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第17話 忠告

「こちらです。」




「どうも。」




 案内された部屋は、めっちゃ長い机が中央に置かれた大きな部屋であった。


 俺は、用意されていた椅子に座り、護衛として付いてきた者たちは俺の背後に立った。


 机を挟んだ向こう側には、いかつい男達が何人か立っており、こちらを睨んでいた。


 まぁ当然といえば当然だ。


『L-1』は使っていないとはいえ、『M-3』はもちろんのこと、ナパームも何度か使ったと報告があった。


 見れば、ほとんどの男が包帯を巻いていた。




【我々を案内した一行を除いて、この場にいる全員が帯刀しております。】




 そう。




【おそらく、国王を護衛するためだと思われますが、例の件もありますので、念のため注意して下さい。】




 大丈夫だって。




「国王陛下のおな〜り〜」




 扉の前にいた衛兵の1人がそう叫ぶと、机の向こう側にいた者たちは男女問わず頭を下げた。


 ちなみに、机のこちら側は誰一人として頭を下げていない。まぁ当然だ。




 扉が左右に開くと、王冠を被った初老の男を中心に、ゾロゾロと王族と思われる人たちが入って来た。


 そして、右からおそらく国王、おそらく王太子、おそらく王子の順で座った。


 すると、正面に座った男が口を開いた。




「私は、リトア王国王太子のジュンセ・フォン・リトアだ。」




「・・・・・・」




「・・・・・・」




 あ、俺の番?




【はい、おそらく。】




「ハーンブルク家嫡男、レオルド・フォン・ハーンブルクです。」




 一応まだ嫡男認定はされていないが、まぁ実質的に俺になるのでそう名乗った。




「そなたが、ハーンブルク家の代表なのか?」




「そうですが、何か?・・・・・・」




「噂通り、子供なのだな。」




「はい?」




 王太子は、俺を小馬鹿にするように笑った。どうやら本心から面白いと感じていたようだ。


 ちょっとムカつくが、ここは大人らしくスルー。




「それでは本題に入りませんか?」




「うむ、では要求を述べよ。」




「え?」




 マジかよそこから?


 まさかの伝わっていなかったパターン?




【軍部、もしくは行政部で話が止まってしまったと考えられます。】




 おいおい、この台詞3回目の登場だぞ?




【早口言葉みたいですね。】




 いや違うだろ。




「一つ、我が国への戦争協力として現在運用可能な全ての部隊をヴィスラ河付近に配備し、ポラド王国が接近した際はこれを追い払う。


 一つ、リトア王国は国民に対して税金を徴収する事を禁じる。


 一つ、リトア王国の国民は武器を持つ事を禁じる。この3つですね。」




「何だとっ!」


「そんな馬鹿な話があってたまるかっ!」


「ふざけるなっ!」




 予想通りというか予想外というか、王族の背後にいた護衛と思われる男たちが怒鳴り声を上げた。


 俺は、それらをスルーして目の前の男に尋ねた。




「私はあなたに聞いております、リトア王国王太子。」




「私は・・・・・・」





 ✳︎





 王太子は、大いに迷った。実は彼は、ハーンブルク軍の恐ろしさを実際に肌で感じていた。


 数日前、国中から兵士を集めるだけ集め、傭兵や民兵も合わせて3万という大軍を率いてジア連邦共和国との戦争を行い、大敗した。


 実際、家臣の内の何人かは今回の戦争に反対した。彼らは独自の諜報機関を使ってジア連邦共和国とその背後にいるハーンブルク家の存在を調べていた。


 しかし、リトア王国にとって最も仲が良いと言っても過言ではないほど親交があるポラド王国からの誘いを、リトア王国は断る事ができなかった。




 それは、戦争ではなく一方的な蹂躙であった。最初の内は一進一退の攻防が続いていたが、我々の総攻撃と共に敵が反撃を行い、リトア王国とポラド王国の連合軍は弾丸の雨を正面から受ける結果となった。


 死者(行方不明を含む)は全体の2割ほどに上り、怪我をした兵士は数えきれないほど多かった。




 その後も、敗戦に敗戦を重ね、ついに王都目前まで迫られた。


 もはや、降伏も時間の問題かと思われた時、とてつもなく幸運な知らせがやって来た。




「ハーンブルク家が10億ヴァンの賠償金を支払うだけで、和睦を結んでくれるとの事です。」




「何だとっ!」




「交渉を進めますか?」




「是非頼む。場合によっては50億ヴァンまでなら出そう。」




「はっ!」




 何という幸運か、とその時は神に感謝をしたが、そこから段々と雲行きが怪しくなった。


 交渉が難航したため、王太子である私自ら交渉して欲しいという要望が軍部からやってきた。私はもちろん、すぐにそれに了承した。




 そして当日、ハーンブルク側の要求は、事前の説明とは全く違うものであった。




 一つ、我が国への戦争協力として現在運用可能な全ての部隊をヴィスラ河付近に配備し、ポラド王国が接近した際はこれを追い払う。


 一つ、リトア王国は国民に対して税金を徴収する事を禁じる。


 一つ、リトア王国の国民は武器を持つ事を禁じる。




 流石にどう言った意味なのかわかる。


 もはや、国としての機能を完全に失う内容であった。


 この国は、終わりを迎えたという事だ。




 考えた末、私は覚悟を決めた。




 その時であった。




「少々よろしいですか、王太子殿下。このような大事な決断、流石にこの場で決めるのは荷が重いと思われます。一度、休憩を挟み、落ち着かれるとよろしいでしょう。」




 私が決断を下そうとした直後、私の背後に控えていた1人が、そっと私にそっと耳打ちをした。


 誰かはすぐにわかった。


 私の昔からの友人で、妻を除けば王宮の中で最も仲が良い存在であった。




「・・・・・・そうだな。誰か、菓子を持って来てくれ。」




「はっ、すぐに。」




 彼が一礼するとすぐに、用意してあった菓子と紅茶がテーブルに座っている全員分運ばれて来た。


 紅茶は、我が国の特産品であるが、ハーンブルク領でも作られていると聞いたので、おそらく知っているだろう。




「どうも。」




 机の上に置かれると、彼は丁寧にそれを取った。私が一口飲むと、彼も同じように口をつけようした。


 彼の背後にいた護衛の1人は毒味を申し出たが、彼はそれを拒んで勢いよく口にした。




 直後、






 パリン・・・・・・






 私の考え得る選択肢の中で、絶望を告げる音が特別応接室に鳴り響いた。

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