09 出立
なんだかんだと長居してしまって、この村に来てそろそろ半月、
採取専門冒険者、頑張ってます。
主に、山の幸ですが。
ざらめ蟹は、禁漁期間になったのでお預け。
蟹漁の解禁期間は、年に数回の短い間のみ。
年に複数ある繁殖期との兼ね合い、つまり、お蟹さまの都合に合わせるってことだそうで。
なので、あの美味はしばらくお預け。
コリショーさんのリクエストで、旬の山の幸を採ってくる毎日。
苦味の中のほのかな甘さがクセになる、もずく桜の若芽の天ぷらとか、
バニラのような香りと濃厚なコクの、うぶ毛蜂の巣から採れる希少なハチミツとか、
シュワシュワした果汁が炭酸飲料みたいな、爆弾小桃のシロップ漬けとか。
サイコーっすよ、旬の山の幸とコリショーさんのコラボ。
なんだか最近、マーリエラさんの距離が近い気がしないでもないけど、
真面目に採取してるだけですから。
人間関係で冒険はしませんってば。
ってか、例のバカ息子がちょいちょいウザ絡みしてくるんだけど。
あいつ多分マーリエラさんに惚れてるんだろうな。
村のみんなもそれとなくフォローしてくれるし、こっちから近付かなければ実害は無し。
でも、用心棒先生に命じて闇討ちとかされると困っちゃうね。
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「……そろそろ村を出るのか」
はい、路銀も貯まりましたし、これ以上アレとの関係をこじらせて村のみんなに迷惑かけたくないので。
「おう、アレのことは心配するな」
「村の問題は、俺らで解決してみせる」
「それがケルミシュで生きる者の心意気ってもんだ」
はい、この村の人たちが強く生きてるってことは、流れ者の俺にも分かります。
だから心配はしていませんが、感謝は忘れません。
コリショーさんには、大変お世話になりました。
「おう、今までいっぱい世話したんだから、ちょっとぐらいお節介のおかわりしてもいいだろ」
……それってもしかして。
「俺が冒険者してた頃のお古で悪いけどな」
「ノアルさんみたいな採取メインの冒険者なら、こっちの方がいいだろ」
マジックバッグ、ですよね。
「開放型・中容量・時間経過無し・生き物不可、だな」
「腕のいい魔導具技師に特注で作らせたもんだから、まだまだ現役で使えるだろ」
「餞別が、俺みたいなおっさんの汗が染みついたもんで悪いんだけどな」
……ありがとうございます、大切に使わせてもらいます。
「おう、オーバンに着いたら、ヒルデュ河沿いにある"メタボ亭"っていう宿がオススメだそうだぞ」
「安くて清潔で飯が美味いって旅商人から聞いたことがある」
「アッチ方面のサービスもいいらしいが、ノアルさんにはちょっと刺激が強すぎるかもな」
その話し、詳しく!
「冒険者なら自分の身体で確かめな」
「すぐに出るんだろ」
……はい、今日は夜通し歩こうかと。
「そのバッグに弁当を入れといたから、夜食で食ってくれ」
「それじゃ、元気でな」
コリショーさんもお元気で。
キルヴァニアをのんびり見て回ったら、また寄らせてもらいます。
「おう、達者でな」
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半月も居るとそれなりに顔見知りも増えたけど、
まあ、所詮旅人ですから、挨拶無しの別れもアリってことで。
あらかじめ旅支度の準備していた愛用のリュックを丸ごとマジックバッグに入れたら、
村の南口からこっそりと出て、夕暮れの街道をオーバン目指して徒歩の旅。
いつも通り、極力争い事は無しで行きたいね。




