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第10話 sideヘレナ5

「ヘレナ様、レオルド様からお手紙が届いております。」




「わかりました。ここに持ってきて下さい。」




「はっ。」




 ハーンブルク領首都シュヴェリーンに新しくできた宮殿の一室で、ヘレナは仕事をしていた。


 元々は大きな館をハーンブルク領の中心としていたが、人口の増加に伴う公務員の増員によってスペースが無くなったため、新たなハーンブルク領の中心を建設する事になった。


 様々な案が出される中、まだあまり都市開発が進んでいないシュヴェリーンの西側に巨大な宮殿を建設しようというレオルドの案が採用された。




 防衛を目的とした城ではなく、シュヴェリーンの中心にふさわしい美しい宮殿の建設が行われた。


 真っ白な宮殿は多くの領民を魅了し、バビロン宮殿と名付けられた。




 以後、その内の一区画がレオルド、ヘレナ、イレーナの部屋となり、それぞれは基本的にそこで生活をしていた。




「レオルド様はやはり食いしん坊ですね。」




 私は、レオルド様から送られて来た手紙を読みながら呟く。レオルド様とイレーナ、エリナ様がシュヴェリーンを出発してから既に3ヶ月ほどが経過し、だんだんと3人が恋しくなって来ていた。


 最初は私もついて行こうと思ったが、レオルド様を含め多くの人々に反対されたため、大人しく留守番をする事になった。




 だいたい、2週間に1通のペースで私の手元に手紙が届き、私はそれをとても楽しみにしていた。




 ちなみに、書かれている内容は、基本的にその日に食べた物や体験した出来事についてだ。




 レオルド様は、色々な方面で活躍している私の自慢の夫であるが、時々抜けている所がある。


 特に、結婚してほぼ同居のような生活をしている最近は、面白いレオルド様を多く目撃している。この間も、私とイレーナが2人でお風呂に入っていたところに乱入してきたりした。


 私は結婚をしているし、あんまり気にしなかったが、イレーナはそれが嫌だったらしく、こっ酷く叱られていた。


 ちなみに、イレーナは終始顔を真っ赤にしており、とても恥ずかしそうにしていた。




「ヘレナ様、顔色がとてもよろしいですが、何かいい事ありましたか?」




「はい、今回も楽しませていただきました。政務の疲れがとれます。」




「お仕事ご苦労様です、ヘレナ様。」




 エリナ&イレーナ&レオルド(アイ)という、書類整理の鬼が3人も抜けた結果、現在ヘレナが先頭に立って政務を行っていた。元は王太子の娘という地位であったヘレナは、幼い頃からイレーナと共に英才教育を受けており、たいていの業務ならこなせる。


 しかし、ハーンブルク領の業務の多さを舐めてはいけない。


 特に、戦時中の今は平時の1.5倍ぐらいの仕事が舞い込んで来ていた。




「ヘレナ様、続いてイレーナ様からの手紙も届いております。」




「ありがとうございます。」




 続いて、イレーナから送られて来た手紙に目を通した。


 そこには、何とも羨ましい内容が書いてあった。




「レオルド様、私がいない間に・・・・・」




 レオルドの前では、ツンツンしちゃうイレーナであるが、幼馴染であり実の姉妹のように育てられて来たヘレナに対しては、本音で語り合う仲であった。




 手紙には、疲れて先に寝ちゃったレオルドにいたずらをしたという報告や、レオルドに優しくしてもらった事などが事細かに書かれていた。


 羨ましいと思う反面、少し嫉妬してしまう。




 特にこの、手を繋ぎながら一緒に寝たというエピソードが羨ましい。


 私は今のところ、同じベッドで寝たことすら無い。同じ部屋を与えられた私達であるが、寝室は今のところ別々だ。


 何度か、レオルド様の部屋に忍び込もうかと考えたが、恥ずかしくて出来なかった。




 しかし、野宿となれば話は別だ。荷物をできるだけ減らすために、レオルドとイレーナは同じ部屋の同じところで寝ていたのだ。




「このような自慢を無意識に行なっているのがズルいですよね・・・・・・」




 手紙を読みながら、私は無意識に呟いた。直後、慌てて首を振ってそれを否定する。


 私とレオルド様は、念願の夫婦となったのだ。そんな小さな事を考えて仕方がない。


 でもやっぱり少し羨ましくて・・・・・・




「よし、政務に戻りますか。」




「ヘレナ様、少し休憩を挟んだ方がよろしいかと・・・・・・」




「ふふふ、心配ありがとうございます。ですが、レオルド様からの手紙で既にパワーをもらいました。」




「わかりました、何かありましたら、すぐにお呼び下さい。」




 そう言うと、私の護衛である女騎士は、執務室から出ていった。


 そして再び、1人きりの静かな時間が訪れた。




 気配が消えた事を確認した私は2通の手紙を持って立ち上がると、1番隅の机の引き出しを開けた。




 そこには、私が愛する2人であるレオルド様とイレーナからもらった手紙が大切に保管されていた。




 私は、1番手前に今日もらった手紙をしまうと、ゆっくりと引き出しを閉じた。




「さて、お二人に向けたお返事の手紙を書きましょうか。」




 再び席についた私は、2人に向けた手紙を書く事にした。

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