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55/58

55.キス魔だってさ

 とある休日。

 僕の家。

 今は篠宮さんと一緒に宿題をしてる。


 ……という体でのお家デート。


 それで僕たち、


「えへへ~」


 ギュッ~!


 くっついてる。

 正確に言うと篠宮さんから一方的に。


 最近の篠宮さん、誰もいないところで2人になると、こうやって僕に抱き着いて甘えてくる。

 それも結構強めに。


「冬木く~ん」


 スリスリ、スリスリスリ


 この子、ちょっと僕のこと好き過ぎない?

 いや、別にいいんだけどさ。

 好き過ぎなあまりこういうことするんだよね?

 なら悪い気はしないし、彼氏である僕に存分に甘えるといいよ。


 だけど、


「……篠宮さん」

「ん~? なにかな?」

「これじゃ宿題がいつまでも終わらないよ。篠宮さんもまだだよね?」


 もうかれこれ30分はこうしてる。

 ずっとこうしていたいのは分かるけど、そろそろ離れてよ。


「それにこういうのは、宿題が終わってからでも」

「ん~? そう言う冬木くんだって、2人っきりの時はよくキスしてくるよね」

「それは……」


 まあ、そうだけど。


「冬木くんの方こそ人のこと言えないと思うんだ。っていうかこういうの関しては、冬木くんの方が酷いと思う」

「そうかな? そんなことないと思うけど」

「そうだよ。冬木くんが私のことだ~い好きなのはよく分かるんだけど、ちょっと頻度が多すぎるんじゃないかな?」


 ……多いかな。


「うん。それにさっきもしてきたし、キス魔だよ」


 僕が、キス魔……?


 いや、


「そんなことないよ」


 僕たちは付き合ってるんだから、登校は基本、できれば昼休み、下校の時は絶対。

 最低でも一日3回はしないと。

 恋人なんだからさ。

 

「篠宮さんだって嫌じゃないよね」


 僕とキスするの。


 だから、


「だから私もこうやって~、冬木くんに抱き着いてるんだよ~」


 ギュッ~!


「もう、篠宮さんは……」

「えへへ~」


 仕方ないな。

 もうちょっとだけだよ。


 はあ、僕ってホント篠宮さんに──


 スー、スー


 ……って、

 

「あっ、ちょっと篠宮さん、またそうやって……」


 どさくさに紛れて何やってるのさ。

 そうやって僕の身体に直接顔を埋めないでよ。


「え~? でも冬木くんから良い匂いするよ?」

「それやめてって何度も言ってるよね。匂いを嗅がれていい気はしないよ」


 例えがそれが彼女相手でもね。

 抱き着くだけならまだしも、匂いを嗅ぐのはアウト。

 うん、完全にアウト。

 レギュレーション違反だよ。


「篠宮さんだって嫌だよね? 僕に匂いを嗅がれたら」

「ううん、べっつに~。私はイヤじゃないかな~」

「あんまり酷いようだと、それも禁止にするから」


 抱き着くの禁止令、背中に貼るよ。ピタッ


「え~、じゃあキスも禁止だね」

「へっ? いや、それはちょっと……」


 お預け?

 えっ、そんなの普通に堪えられない。


「フフッ、じゃあ私も続けるね」


 ギュッ~!


 篠宮さん。

 なんだか毛布の件以来、僕に一切遠慮がないような、明らかに一線を越えきてる。

 漫画の件でさらに加速してるような……


 これは、リミッターが外れてる? 

 これが素?

 親といる時もこんな感じなの?


 おかしいな。

 初期の頃はもっとおしとやかで、節度ある距離感だった気が……

 いや、意外とこんな感じだった?


「はあ、こうしてる時が一番幸せだよ~」


 まあ、これはこれで僕は構わないけど。

 ありのままで接してくれるってことは、それだけ信頼されてるってことだからね。

 うん、悪い気はしないよ。


 それにしても、


「篠宮さんってさ、ホント僕のこと好きだよね」


 好き過ぎ。

 彼氏として悩みが尽きないよ。


「そうかな~? 冬木くんの方こそ絶対そうだよ。私のこと大好きだよね?」


 ずっとくっついてる子がそれを言う?

