23.思い出の場所
「この公園、覚えてる?」
この公園……
ここはたしか、僕のランニングコースの折り返し地点。
……いいや、違う。
ここは昔、篠宮さんと初めて会った場所。
放課後にいつも篠宮さんがいた、僕にとって特別な場所。
覚えてるか、だってさ。
そんなの、僕が忘れるワケがないよ。
「じゃあこれはどうかな? あの頃、上級生に絡まれてた女の子がいたよね?」
うん、いた。
「あの時ね、冬木くんが助けてくれた女の子……実はそれって、私なんだ」
うん。
「知ってる」
「そっか」
篠宮さん。
全部、覚えてくれてたんだ。
そっか、でもこの気持ちはなんだろう。
嬉しいのはそうなんだけど。
なんて言うか、この妙なつっかかりは……
「私ね、ずっと謝りたかったんだ。ちゃんと謝らなきゃって、ずっと思ってた」
篠宮さん、そんなこと考えてたんだ。
僕といる時にずっと。
ごめん、そうとは思わなかったよ。
「本当は転校初日に言うべきだったのに。だけど冬木くんと話してるとね、その、思いのほか楽しくて……それで中々切り出せなくて」
言われてみると、たしかに。
いい機会、タイミングとか全然無かった。
ごめん篠宮さん。
「このままじゃダメだって、だから思い切って映画に誘ってみようって、それで……ごめんね。最後にこんな話に付き合わせちゃって」
「ううん、そんなことない」
「嫌な記憶を思い出させちゃったよね」
「いや、僕の方こそ配慮が足りなかったよ」
篠宮さん、そんなに悩んでいたのか。
そっか、なら僕の方から言うべきだった。
「違うよ。これは私が原因なんだから、私から言わないとダメだよ。冬木くんは何も悪くないんだから」
「でも篠宮さんのせいでもない」
「ううん、私のせいだよ。だって私、あの時怖くて何もできなかった。ただ冬木くんが傷つくのを見ていることしか……」
やっぱり見られてたか。
僕が上級生にボコられてるところ。
すごい泣き叫んでたし、何もできなかった。
酷いところを見せちゃったね。
「私、あの時の自分が許せないよ。だって、昔の冬木くんはもっと……なのに私が……っ……冬木くんを変えちゃった」
「そんな、何もそこまでは」
「ううん、その右目だってそうだよ。だって、だってあの時……私の、私のせいで、冬木くんがあんな目にあって……」
篠宮さん、そこまであの日のことを引きずってたんだ。
そっか、責任を感じてたんだね。
きっと僕なんかより、ずっと深い傷を負って……
「ごめん、ごめんね、冬木くん……」
でもね、篠宮さん、
「違うよ、篠宮さんは何も悪くない。あれは僕がやりたくてやったんだ」
そう、勝手にやって勝手になったこと。
篠宮さんこそ何一つ非なんてない。
「だからそんな悲しそうにしないで篠宮さん、僕の前でそんな顔を見せないでよ」
どのみち両親の都合で転校してたワケだし。
たぶん、目のことを抜きにしても転校先では馴染めなかったと思う。
元々こうなる素質があったんだ。
そうだよ、今の僕とそう大差ない僕がそこにいた。
「それに、いいんだ。別に後悔してない。この件で悔やんだことは一度もないから。うん、僕は大丈夫だから」
だからもう悩まないで。
これ以上重荷にしないでよ。
身体の痛みよりも、そっちの方が辛いから。
「だからお願い、泣かないで、篠宮さん」
僕もつられそうだからさ。
「冬木くん……っ……冬木くん」
「ん、これ」
はい、僕のハンカチ。
「これじゃ、せっかくの可愛い篠宮さんが台無しだよ。ほらっ、こっち向いて」
明日は学校だよ。
目が腫れると篠宮さんも困るよね。
僕も困るからさ、跡がついて酷くなる前にふき取ってあげる。
こんな顔をして欲しくて助けたワケじゃないからさ。
だからさ、早く泣き止んでよ。
「んっ……うぅ……」
ごめん、篠宮さん。
こういうのあまり慣れてなくて。
上手くふき取れてるかな。
「……ねえ、冬木くん」
「なに、篠宮さん」
「目、まだ痛い?」
「もう痛くないよ。とっくの昔に治ってる」
「そっか」
仕上げに、ギュッ、ギュッ
よし、これで元の可愛い篠宮さんだ。
「ありがとう、冬木くん」
良かった。
泣き止んでくれたみたい。
まだ少し作ってる感じだけど、とりあえずいつもの笑顔に戻ってくれた。
それにさ、
「篠宮さん」
「んっ、なにかな?」
「……また会えて良かった」
篠宮さんに。
それが何より嬉しいんだ。
「へっ? あっ、わ、私も……冬木くんに会えて嬉しいよ」
「うん、僕もそうだよ」
「うぅ……」
照れてる篠宮さん、やっぱり可愛い。
「篠宮さん」
「な、なにかな?」
「別に。ただ呼びたかっただけ」
篠宮さんって。
「わ、わざとやってるのかな?」
「さあ? どうだろう、僕にも分からない」
「なにそれ、意地悪だよ。今日の冬木くん。それに……」
「篠宮さん」
「ふ、冬木くん……」
今の僕たち、見つめ合ってる。
お互いに目が離せないって感じ。
これはちょっと良い雰囲気かも。
まあ、僕がこの状況に無理やり持って行ってるからなんだけど。
うん、僕が顔を近づけてる。
篠宮さんがどう思ってるかは分からない。
でも、これは、このまま目を閉じれば。
そう、映画のワンシーンみたいに。
「うぅ……」
フイッ
……って、あっ、そらされた。
篠宮さん、この間に耐えられなくなったか。
僕が目を閉じる前に、先に顔を下の方に向けられた。
もう、大事なとこで照れないでよ。
「い、今のはズルいよ、冬木くん……」
これは、僕の勝ち?
