦した月日がある。確かに俺は、人生の大半をこの少女と過ごして来たかもしれない。




「貴方の日記を読んで、貴方の心を知って・・・・・・」




 俺は、この日誌に誰にも話せないような当時の心境を書いていた。


 日々の苦労、戦争による心のダメージ、貴族としてのプレッシャー、そして何より家族や嫁達への感謝と愛を書けるだけ書いた。いわばこの日誌は、俺の本音であった。


 きっと彼女は、それを読んだのだろう。


 正直俺には文章を書く才能は全く無いと思うが、きっとこの言葉が彼女の心に響いたのだと思う。




「今幸せならいいじゃ無いか、泣くなよ。」




 俺がイレーナを抱き寄せると、彼女は俺に身を委ねた。俺はとりあえず、イレーナの頭を撫でた。何というか、無性に撫でたくなったからだ。




「私もわからないのよっ!でも自然と、涙が出て来て。」




 きっと、彼女も知らない間に擦り減っていた部分があったのだろう。


 鈍い俺には、何処が悪かったのかわからない。だけど、これだけはアイに聞いてはいけない気がした。




 それから数分後、イレーナは落ち着いたのか、涙を拭いて顔を整えた。


 まだ少し涙の跡が残っていたが、本人としてはこれで満足らしい。




「はいっ!これで私の恥ずかしい話は終わりっ!さて、今回の件についての報告を聞くわ、言い訳があるなら今のうちよ。」




「うっ!」




 お、おいアイ何とかならないか、この状況っ!


 絶対に説教3時間コースだっ!




【・・・・・・自業自得ですね。】




「ですよね〜」




「楽しくなりそうね。思い返してみると、余計にイライラが溜まるわ。覚悟しておきなさい。」




 その後、俺はイレーナにしっかりと絞られるのであった。


 でも今日は、いつもより短かった気がする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