31.チェンジで
──で、
「そんなことがあってさ」
「へえ~、私がいない時に、そんなことが……」
「うん、それでその後、2人にこっぴどく叱られてさ。もうすごい大変だったんだ」
あれから3日後の月曜日。
今日も篠宮さんとお昼を食べてる。
例の、僕の警護をしてくれてるんだ。
それで、この前のことを篠宮さんに話してる。
一応報告しておくのが義務だと思ったんだ。
「母さんと姉さん、2人とも思いっきり勘違いしてた。そう見えても仕方がないってのもあるけど、しばらく引きずってて……はあ、最悪の土日だったよ」
2人の僕を見る目。
なんか居心地が悪かったし。
あんなに辛い休日は初めてだったよ。
違うって言ってるのにさ。
「そっか。でも、もしお姉さんが来てくれなかったら危なかったね。冬木くん」
たしかに。
実際問題、僕、襲われそうになってたワケだし。
あのまま姉さんが来なかったら、綾瀬先輩にキスされた。
僕の大事なファーストキスを奪われるところだった
一つ年上とはいえ、女子に力負けする僕。
我ながら情けない話だけど、一人の時に強引に来られたら危ないかもしれない。
うん、夜道には気をつけるよ。
「どうしよう、流石にずっと一緒は厳しいよ……」
「そうだよね」
「塾もあるし、何とか休ませてもらえないかな。でもお母さんは絶対認めてくれないだろうし」
どうしようか。
まあ、僕がしっかりしていれば問題ない。
そこについては自信あるんだけど、まあ、慢心しすぎも良くない。
もしまたこの前みたいに力づくで来られたら……
とりあえず引き続き警戒していくしかない、かな。
「う~ん……」
でも綾瀬先輩、言ってた。
自分の全てを知って欲しい。
汚いところも、全部知って欲しいって。
普通、そんなこと思う?
少なくとも僕だったら、好きな子に情けないところは見られたくない。
篠宮さんの前ではカッコいいところだけを見せていたい。
なのに先輩は……
全てを理解して欲しい系の人?
その上で自分を受け入れて欲しい人?
まだよく分からないけど、この違和感。
男女の決定的な違いってヤツ?
おや? 僕はまた知ってしまった?
「ねえ、冬木くん」
……ん?
「なに?」
「あの、お姉さんさ、私のことで何か言ってなかったかな?」
「姉さん? なんで?」
またなんでそんなことを聞くの?
「べ、別に。ただ私なんて眼中に……いや、特に理由があるワケじゃないけど」
うーん?
……あっ、篠宮さん。
ひょっとして姉さんのこと怖がってる?
大丈夫だよ。
たしかに怖い時もあるにはあるけど、よその子には基本的に優しいから。
たまにあからさまに機嫌が悪い時があるから、そこさえ気を付けてれば問題ない。
それにさ、
「篠宮さんのこと可愛いって言ってたよ」
うん、僕もそう思う。
珍しく意見が合う。
「へっ? 可愛い……? 私が?」
「そう、篠宮さんが。だって姉さん、僕を説教する時に『あんなに可愛い子がいるのに浮気して~!』って、口を酸っぱくして何度も言ってくるんだ」
まだなのに。
篠宮さんとはまだそういう関係じゃないのに。
姉さん、僕たちのことも色々勘違いしてる。
「一々分かってることを何度も言ってきてさ。もうしつこくてしつこくて、耳の穴がおかしくなるよ」
篠宮さんは可愛い。
そんなこと、身近にいる僕が一番よく分かってる。
一々姉さんに諭される義理はないよ。
「うぅ……そんな、私は別に可愛くなんて……」
篠宮さん、顔が真っ赤だ。
この子ってさ、普段人には平気で可愛いって言ってくるくせにさ。
いざ自分が言われると照れるんだよね。
まあ、そういうところも篠宮さんらしくてまた可愛いんだけど。
ニコニコ
「……なにかな?」
「別に。ただ見てただけ」
「ホントかな? そういう冬木くんの目、なんだか生温かいよ」
「そう? 気のせいだよ」
「そうかな? うぅ、恥ずかしい……」
うん、やっぱり可愛い。
──ガラッ!