いや、今のはちょっと攻めすぎだったかな。
まあたしかに、弱ってるところを狙うのは反則だよね。
ごめん篠宮さん、反省するよ。
「もう……あっ、冬木くんは覚えてるかな? 昔よく一緒に遊んでたこと」
篠宮さん、急になに?
また懐かしいね。
「覚えてるよ。よくヒーローごっことかやってたよね」
「そう! 当時の見てた戦隊モノ! それであの時の冬木くん、どの色にするかで私とよく揉めてたよね」
「あー、言われてみればそうだった。よくレッドを取り合ってたね」
どっちも譲ろうとしなかったよね。
ホントは僕が譲るべきだったんだけど、当時は若かった。
で、最終的にどっちもレッドにして無事解決。
シャキーンッ!
ついでにみんなもレッドで統一してた。
「かくれんぼの時にさ、僕と篠宮さん、よく同じ場所に隠れてたよね」
「あ~、それはね~、冬木くんはかくれんぼが上手だったから、一緒に隠れてれば見つからないかな~って」
そうだったんだ。
で、最後まで見つけて貰えなくて、篠宮さん共々忘れ去れたこともあった。
みんな酷いよね。
「あとゾンビごっこしてる時、たしか篠宮さん、僕の腕に噛みついたよね」
「え~、そんなことあったかな?」
「あったよ。だってそれで感染して僕もゾンビになってたし。それであの時の篠宮さん、思いっきり噛んでくるもんだから、しばらく歯形が残って痛かったよ」
それはもう、ガブッて。
まさか忘れたとは言わせないよ。
「あっ、いやそれは……だって冬木くんの腕、柔らかくて美味しそうだったから、つい」
「ほらっ、やっぱり覚えてる」
「うぅ、ごめんよ。あの頃の私って、自分でもちょっとおかなところがあって……」
一応自覚あったのか、篠宮さん。
「あっ、今はどうなのかな? 冬木くんの二の腕」
ひえっ、目が捕食者のそれ……
「なんて、フフッ」
冗談じゃないよ、篠宮さん。
「いつから気づいてたのかな? 私があの頃の私だって」
「最初からだよ。転校初日、目が合った時から。あの子だって」
「へえ~、よく分かったね」
「うん、よく見てたから」
「そ、そうなんだ」
ふん、少し髪型を変えて眼鏡をかけたくらいじゃ、この僕は騙せないよ。
ふん、ふん。
「そう言う篠宮さんこそ、よく僕だって分かったね。ほらっ、僕ってあの頃と結構変わってたでしょ?」
目も前髪で隠してたし、特に雰囲気とか、僕からにじみ出る負のオーラとか。
「ううん、私も一目で分かったよ。だって私を助けてくれた恩人だよ? 忘れるなんてありえないよ。それとも何かな? 冬木くんの中の私って、そんなに薄情な人間なのかな?」
「そうじゃないけど、ただ篠宮さんってちょっと天然入ってるから……」
たまに明代ちゃんと間違って違う人に声かけてるし
「んなっ⁉ 入っていないよ! アレかな! 冬木くんは私のことバカって言いたいのかな!」
「いや、何もそこまでは……」
そこ突っかかるポイント?
イマイチ分からない。
「今のはちょっと聞き捨てならないかな! それに不思議くんの冬木くんにだけは言われたくないよ!」
んん? 僕が不思議くん?
「いや、そんなことないと思うけど」
「ううん、絶対そうだよ。だって冬木くん、いつも窓の外ばっかり見てるよね。しかも窓を向いたまま全然動かないし。はたから見るとアレ、すごい変だよ」
いや、それは……
そんな、僕って周りの人からはそう見えてる?
でも残念、
「どうかな、篠宮さんには負けるよ」
人のこと言えないと思うんだ。
ほらっ、この子ってさ、気にするポイントが人とちょっとだけズレてるんだ。
たまに授業中にボーッしてると思ったらニヤニヤしてるし。
基本的に何を考えてるのか分からない。
イマイチ掴みどころのない、不思議な子。
そう、篠宮さんは不思議ちゃん。
「あ~っ! 冬木くんのその顔! 生意気だよ!」
「いや、僕は常時こんな顔だけど?」
「むう~、可愛い顔をしてるくせに~!」
「ふん、可愛いのはどっちさ」
そして、うん。
しばらくこんな調子で話をして、
「でね~……あっ、もうこんな時間だ。空も暗くなってきたし、そろそろ帰らないと」
「そうだね」
すっかり話し込んじゃった。
思い出話って時間を忘れるくらい楽しいんだね。
それじゃ長話はもう終わりにして、この辺で失礼するよ。
席を立って公園を出る。
「冬木く~ん」
ギュッ!
……って、
「なに? 篠宮さん」
急に僕の肩に寄りかかって。
すごい歩きづらいんだけど。
「少しだけ帰る道一緒だよね?」
「そうだけど、それが?」
「それまでいいから、ちょっとこうしていたいな」
「別に構わないけど」
それはつまり、僕に甘えたいってこと?
そんな……いいよ、篠宮さんなら。
キミがそうしたいなら。
別れるまで思う存分そうするといい。
僕も悪い気はしないし。
「えへへ~、ずっとこうしたかったんだ~」
篠宮さん、すごい懐いてくる。
ギュ〜!
でも、なんだか懐かしい。
と、ここで前半は終わりです。
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