 しかも人のベッドの上で。

 説得力皆無だよ。


「そんな、篠宮さんには負けるよ」

「え~、冬木くんには勝てないよ」

「いいや、篠宮さんには遠く及ばないよ」

「ううん、冬木くんの方だよ」

「篠宮さん」

「冬木くん」


 これは、少しお仕置きが必要かも。

 うん、お姫さまの刑。


 篠宮さんの身体をゆっくり倒す。

 さりげなく。


「中々強情だね、篠宮さん」


 僕が上で、じ〜っ、見つめる。


「冬木くんこそ、いい加減負けを認めなよ」


 この後に及んで意地っ張り。

 でも可愛い。


「目を閉じて、篠宮さん」


 スッ……


 閉じてくれたね。


 あとは、顔をゆっくり近づけて、


 篠宮さんと──


「フンッ!」


 バッ! ゴロンッ!


「……あれ?」


 なんで篠宮さんが上に?


 目を閉じた瞬間、急に視界が反転した。

 今、一体何が起こって……


「フフフ、油断したね、冬木くん」


 今度は僕が両腕を抑えつけれて、う、動けない……

 そんな、あの態勢からひっくり返してくるなんて。


「あれれ~? お仕置きするんじゃなかったのかな~?」

「くっ……」

「あっさりと返されちゃったね。やっぱり冬木くんって可愛いね」


 グググ……


「ほらっ、今わたし、また可愛いって言ったよ? どうかな? こう言われると嫌なんだよね? 嫌なら私をどかしてみなよ」

「っ! このっ!」


 うぎぎぎ、ぜ、全然動かない……

 篠宮さんの力が強すぎてビクともしない。


 この態勢、どうあがいても無理そうなんだけど。

 なのに、篠宮さんはどうやって……


「いいのかな~? このままだとまた私にされちゃうよ? 嗅ぎ放題だよ~」

「フッ! フンッ!」


 だ、ダメだ……


「いい加減負けを認めなよ。冬木くんじゃ私に勝てないよ」


 だ、誰がそんなこと……


「強情だね。あっ、そうだ。たまには私からするっていうのも悪くないかな」


 うぎぎぎぎぎ!


「じゃ冬木くん。目、閉じよっか?」


 くっ……


「大人しくしなよ」

「し、篠宮さん……」

「う~ん?」

「い、痛い……っ」

「あっ」


 バッ!


 解放された。

 

 はあ、腕が痛い。


「ごめんね、やり過ぎちゃった」

「んっ、いいよ。僕の方もちょっと強引だったね」


 悪ふざけはお互い様。


「でも跡がついてるよ……」

「いいんだ。やっぱりちゃんと筋トレしないとね」


 いざって時に彼女を押し倒せないなんて、お話にならないよ。


「そうだね。うん、次は期待しようかな」


 うん、とりあえずそういう方針で。


「じゃあ、気を取り直して……するよ、篠宮さん」


 続き。


「うん、いいよ」


 とりあえず今はこれで。


「ん……」


 篠宮さんが目を閉じた。


 で、僕も。


 ゆっくり、顔を近づけて、


 ──バンッ!


「篠宮さんいるー? この前貸したマンガの続きを……って、あっ」


 ……あっ


 ね、姉さん……


「最近の子って、その、進んでるのね……」

 

 あの、姉さん。

 ホント何とかしてよ。

 そういうところだよ、ホント。






 ──そして、


「どうしたの? 篠宮さん」


 何やら神妙な感じで自分のお手てに目をやってさ。


「冬木くん、私……ううん、なんでもない」

 

 僕の方を見たと思ったら、すぐに視線を元に戻す。

 まるで何か迷ってるみたいに。


「篠宮さん?」


 なに?

 その不安そうに僕を見る目は、

 

 ……違うかも。


 これは、


 ゴゴゴゴゴゴ……



 篠宮さん。

 その、なんか怖いんだけど。

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