ん?
このドアを開ける音は……
「──やっ、冬木君、おはよう!」
来た。
やあ、もうお昼だよ、綾瀬先輩。
今日は月曜日、やっぱり来たか。
この人はホントに、懲りというモノを知らない。
「冬木くんっ! んっ!」
バッ!
あっ、篠宮さんがまた臨戦態勢。
素早く僕の肩を持って、自分のところに引き寄せる。
そのまま即座に相手を威嚇。
こうやって先輩から僕を守ってくれるんだ。
正直、こういうのすごい好……安心感。
僕を取られまいとここまでしてくれる篠宮さんが、とにかく嬉しい。
フフフ……綾瀬先輩。
残念だったね。
そうだよ。篠宮さんがいる限り、僕を略奪することは永遠に叶わ──
「篠宮さんも! おはよう!」
「……へっ?」
えっ? いま篠宮さんに口きいた?
そんな、地味に初めてなんじゃ。
近くにある机を持ってきて、
僕たちの机に、ガコンッ!
そのままスッ、着席。
先輩が無理やり入ってきた。
えっ、篠宮さんがいるのに?
おかしい。
いつもはここで撤退するはず。
なんで? 篠宮さんの威嚇が効いてない?
「フフフ~ン♪」
なんか心なしかルンルンしてるような……
鼻歌なんて歌っちゃって。
土日に何かいいことでもあった?
「この前はごめんね? 急に絡んできて」
「あっ、いや、僕の方こそ。姉さんが勝手に……」
なんで僕も謝ってるの?
「それっ! それだよ冬木君!」
「えっ?」
「ふ、冬木君のお姉さんってさ……その、綺麗だよね」
「……へっ?」
あっ、いま篠宮さんと声がハモった。
「良かったら私に紹介してくれない?」
なんで顔が赤いの?
なんでそんな照れてる感じなの?
えっ、この人を?
それはちょっと……
姉さんに変な人は紹介できないよ。
僕のイメージも悪くなるし。
一応確認、
「紹介って、その、僕の姉さんを?」
「そっ!」
ズイッ
「いっ⁉」
ビクッ
僕たちに顔を近づけてきた。
篠宮さんの張った結界にいともたやすく踏み込んできた。
僕もそうだけど、篠宮さんもビックリ。
心臓に悪いからやめて欲しい。
「下の名前はなんて言うの? 制服からして高校生だよね。冬木君とは何歳差? ねえ、趣味は?」
「ちょ、ちょっと……」
「ドラマはなに見てる? 好きな人とかいる? 誰か付き合ってる人とか。ねえ、ねえ、教えてよ」
「先輩、落ち着いて……」
め、めっちゃストレートに聞いてくる。
なんかいつもよりテンション高いし、目もすごいキラキラしてる。
僕の時の比じゃないよ。
「なんでもいいから! ねっ! お願い!」
なんでそんなに必死なのさ。
どうしよう、悪いけど先輩には何も教えたくない。
嫌な予感がするし。
第一、それを知ってどうするのさ。
「冬木君〜、お願~い。あっ、篠宮さんは?」
「へっ……私?」
「そっ! 冬木君のお姉さんとはどう? 会ったことある?」
「い、一度だけ……」
「ホントに⁉ すごい美人だよね!」
「は、はい……」
今度は篠宮さんに顔を近づけてる。
距離感バクってない?
「えぇ……冬木くん、なにこの人……」
篠宮さん、あからさまに引いてる。
ドン引きならぬ、D引き。
ごめん、僕にも分からない。
「出来れば連絡先とか交換したい。でもってお友達に、なんて……」
キャッ♡
……綾瀬先輩、一体どうしたんだろう。




